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子どもの人権と少年法に関する特別委員会

子どもの人権と少年法に関する特別委員会

 

少年事件Q&A

 
少年事件に関しての質問一覧
初めて少年事件を担当するが,少年との面接ではどんな点に気をつければよいか。
少年の虚偽の自白を防ぐために,捜査段階でどのような活動が必要か。
少年に面会し話を聞いたところ,他に共犯者がいることが判明した。どのような点に留意すべきか。
少年鑑別所送致を避けるために付添人ができることは何か。
非行事実を争わない場合の付添人活動の全体的な流れは?
少年審判での処分にはどのようなものがあるか?
少年事件を受任し,調査官に面会したところ,「環境調整をよろしく」と言われたが,何をすればよいのか。
観護措置を取られたが,高校入試が目前に迫っている。入試を受けさせる方法は?
否認事件の付添人活動で注意する点は?
傷害致死事件の付添人となったが,少年の話では警察で大人と同じように刑事裁判になると言われたとのこと。どのような点に注意して付添人活動をすればよいか?
ぐ犯少年の付添人となった。どんな点に留意すればよいか。
親に「軽い処分にしてほしい」と頼まれたが・・・
少年が試験観察となった場合,付添人は何をすればいいか?
審判廷ではどのような付添人活動をすべきか。
少年当番付添人制度(全件付添人制度)とは何か。
 

初めて少年事件を担当するが,少年との面接ではどんな点に気をつければよいか。

【解説】

1. 少年の立場を理解する
少年との面接は難しい。何も話してくれず,沈黙が続くこともあるし,全く事件のことを反省していないような態度に,弁護士自身が途方に暮れることもある。しかし,少年が現在置かれている立場を理解しよう。突然の逮捕,身柄拘束で,少年は混乱している。おびえている。不安でいっぱいである。このような状況の中,自分の思いを伝えられる少年のほうがむしろ珍しいと心得てほしい。
また,少年は,大人に自分のことを説明する機会が少ない。中には家庭にも学校にも関心を持たれないまま成長し,逮捕されて初めて大人とまともに向き合う少年もいるのである。まずは少年との信頼関係をつくることが大事である。

2. 安心感を持つ話題づくり
少年が安心感を持つような話題から心をほぐしていく。事件には関係ない友達のことや家族のこと,趣味の話,日常生活など,きっかけは何でもいい。そして,この会話の中で,少年の言語能力や理解力を判断して,自分が難しい言葉を使いすぎていないかのチェックもしてほしい。少年の言語能力は,大人の想像以上に低いことが多い。

3. 事実の聞き取り
事件の話に入っても,結論を急ぎすぎたり,要点だけを求めたりはしない。ときどきこちらで要点を確認しながら,ゆっくり事実を聞き取っていく。法律的には些少でも少年にとって大事な食い違いというのを大切にしてほしい。
また,「なぜ」という質問は極力避ける。なぜ,と聞かれると,批判されているように受け止めるからである。どうしても聞きたい場合は,「何か理由がありましたか」などのように質問をかえる。
この過程で,捜査機関からの自白の強要が明らかになる場合もある。強要といっても,暴力を伴うことに限らない。「自分のことなんか誰も信じてくれないから,本当のことを言わなかった」そういった形の自白の強要がなされることは多いのである。えん罪であった場合などの争い方はQ9を参照してほしい。

4. 頭ごなしの叱責・説教はNG
頭ごなしに少年を叱責したり,説教することはしない。少年は説教も叱責も聞き飽きている。わかっていながらやってしまう自分をもてあましてもいる。そんな思いを受け止めることが付添人の役割である。自分のことを受け止めてくれているという安心感があって,初めて,少年は心を開き,言葉を聞き始めるのである。
5. 沈黙への対処
少年が「そのことは話したくない」と言ったり,ある特定の質問に対して沈黙するような場合は,「そのことは話さなくていいから,話したくない理由を教えてくれないかな」などと周辺を聞くことにより,重大な事実が浮かび上がることもある。

6. まとめ
以上,いろいろと注意点を述べてきたが,要は,ひとりの人間として真摯に少年と向き合うだけである。少年にとって付添人との出会いは,「自分の人生の中で,一番最初に一生懸命に話を聞いてくれた人が弁護士さんだった」と言う少年もいるほど,人生が大きく転換する得難い経験になることもある。このような場面に立ち会える喜びは,ほかの仕事ではなかなか味わえないものである。

少年の虚偽の自白を防ぐために,捜査段階でどのような活動が必要か。

捜査段階の弁護人として求められる活動は,基本的に成人事件と異ならない。ただ,少年は,成人より容易に虚偽の自白をしてしまいがちなので,その点を踏まえた手厚い活動が必要である。暴力的な取調べのほか,「正直に言えば少年院に行かないですむ」と言われたり,「共犯者は皆自白した」と言われて,虚偽の自白をしたケース等が報告されている。

【解説】

最低限必要な活動

1. まず,事実と異なる調書が作成された場合に,これを審判で争うことは極めて困難であることを少年に理解させることが重要である。さらに,取調べの立会いを求めるべきだが,実際には,立会いが認められたケースは少ない。そこで,少年に対しては,弁護士に相談した上でなければ調書に署名しないように約束させ,警察にもその旨,申し入れておく。

2. その上で,少年を励ますとともに,取調方法が適切に行なわれているかを確認するために,できるだけ頻繁に,できれば毎日,少年に接見を行なうようにする。少年には,接見終了の際,次回の接見日時を伝え,これを守ることが重要である。厳しい取調べを受けていても,何時になったら弁護士が面会に来てくれるということが分かっていれば,頑張れる可能性が高い。逆に,約束の日時に面会に行ったら,取調べ中でも中断させ,接見を求めるべきである。

