アクセス
JP EN

出資法の上限金利の引き下げ等を求める意見書

2005(平成17)年11月7日
東京弁護士会
会 長 柳瀬 康治
意見の趣旨
(1)出資法5条の上限金利を、利息制限法1条の制限金利まで引き下げる改正をすること。
(2)出資法及び質屋営業法における日賦貸金業者、電話担保金融、質屋に対する特例措置を撤廃すること。
(3)貸金業規制法43条(みなし弁済規定)を廃止すること。
(4)貸金業規制法の規定による契約書面及び受取証書の交付を電子的手段によって代替させることを内容とする改正には反対であること。
意見の理由
1. はじめに
出資法の上限金利(業として金銭の貸付けを行う場合)は、1999年12月の臨時国会で、年40.004%から年29.2%に引き下げられ、施行後3年を経過した時点で必要な見直しを加えるとの附帯決議がなされていた。ところが、施行後3年にはいわゆるヤミ金対策法が成立したこともあり、金利の見直しの問題は、さらに、ヤミ金対策法施行後3年を目途として、検討を加え必要な見直しを行うものとするとの附帯決議がなされた(2003年改正出資法附則12条)。
ヤミ金対策法は、一部の条文については2003年の9月1日に、その余の全部の条文については2004年1月1日に施行されたので、2006年9月から2007年1月が見直しの時期にあたる。
そのような中で、本年3月、金融庁は、「貸金業制度等のあり方について幅広い観点から勉強するため」貸金業制度等に関する懇談会を発足させ、自民党も金融サービス制度を検討する会で貸金業制度の見直しの議論を始めた。一方、消費者金融業界は、この議論の中で出資法上限金利の引き上げのみならず、貸金業規制法43条のみなし弁済規定の適用の厳格化に歯止めをかけ、その適用条件を緩和すること、ひいては金利規制を撤廃し、金利を自由化することなどを企図している。
しかし、以下に述べるように、出資法上限金利を引き上げたり、金利規制を撤廃することは、多重債務による被害者を増加させることにつながるものであり、許されない。むしろ、現在でも多数生み出されている多重債務による被害をなくすためには、出資法上限金利は、例外なく、利息制限法の制限金利まで引き下げるべきである。日賦貸金業者や質屋について出資法上限金利を超える金利での貸付を認めている特例措置は撤廃すべきであり、一定の厳格な要件のもととは言え、例外的に利息制限法の制限金利と出資法の上限金利の間(いわゆる「グレーゾーン」)での貸金業者による貸付行為を認めた貸金業規制法43条は廃止されるべきである。
2. 消費者金融会社による高金利での貸付残高の増加と多重債務者の増加
(1)消費者ローン市場における消費者金融会社の貸付残高比率の急拡大
貸金業者の総貸付残高は、金融庁業務報告書集計結果によれば、2003年3月末で約47兆円であり、このうち、いわゆる消費者金融業者を意味する消費者向無担保金融業者の貸付残高は、約12兆と約26%を占めている。また、同集計の推移を見ると、1990年が約3兆円(総貸付残高に占める割合4.5%)、1995年が約5兆円(同7.1%)、2000年が約9.5兆円(同20.0%)と、消費者金融業者の貸付残高が増加の一途をたどるとともに、総貸付残高に占める割合も増加していることがわかる。この原因としては、低金利で資金を調達し(※)、それを消費者に対して出資法上限金利ぎりぎりの利率で貸し出すという手法が高利潤を生んでいることが挙げられる。
※平成16年の日本消費者金融協会らによる調査結果によると、平均調達金利は平成15年4月から平成16年3月で4.41%とされている)
(2)消費者金融利用者の平均的借主像
日本消費者金融協会らの利用者調査によると、消費者金融利用者(新規顧客と既存顧客。以下同様。)の平均年収は、454万円であり、年収500万円未満の利用者が64.4%、年収400万円未満の利用者が44.3%、年収300万円未満の利用者が27.3%を占めている。
利用者の利用社数の平均は、3.3社であり、2社以上の利用者が76.6%を占めている。
借入金額は、平均借入金額が約145万円であり、借入金額が100万円以上の利用者の割合は、55.1%を占めている。