3. このように否認事件の弁護活動は接見だけでも忙しいので,複数の弁護士で共同受任することが望ましい。

4. 警察官による不当な取調べが行なわれている場合には,検察官及び警察官に対して,直ちにやめるように口頭や文書で申し入れる。不当な捜査について,警察はこれを否定するが,弁護人の申し入れによってブレーキがかかることは少なくない。

5. 他方で,少年の言い分を裏付けるための証拠(アリバイや物証等)を早急に調査することが必要である。少年の言い分を,そのまま検察官や警察官に主張することがいいかどうかは慎重に判断すべきである。裏付けがない段階で主張すれば,つぶされる危険がある。

さらにこんな工夫も

1. 少年から聞き取った内容を弁護士が聴取書にまとめ,公証役場で確定日付を得ておけば,少年がいつの段階でどのような主張をしていたかの証拠になるので,仮に自白調書が取られてしまった場合などに,争う手がかりとなる。

2. 捜査段階での身体拘束に関し,勾留に代えて観護措置をとり鑑別所に収容する方法(少年法43条),勾留する場合でも勾留場所を少年鑑別所とする方法(少年法48 条2 項)が定められている。否認事件では,代用監獄における長時間にわたる不当な取調べを回避するために重要であり,検察官や勾留担当裁判官に対して,これを活用するよう申し入れるべきである。勾留場所を代用監獄とするという勾留決定に対して,準抗告申立てをして認められたケースもある。

少年に面会し話を聞いたところ,他に共犯者がいることが判明した。どのような点に留意すべきか。

【解説】

少年事件における共犯事件の特色

利害関係が絡んで共犯となる場合が多い成人の共犯事件に対し,少年の共犯事件は,非行仲間同士の絆,連帯感といった感情的・情緒的なつながりが原因で共犯となる場合が多く見られる。それは,非行少年には,家庭や職場・学校といった環境の中では疎外感を持つ子が多く,少年達は共感を持って連帯しあえる仲間を求める傾向があるからである。この情緒的要素の強い共犯関係は,後述のように要保護性の解消の上でも悩ましい問題を生じる場合がある。

共犯事件における留意点

1. 他の共犯少年の付添人との連携
受任した少年事件が共犯事件の場合には,少年に対する通常の付添人活動に加え,他にどのような共犯少年がいるのか,共犯少年の付添人選任の有無,共犯少年間の関係や役割分担の実態等を把握する必要がある。まず,他の共犯少年に関する付添人の有無・連絡先は,所轄警察か担当検察官に問い合わせる。そして,付添人が選任されている場合,その付添人と連絡を取って協力体制を作ることが考えられる。たとえば,記録の謄写が必要な場合の分担,他の共犯少年の供述内容の確認などを行なうほか,示談交渉や被害弁償の方法等についても事前に協議する。

2. 他の共犯少年に付添人がいない場合
他の共犯少年に付添人が選任されていないと,上記のような連携を持てないという点で付添人活動に困難を伴うことになる。そこで,できる限り他の共犯少年にも付添人が選任されるよう働きかけるのがよい。たとえば,他の共犯少年自身や保護者に,付添人活動の意味・重要性の説明,弁護士報酬の扶助制度の説明などを行ない,当番弁護士センターを紹介するなどである。

3. 示談交渉の方法
示談の成否・被害弁償・宥恕の有無等が量刑に直接の影響を及ぼす成人の場合と異なり,少年事件の場合には,これらは少年の保護処分の結論を直ちに左右するものではない。しかしながら,被害者救済の点からも,少年の反省の契機という意味で要保護性の点からも,可能な限り行なうのが望ましい。ただ,共犯事件の場合,共犯少年間の関係や付添人選任の有無にばらつきがあって関係者の足並みが揃わない場合,公平上どのような方法で被害弁償を行なうかは難しい問題である。他の共犯少年に付添人が選任されている場合は,付添人間で協議し,共同で示談交渉を行なう。

4. 要保護性・環境調整
共犯事件で,少年が他の共犯少年との不良交遊関係を絶てないと述べた場合,どのように要保護性を解消していくかは悩ましい。孤独な非行少年にとって,共犯少年は,保護者よりはるかに信頼を寄せる存在である場合もあるだろう。しかし,観護措置期間中に,何度も保護者や付添人が面会に通って少年と向き合うことで,少年が周りの大人への信頼を取り戻していくという例もある。付添人としては,少年が共犯少年との交遊関係をなぜ絶ちきれない人間関係と思うのか,今まで共犯少年との関係が本人にもたらした結果はどんなものだったか,将来のために本当に必要な環境とはどんなものかを少年に問いかけ,時間をかけて話し合う態度が必要であろう。

少年鑑別所送致を避けるために付添人ができることは何か。

少年の身柄が家庭裁判所に送致される日(事前に検察官に確認しておく必要がある)の午後1 時ころ,家庭裁判所少年部(本庁の場合9 階の少年部事件係受付)に出頭し,付添人選任届を提出し,調査官及び裁判官と面接をして意見を述べたい旨を申し入れる。その際,意見書を持参し,かつ,少年の保護者等を同行するのが効果的と思われる。そして,裁判官・調査官に面会して観護措置が不要である旨の意見を説得的に述べる。

【解説】
検察官は,少年(被疑者)の取調が終了すると,少年の身柄を家庭裁判所に送致する。検察官は,付添人(弁護人)が問い合わせない限り,家庭裁判所送致日を教えてくれないので,事前に検察官に連絡して,送致日を正確に把握し,その日程をあらかじめ確保しておくよう努めること。
東京の家庭裁判所では,観護措置審問は午後から行なわれる。従って,付添人は,当日の午後1 時くらいに,なるべく保護者等を同行して,東京家庭裁判所少年部(本庁の場合9 階の少年部事件係受付)に出頭する。そして,付添人選任届(事前にとっておくが,その場で保護者に書いてもらってもいいし,少年との面会のときにとることもできる),意見書を提出し,調査官・裁判官との面会,少年との面会を希望する旨を伝える。
その後,地下2 階の待合室で待機していると,すでに少年と面会をした調査官が,付添人及び保護者の意見を聞きにくる。付添人は,なぜ観護措置が不要であるのか(非行に至る経緯や原因,少年の生活の状況,少年や保護者の反省の深さ,保護者の監護能力や少年が保護者の指導に従う意思があること,今後の出頭が確保できること,再非行の可能性が低いことなど),観護措置が少年の更生にとってかえって悪影響を与えること(学校を退学になる,職場から解雇されるおそれがあることなど)を強調すること。
調査官は,面接後,観護措置決定が相当か否かの意見を裁判官に伝える。付添人は,調査官との面会後,裁判官に直接面会して意見を述べることができるが,東京家庭裁判所本庁では,少年の審問手続きへの付添人の出席は運用上認められていない。従って,付添人は,裁判官が少年に審問を行なう前に,少年と面会してアドバイスをしたり,緊張をほぐしてあげることが必要だろう。
観護措置がとられなかった場合は,家裁から少年を引き取って帰ることになる。

非行事実を争わない場合の付添人活動の全体的な流れは?

付添人活動は次のような段階に分類できる。まず,付添人活動に先行する(1)被疑者段階では,成人の刑事弁護に類似した活動を行なう。(2)家裁送致段階で,観護措置決定を避けなければならない場合は,家裁に意見書を提出し,裁判官及び調査官と面会する。(3)家裁送致後は,法律・社会記録を閲覧(謄写)し,少年及び保護者との面会を重ね,環境調整に努める。また,調査官,裁判官等との面会を重ね,意見交換を行ない,家裁に意見書を提出する。(4)審判段階では,保護者とともに家裁に出頭し,裁判官の前で少年及び保護者に質問して,最後に処遇意見を述べる。

【解説】

1. 被疑者段階
この段階では,付添人ではなく弁護人として活動するので,成人同様,弁護人選任届を持参して留置所等で接見する。活動内容も起訴前弁護活動と類似するが,少年は成人に迎合しやすいため,慎重に接見する必要がある。また,成人と異なり,勾留満期を待たずに家裁送致される場合もあるため,検察官に家裁送致日を確認する必要もある。他方,少年事件は全件送致主義が採用されているため,起訴猶予を目指した弁護活動は行なわない。

2. 家裁送致段階
送致日には,少年の保護者とともに家裁に出頭し,付添人選任届と意見書を提出して,裁判官等と面会する(観護措置決定を避けなければならない場合の付添人活動の詳細はQ4の本欄を参照)。

3. 家裁送致後
審判前は,法律・社会記録を閲覧(謄写)し,被害弁償,社会資源の開拓及び環境調整を行なうことが活動の柱となる。環境調整の方法は弁護士によって様々なので,一概に述べることはできないが,一例を挙げると,保護者と相談し,少年の就学先・就職先を見つけたり,既に就学先等がある場合は退学等を免れるための活動をする。もっとも,かかる活動も少年の意向を無視したり,少年に更生の意欲がなかったりすれば無意味となるので,少年との面会を重ね,じっくりと話し合うことが肝要である。また,調査官及び裁判官(場合によっては鑑別技官)と面会して意見交換を行ない,付添人の意見を伝えたり,意見書を必要に応じて数通作成し,審判期日に余裕を持って家裁に提出する。

4. 審判段階
審判の進め方の大部分は裁判官の裁量に委ねられている。非行事実を争わない場合,裁判官が先に少年等に非行事実及び要保護性に関する質問をして,付添人が補充的に質問するという方式で行なわれるのが一般的である。最後に付添人から処遇意見を述べるが,意見書の朗読まで行なわない場合が多い。

5. 最後に
身柄を拘束された少年事件は,家裁送致後4 週間以内に審判が開かれるため,審判までの期間が短い一方,付添人として活動すべきことは多く,受任後すぐに,しっかりとしたスケジューリングを行なうことが大切である。

少年審判での処分にはどのようなものがあるか?

軽微な事件などで少年審判が開始されない「審判不開始」もあるが,審判開始後の処分には,(1)不処分,(2)保護観察,(3)児童自立支援施設・児童養護施設送致,(4)少年院送致,(5)検察官送致がある。そのほかに,しばらく少年の様子を観察した後で最終的処分を決める(6)試験観察がある。

【解説】

1. 不処分
この中には成人事件での無罪判決に相当する非行事実なし不処分のほかに,非行事実は認められるが,別件で保護処分中であるとして改めて処分を行なわない別件保護中不処分や事案軽微不処分,調査・審判を通じて要保護性が解消されたとする保護的措置不処分がある。

2. 保護観察
少年が20 歳になるまでの間(20 歳になるまでに2 年に満たない場合は2 年間),保護観察官あるいは保護司のもとに定期的に通い,生活指導等を受ける処分をいう。なお,若年少年が保護観察処分になった場合には,相当長期間となる計算だが,1 年ほど経って生活が安定し再非行のおそれがないと判断されると,良好解除となり期間が短縮されることがある。

3. 児童自立支援施設送致,児童養護施設送致
児童自立支援施設は,不良行為を行なったか,行なうおそれのある児童に対して不良行為をなくすために教育保護を行なう施設をいう。児童養護施設は,保護者がいなかったり虐待されている児童等,環境上養護を必要とする児童を養育保護する施設をいう。義務教育中の児童の収容が原則のため,この処分となることはわずかである。

4. 少年院送致
少年院に少年を収容して,生活指導や職業補導等を行なう処分をいう。期間の違いにより特修短期(4か月以内),短期(6か月以内,ただし必要に応じて延長),長期(原則2 年以内,ただし収容期間の延長や,当初から2 年を超える期間設定もある)がある。また,在院する少年の概ねの年齢に応じて初等(14 ~ 15 歳),中等(16 ~ 19 歳),特別(非行性が進んでいる等特別の処遇が必要な少年を収容),医療(特別な医療措置が必要な少年を収容)の各少年院がある。

5. 検察官送致(いわゆる逆送)
少年が,審判期日までに20 歳以上となる場合や,一定の事件について刑事処分が相当と認められるとき(2000 年法改正により,14 歳以上16 歳未満の少年も逆送可能となった),故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であってその罪を犯したときに少年が16 歳以上であったときに,検察官に送致される処分。逆送事件については,原則として検察官は起訴をしなければならない。逆送後,起訴までの間に少年への取調が行なわれることがあるので,注意が必要である。

6. 試験観察
保護処分を決定するため必要があるときに,相当期間家庭裁判所調査官の観察に付する処分をいう。最終処分を決定する前の中間処分と呼ばれている。実務上,保護観察にするか少年院送致にするか悩ましい事案の場合に,いずれかを決定するために用いられることがある。試験観察には在宅(少年を帰宅させて実施する)と,補導委託(施設等に少年を預けて実施する)とがある。調査官は試験観察期間中,月1 回前後少年との面接を行なう。

少年事件を受任し,調査官に面会したところ,「環境調整をよろしく」と言われたが,何をすればよいのか。

【解説】

「環境調整」とは,少年を取り巻く人的物的条件,周辺環境を,少年の立ち直りと今後の成長に資するよう整え,「要保護性」を減殺することを目的とする作業である。付添人活動の1 つである環境調整は,家庭裁判所の要保護性の判断を左右するだけでなく,非行少年の今後の健全な成長やスムーズな社会復帰を促す上で極めて重要な課題の1 つである。保護処分として少年院送致が考えられる場合,付添人が少年の家庭・学校・職場環境等を整えることにより,最終的には社会的資源を活用した社会内処遇の結論を得る場合もある。

1. 親子・家庭環境
少年事件では,親子間に深刻な事情がある,親自身の生活態度や養育態度に問題があるなど,親子関係の調整が必要な場合も多い。付添人は,受任後速やかに家庭環境を調査し,親になぜ少年の非行が生じたのか原因を考えてもらい,今後の対応をともに話し合うことが必要である。その際,親の監督能力の有無,少年を親元に戻すのが要保護性の観点から適切かを見極めるには,少年の自宅を家庭訪問することが有効である。自宅訪問によって少年の家庭環境を実際にその目で確認することにより,付添人には様々な事情が見えてくる。なお,親の監督を期待できない場合には,祖父母・叔父伯母・兄弟姉妹等の親族による監護の可能性も模索する。

2. 勤め先・雇い主
少年の勤め先の有無は要保護性を判断する上で重要な要素である。付添人は,少年が従来の職場に戻れるよう雇主に働きかけ,あるいは少年とともに就職先の確保に取り組む。雇主には,少年の就労を受け入れ保護・監督する旨の「上申書」を書いてもらうこともある。ケース・バイ・ケースではあるが,雇主に少年の事情を説明した上で,生活全般にも目配りするような引き受け方をしてもらえれば,より一層の環境調整の効果が期待できるであろう。

3. 学校・教師
在学中の学校が少年のサポート体制を作ることは極めて重要であり,学校側に調整を働きかけることが必要である。しかし,少年が高校生以上の場合には,少年の非行が退学理由になりかねない場合もあるので,学校への連絡は慎重さが必要である。また,少年が入学試験,進級試験等の受験を目前に控えているときは,その機会を確保するため観護措置取消手続等を検討する(Q8を参照)。

4. 不良交友関係
少年が暴走族・暴力団等と交友関係があるときは,今後これを断ち切ることが必要になる。少年本人の強い自覚と努力,家庭・学校・雇主・地域社会等の複合的な協力が必要であり,付添人は関係各者間のコーディネート役をすることが考えられる。

5. 試験観察の場合の補導委託先確保
付添人としては試験観察を求めたいが,在宅試験観察には困難が予想される場合,付添人は自立援助ホーム,民間篤志家等の少年の補導委託先を探す必要がある。

以上の環境調整の成果は,成果が出る毎に随時調査官や裁判官に報告し,特に調査官とは連絡を密にして相互の情報を共有し協議する。審判前の最終的な「付添人意見書」にも環境調整の結果は丁寧に書く。

観護措置を取られたが,高校入試が目前に迫っている。入試を受けさせる方法は?

観護措置決定に対する異議申立て,または,観護措置取消しの職権発動を促す上申書を提出するなどの手続きを取って,少年に対する観護措置決定を取り消させる

【解説】

高校入試を受け,高校に進学することは,少年にとって有力な社会資源になる。このような事情がある場合には,観護措置決定段階で,観護措置を取らないよう裁判所に事情を説明して受験できる方策を探るべきである。
  それでも観護措置が取られ判所は,合議体で決定をしなければならず,この決定には,観護措置決定や更新決定をした裁判官は関与することはできない。また,家庭裁判所は,その必要性がなくなった場合はすみやかに観護措置を取り消さなければならないとされているので(少年審判規則21 条),担当裁判官の職権発動を促すための上申をする方法もある。実務上は,観護措置決定後の事情変更等を踏まえて観護措置の取消しが柔軟に運用されている。
異議申立書,取消し上申書には,いずれも観護措置の必要性(特に収容鑑別の必要性)がないこと,観護措置を継続することは少年の保護にとってかえって有害であることを具体的に主張する。申立書には,具体的事情を疎明する資料を添付する。例えば,入試日程,科目,受験票,審判に出頭させる旨の保護者の誓約書などである。
また,少年にも「入試を受ける方法はある」と励まし続け,参考書等を差し入れして鑑別所で受験勉強を続けるよう助言する。さらに,調査官に入試についての事情を詳しく説明し,調査官からも裁判所に働きかけてもらう。
異議申立て等が認められた場合は,観護措置が取り消され,在宅のまま審判を迎えることになる。観護措置取消しは,必要に応じて,必要な期間だけ認められるので,入試の期間中だけ家に帰って受験し,その後また鑑別所に戻るという運用もされるようである。
前述のように,高校に進学するということは,少年にとって有力な社会資源ができるということであるから,少年が自ら言い出さなくても,付添人から受験などの事情がないかを早期に聞き取ることが必要である。さらに,少年が中学卒業後の進路を決めていない場合や高校中退をしている場合は,新たな社会資源開拓のチャンスと捉えて,進学や編入の意向はないか,少年や保護者と話し合い,積極的に受験を勧めることも考えられる(このような場合は特に調査官との連携が有効である)。定時制などでは,願書提出期間は受験日ぎりぎりまで認めていることも多い。
このほか,観護措置の取消しは家族の葬式や進級試験等で認められる場合もある。
身柄拘束は,たとえ資質鑑別の必要性があるとしても,安易にされることがあってはならない。付添人としても,不要な観護措置に対しては,積極的に異議申立てを行なう必要がある。
なお,異議申立てが棄却された場合の不服申立てとして,最高裁判所に対する特別抗告が可能である(少年法17 条の3項)。

否認事件の付添人活動で注意する点は?

【解説】

1. 少年との面会
否認事件に限らず,少年と信頼関係を築き,事件についての少年の認識・言い分をきちんと把握することが大前提である。虚偽自白をさせられたような場合には,単に送致事実を読み上げて「やったの?」と聞くのでは,少年が「うん」と応じるような場合も往々にしてあり得る。少年の心身の状況をつかみ,まずは受容的な姿勢で少年の言い分を受け止め,何でも話し合える関係を築くことが望まれる。

2. 証拠の把握,虚偽自白調書への対応
法律記録を閲覧謄写し,非行事実についてどのような証拠が家裁に送られているか,どのような証拠が非行事実を支える構造となっているのかを把握する。
少年事件では,刑事公判手続きと異なり,捜査機関が捜査資料一切を事件送致の際に家裁に送るため,審判官はこれらの証拠に目を通してしまう。したがって,審判官がそれらをすべて見ていったん抱いてしまっている強い有罪心証をどう崩すかという観点から取り組む必要がある。
特に,少年が捜査段階で虚偽の自白をさせられており,これが非行事実の認定を支える重要な証拠として位置付けられているような場合には,自白調書の任意性・信用性に問題があることを指摘する活動が必要となる。

3. 少年側に有利な証拠の把握・提出
例えば,恐喝未遂の共犯とされ偽計により虚偽自白させられたケースで,少年が実際には恐喝行為に加わっていなかったことにつき,実行犯の少年らが被害者を取り囲んでいた際の被害者と少年との位置関係や距離を,被害者などの協力を得て現場写真や図面を使って立証し,非行事実なし不処分の結果を得たという例が報告されている(名古屋弁護士会子どもの権利特別委員会編「少年事件・附添人日記」118 頁)。
ただし,被害者や共犯者に対し事実関係の調査を行なう際は,証拠隠滅行為を疑われないよう十分に配慮しなければならない。
これらの証拠を家裁に提出し,あるいは証人等の取調べを請求する。

4. 検察官関与と手続きに少年が主体的に関わるための援助
非行事実を争う場合に,一定の事件については,検察官が関与申し出をし家裁が検察官関与決定をすることがありうる(法22 条の2)。同決定がなされた場合,事実認定手続きに限って検察官が審判に立ち会うことになる(要保護性認定の手続きには検察官は立ち会えない)。
検察官が立ち会うにせよ,立ち会わないにせよ,手続きの意味を少年がよく理解し,主体的に関わることが望まれる。そのために,付添人は,手続きについて少年によく説明し,少年の自己決定を手厚くサポートすることが求められる。審判の結果如何にかかわらず,そこに至るプロセスの公正さが確保され,これについての的確な認識を少年が有することが,少年にとって重要である。

5. おわりに
否認事件の場合は特に,捜査のできるだけ早い段階から弁護人が付くことが望まれる。また,遅くとも審判段階での弁護士による援助は不可欠である。少年が十分にその言い分を述べられるよう,最善の努力をすることが付添人に期待される。

傷害致死事件の付添人となったが,少年の話では警察で大人と同じように刑事裁判になると言われたとのこと。どのような点に注意して付添人活動をすればよいか?

できるだけ早い段階で,家裁に対し,検察官送致(逆送)しないよう働きかける。(逆送とならない場合も)審判手続への検察官関与の可能性があるので,事案を検討して検察官関与の必要がないことを家裁に示していく。

【解説】

1. 検察官送致(少年法20条,逆送)への対処
設問の「刑事裁判になる」との点だが,2000 年「改正」により,少年が行為時14 歳以上であれば逆送(家裁送致された少年が刑事処分相当と判断された場合検察官に送致されること)の可能性があり,さらに設問のように故意の犯罪行為により被害者を死亡させた事件の場合,少年が行為時16 歳以上なら原則逆送とされるに至った(少年法20条 ・本文)。
しかし,少年については少年自身の性格・生育歴・置かれた環境等の事情から少年の要保護性を十分検討し保護処分による立直りの可能性を追求するというのが大原則である。また,設問のような重大事件の場合,マスコミの過剰報道等により裁判所も重罰化の圧力を受け,要保護性の十分な検討なしに逆送とされる虞もある。
従って,付添人としては,設問のような事件でも,家裁に対してできる限り保護処分の可能性を提示していくべきある。この場合,逆送決定は審判を開かなくともでき,調査官の要保護性調査抜きで逆送決定される可能性もあるため,少年を逆送すべきでない事情(少年法20 条2 項但書参照)を送致後早い段階での裁判官・調査官との面会や意見書提出等により積極的に訴えていくことが必要になる。
なお,逆送の虞がある場合,刑事裁判になると検察官が捜査記録の一部しか公判に提出しない可能性もあるため,事件記録は家裁段階であらかじめ全部謄写しておきたい。

2. 少年審判での検察官関与等への対処
逆送されず家裁で審判が行なわれる場合でも,審判への検察官関与(少年法22条 の2)が決定される場合がある。すなわち(1)故意の犯罪行為により被害者を死亡させた事件,及び(2)死刑・無期・短期2 年以上の懲役・禁錮に当たる罪の事件で,裁判所が非行事実認定に必要と認める時には検察官関与決定できることとなった。
しかし,検察官関与となると審判廷に少年を糾弾する雰囲気が持ち込まれ,少年自身の自覚による立直りを促すという少年審判の教育的機能が損なわれる虞も高いことから,付添人としては検察官関与をできるだけ限定するよう活動すべきである。
検察官関与の趣旨が,裁判官と少年との対峙状況の回避等による事実認定の適正化にあることから,事実の主要部分に争いがない等の場合,早期に事実の争点や立証方法を示し,検察官関与は不要との意見を提示することが必要である。その他,観護措置期間延長(2000 年「改正」で最大8 週間になった)にも注意を要する。

3. 逆送となった場合
付添人は自動的に弁護人となる(少年法45条6号)が,刑事裁判手続に移行しても,少年については少年法の趣旨が反映させられるべきである(少年法50条)から,社会記録の取寄請求や鑑定申請等を検討し,また家裁への再送致(少年法55条)の申立も検討すべきである。

ぐ犯少年の付添人となった。どんな点に留意すればよいか。

【解説】

1. 定義
ぐ犯少年とは「次に掲げる事由があって,その性格又は環境に照らして,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年
イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
た場合は,異議申立てをする(少年法17 条の2項)。異議申立ては,少年法改正により新たに認められた不服申立方法である。異議申立てがなされた場合,家庭裁ロ 正当な理由がなく家庭に寄りつかないこと。
ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し,又はいかがわしい場所に出入りすること。
ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。」のことである(少年法3 条1 項3 号)。
例えば,家出して家に寄りつかない少年(イ,ロ)や,援助交際を繰り返すなどして性的逸脱行為のある少年(ハ,ニ)がその対象である。
罪を犯したわけではなく,将来罪を犯すおそれがあるだけで少年審判の対象とし,保護処分の対象とするぐ犯少年が定められていることは,少年法の福祉的な趣旨をあらわすものである。この趣旨を反映して,ぐ犯少年は,要保護性の高い少年が多い。
家庭裁判所送致後は,犯罪少年と同じ手続で観護措置も取られるし,少年院送致になることもある。もっとも,罪を犯したわけではないので,検察官送致(逆送)になることはない。

2. 活動
このように,要保護性が高い少年が多いことから,付添人の活動も要保護性の解消のためにどう動くか,すなわち環境調整を行なうことが主となろう(環境調整については,Q7参照)が,同時に,少年が罪を犯したわけでもないのに,保護の名のもとに少年の自由を束縛する危険もあるため,付添人としては,法的観点から3 条1 項各号のぐ犯事由が存在するか否かも検討しなければならない。
ぐ犯少年は,家庭環境が劣悪な場合が多い。家庭がないということもざらである。付添人は,まず第一に信頼できるおとなとして,少年の前に現れなければならない。信頼関係をきちんと作り上げ,少年の思いを引き出すことに留意する。また,ぐ犯には犯罪事実とされているものがないだけに,何をもってぐ犯事由とされているのかを,時間をかけて聞き取ってほしい。
例えば,家出を繰り返す少年に,事情を詳しく聞き取ったところ,親からの激しい虐待が発覚したことや,援助交際を続ける少年の成長過程に親からの性的虐待があったことが判明した場合もある。
これらの事実がわかった場合は,通常の少年事件以上に調査官と連絡を密接に取り,協力して少年の保護環境を整える。

3. 環境に負けない力を
繰り返すが,ぐ犯少年は罪を犯していない。にもかかわらず少年院に送られることもある。受け入れ先がないから少年院という安易な判断に流れることのないよう,調査官と知恵をしぼってほしい。しかし,それでも,この子を保護するために,保護する環境として少年院以上の場所がないこともある。社会の無力さに付添人自身やりきれない思いを感じることもある。しかし,「何も悪いことをしていないのになぜ」という思いは,少年自身が一番強く持っている。付添人は,少年が審判を通じて自分の有り様を見つめ直し,環境に負けない力を培うためのきっかけをつくることができるよう,人生を前向きに捉えるような働きかけをしてほしい。

親に「軽い処分にしてほしい」と頼まれたが・・・

闇雲に軽い処分を狙うのは考えもの。付添人としては,少年や保護者等に対し,非行事実の重さのみで処分が決まるのではないこと,今後少年が健全に成長できる態勢を整えることこそが重要である点を説明し,具体的にその態勢作りを援助する必要がある。すなわち,付添人活動をするにあたっては,少年の今後を共に考え,最善の方向を模索する視点が必要である。

【解説】

1. 保護処分の不利益処分性
親の心情として我が子の処分を軽くしてほしいと望み,少年本人も軽い処分を望むことは多い。少年事件の処分が保護処分であるとはいっても,少年の意思に反して少年院への入院を命じられる等,実際は不利益処分の側面がある。

2. 罪名,罪質との関係
成人事件であれば,当該犯罪行為の軽重が最大の問題とされ量刑の基準(相場)となる。しかし,少年事件の場合には相場として一般化することはできず,今後少年が立ち直っていけるか,家庭,職場,学校,交友等や本人の意思等の要保護性の有無が重視される。
従って,成人事件であれば実刑確実の事案であっても,重い処分(少年院送致等)確実とあきらめてはいけない。逆に,万引きやぐ犯等であっても,要保護性が高ければ少年院送致とされる場合もあり,安易に軽い処分を約束すべきではない。

3. 保護者や少年本人への説明・援助を
保護者や少年本人は,非行事実が軽微な場合には,軽い処分になるだろうと楽観視する場合があるが,上記のとおり,そうとはいえない。また,楽観視していると,少年が何故非行を起こしたのか真剣な原因解明や反省が深まらず,結局再非行に陥りかねない。付添人としては,少年や保護者等に対し,非行事実の重さのみで処分が決まるのではなく,今後少年が健全に成長できる態勢(少年本人の心構えを含む)を整えることが重要である点を説明し,その態勢作りを援助する必要がある。

4. 付添人自身,「軽い処分」では難しいと思うとき
本人の反省が深まらない上に,保護者自身問題があり,その他の有効な社会的資源もなく,保護観察等の在宅処分となっても少年がうまく再出発するのは無理だろうという事案もある。この場合,付添人としては,あくまでも在宅処分で,と主張すべきだろうか。
これは各人の付添人観が反映される場面だろう。付添人は,少年の代弁者である点が重要と考えれば,少年の意向に沿った処遇意見を述べるだろうし,少年の最善の利益を図る存在と考えれば,少年の意向とは違う処遇意見を述べることもあろう。
しかし,重要なのは最終的にどのような意見を述べるかではなく,審判に至るまでに,少年が円滑に再出発するためにはどうしたらよいのか,付添人が少年,保護者,その他の関係者と共に考えていくことではないだろうか。
少年法は,少年が成長途上にあり,可塑性に富む存在であること,成長の過程で失敗もあることから,処分にあたり要保護性を検討する保護主義を採用している。成人事件の相場感覚で(示談すれば処分が軽くなるとの考え方等)審判に臨むことは意味がない。少年の今後を共に考え,最善の方向を模索する視点を持って活動をしてほしい。

少年が試験観察となった場合,付添人は何をすればいいか?

付添人としては,少年の終局処分が不処分または社会内処遇となるように活動すべきである。具体的には,(1)少年と継続的に面会をして,生活状況等の話を聞き,(2)保護者やその他社会資源となる人物及び補導委託先や家裁調査官に連絡を取り,また面会をして,少年についての情報を交換し,少年の社会内処遇における問題点を取り除くよう活動する。そして,終局審判が近づくと,家庭裁判所に対し,少年の終局処分についての意見書を提出する。

【解説】

1. 意義
試験観察とは,家庭裁判所が,直ちに少年に保護処分を下すことは相当でないと判断した場合,終局処分を留保して,家裁調査官が少年の生活態度等を観察する期間を設ける中間処分をいう。試験観察には,少年が自宅に居住する在宅試験観察と,少年が家庭裁判所に登録された民間の協力者の施設に居住する補導委託がある。かかる試験観察制度は,可塑性に富む少年に対し,自発的な社会復帰を促し,今一度,社会内における更生可能性を検討する機会を設ける有用な制度である。なお,試験観察制度は,執行猶予制度と類似する点もあるが,試験観察は終局処分の前の中間処分に過ぎず,付添人の役割も終局処分まで続く点で大きな違いがある。

2. 具体的な付添人活動
付添人は,試験観察中,少年の不処分または社会内処遇を目指した活動をすべきである。具体的には,少年に継続的に面会して,過去の生活における問題点,将来の人生設計を一緒に考えたり,現在の生活状況等様々な話を聞き,少年に社会復帰,更生に向けた意欲,自覚を持たせるようにする。また,保護者やその他社会資源となる人物(雇い主等)に面会して,少年の生活態度等の話を聞き,少年の社会復帰や更生に対する協力状況を確認する。さらには,補導委託先や調査官と少年についての意見を交換する。そして,少年を不処分もしくは社会内処遇として問題ないと認められる場合,調査官との間で試験観察を打ち切って終局審判をする旨の打合せをして,家庭裁判所に対し,少年を施設内処遇とする必要性がない旨の意見書を提出する。他方,少年を社会内処遇とするには未だ不安が残る場合,その原因を究明して,終局審判までに少年の社会内処遇における問題点を取り除くよう努めなければならない。

3. その他
通常の少年事件は4 週間ほどで保護処分が下されるが,試験観察の場合,終局処分までに3 か月から6 か月ほどかかり,少年との付き合いが長くなることも試験観察の特徴である。その間,少年が補導委託先を脱走したり,虞犯立件されるなど,ハプニングが起こることもある。

審判廷ではどのような付添人活動をすべきか。

成人の場合と異なり,付添人の書証や意見はあらかじめ裁判所に提出してあるが,事案によっては,審判の場で要点を強調すべきである。また,少年や保護者その他の関係者に質問をして,裁判官に要保護性がない(低い)ことを示したり,少年や保護者等が反省を深め更生への決意を新たにする機会となるよう努めるべきである。

【解説】

1. 総論―活動の主眼
否認事件の場合は,通常の刑事事件と同様,証人尋問等によって非行事実の不存在を証明していくことが活動の中心となる。本稿では,以下,一般的な自白事件の場合について論じる。
自白事件の場合,審判廷における付添人活動は,審判を少年の更生に,より資するものにすることを最大の目的とする。少年審判では,付添人の書証や意見は事前に裁判所に提出してあり,裁判官も全ての記録に目を通しているので,当日はすでに裁判官の内心でほぼ結論が決まっている場合も少なくない。だからといって,審判を形式的なものにしてはならない。裁判官や付添人からの質問に答えることで,言い分や心情など言いたいことを言えた,話を聞いてもらえたと少年に実感させるとともに,少年の反省がより深まるよう努めるべきである。それによって,少年自身が処分に納得し,更生への意欲を高めるようにしなければならない。

2. 具体的活動内容
少年審判の進め方は裁判官の裁量に委ねられているが,通常は,人定確認の後,裁判官が送致事実を少年に説明して,間違いがないか尋ねることから始まる。付添人にも陳述の機会が与えられる(少年審判規則29 条の2項)。
続いて,裁判官から少年に対して質問や説諭が行なわれる。その内容が「懇切を旨として,和やかに」という少年法22 条1 項の趣旨に反するような場合(たとえば少年を萎縮させるような場合)は,適宜,付添人から異議を述べる必要がある。少年が質問の意味を正しく理解していない場合や思っていることを上手に話せないときなども,適宜介入して,わかりやすい言葉や答えやすい言葉で聞き直し,面接の時に口にしていた良い言葉を引き出してあげるなどの援助をするべきである。
その後,裁判官から付添人に発言を求めることが多い。ここで付添人からも少年に質問や説諭を行なう(少年審判規則29 条の4項)。少年が審判に納得し,反省もさらに深まるよう,事前に少年と打ち合わせた質問のみならず,裁判官からの質問の補充やフォローになるように臨機応変な工夫をすべきである。また,保護者,先生,雇用主等にも質問し,少年の更生を支援する社会資源の存在を裁判官にアピールするとともに,少年が自分を思ってくれている人がいると実感できるようにするとよい。

3. 意見の陳述
付添人の意見については,「意見書記載のとおり」と述べて済ませることが多い。しかし,少年側の希望と異なる処分になる可能性がある場合等は,要点を口頭で述べて,主張内容を強調するべきである(少年審判規則30 条)。

少年当番付添人制度(全件付添人制度)とは何か。

少年当番付添人制度(全件付添人制度)とは,家裁送致後,観護措置決定によって身柄の拘束を受けている全ての少年に対し,裁判官から,無料で弁護士と面会することができる旨を告知してもらい,当番付添人として出動した弁護士が,法律扶助制度を利用するなどして少年の付添人となる制度をいう。

【解説】

1. 背景
非行事実の検討や環境調整など,少年事件における弁護士の役割の重要性についての認識は高まっているものの,現実には成人の刑事事件と異なり,弁護士の関与のないままに処分が下される少年事件が大半を占めている。そこで,少年の付添人選任権を実質的に保障するために同制度が実施された。

2. 制度説明
当会では,従前から成人の当番弁護士名簿とは別に少年当番弁護士名簿を設置しており,同名簿に登録されている弁護士が,少年の要請に応じて出動することになっているが,当番付添人制度の導入により,少年は,勾留決定を受けるときのみならず,家裁送致後,観護措置決定を受けるときも,裁判官から,無料で弁護士と面会できる旨の説明を受けることができる。そして,少年と面会した当番付添人が積極的に受任して付添人活動を行なうというのが同制度であり,付添人関与の少年事件の割合を増やすことを主眼とする。よって,出動要請を受けた当番付添人は,扶助制度を利用した積極的な受任が期待される(もっとも,親に資力がある場合などは扶助制度を利用しなくてもよい)。以上,全件付添人制度は,(A)裁判官による積極的な付添人選任権の告知,(B)当番付添人による積極的な受任が大きな特徴となる。

3. 積極的な受任
少年には,親に経済的負担をかけたくないとの思いや,弁護士に頼めば警察や裁判官の印象を悪くするのではないかとの不安から付添人の選任を躊躇する場合が多々見受けられる。そこで,当番付添人としては,扶助制度を利用すれば原則費用償還義務もなく親や少年自身に経済的負担をかけることはない旨説明し,また,付添人は裁判官と争う仕事ではなく,少年の考えを裁判官に分かりやすく伝えたり,裁判官の考えていることを少年と一緒に考える仕事であり,付添人の選任が少年にとって悪影響を及ぼすことは一切ない旨を懇切丁寧に説明し,積極的に受任するよう努める必要がある。

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