一方、貸付金利の平均は、年率25.43%であり、金利年25%以上29.2%未満での貸付が72.4%となっている。
つまり、平均的な消費者金融利用者は、「年収454万円、借入金額約145万円、借入先3.3社、借入利率25.43%」ということができる。
(3)高金利が多重債務者を生み出していく構造
平均的な消費者金融利用者を前提に、消費者金融利用者がどのような経済状態に置かれているかを総務省統計局編・家計調査年報平成16年家計収支編(2人以上の世帯)第4表「年間収入階級別1世帯当たり年平均1ヶ月間の収入と支出(勤労者世帯)」で見ると、可処分所得額から消費支出を差し引いた「黒字」の金額が同世帯の返済余力と考えることができるところ、年収別に整理すると後掲表1の通りとなる。
一方、元本を年利15%から29%での利率で5年で返済する場合の毎月の支払額は、後掲表2のようになる。
上記のように、消費者金融利用者の借入利率のほとんどが年率25%から29.2%という出資法の上限利率ぎりぎりであることを前提とすると、借入元本が100万円になると、毎月の支払額は2万9,000円~3万1,000円となり、年収が350万円未満の層において、返済余力を超過する。
消費者金融利用者の平均的借入額145万円に近い150万円の元本になると、毎月の支払額は4万4,000円~4万7,000円になり、消費者金融利用者の64.4%を占める収入が500万円未満の層は、返済余力を超えるか、返済余力がほとんどなくなってしまう。
借入元本が200万円になると、収入が500万円未満の層は、借入利率が年利29%の場合、すべて返済余力を超過する。
つまり、借り入れ元本が150万円ないし200万円に達すると、消費者金融利用者の10人に6、7人は、可処分所得の中からの返済ができなくなり、きちんと返済を続けようとすれば、返済のための借入を繰り返すしかなくなる。そうすると、その者の生活は破綻し、必然的に支払不能状態に陥ることになる。
また、失業などによって収入が減少したり、冠婚葬祭や病気・けがなどのために急な出費が必要となるというようなアクシデントは誰にでも起こりうることである。そのような状況に立たされた消費者金融利用者は、そもそも金利の支払で返済余力が少なくなっているのであるから、別の消費者金融やクレジットカードで新たな借入申込をする可能性が高い。他方、消費者金融やクレジット会社の与信審査は、他社からの借り入れが1、2社であれば、ほとんど問題なく通るのが実態である。とすると、消費者金融業者が、年利25%から29%という利息制限法をはるかに超える高金利での貸付営業を続ける限り、消費者金融利用者のほとんどが生活破綻と支払不能に陥る危険性を有していることになる。
(4)高金利による貸金営業が生み出す多数の多重債務者
現在の日本社会は不況が続き失業率も高率のままで推移している。したがって、消費者金融利用者の抱える上記危険性は、単なる危険性にとどまらず顕在化してくる。
すなわち、自己破産申立件数は、2002年が214,683件、2003年度が242,357件、2004年度が211,402件と、2004年度は若干減少したものの、依然として高水準にある。
また、消費者金融会社の貸倒償却率(貸倒償却率=貸倒償却額/期末営業貸付金残高)も、2002年3月期が4.02%、2003年3月期が5.52%、2004年3月期が7.22%と相当な率で上昇している。
(5)金利の自由化論について
かかる貸し倒れのリスクの顕在化に伴う金融業者側のコスト論の見地から、金利規制の撤廃ないしは大幅な緩和を主張する意見が台頭しつつある。貸し倒れリスクの高い借り手には高利率を適用しなければ、結果としてそのような層への金融需要に対応できないというわけである。
そもそも、金利の自由化・緩和論者は、貸付時の適切な与信審査を前提として、リスクに応じた金利設定を説いている。
しかし、消費者金融業者はこれまで適正な与信審査コストを省略するためにこそ、上限金利ぎりぎりの高利率での貸付を行ってきたのであるから、将来適正な与信審査が行われるという保証はまったくない。
とすると、金利規制を撤廃・緩和すれば、消費者金融業者は、与信審査コスト削減のため安易に高利率での貸付に走り、一方で、返済余力の少ない消費者金融利用者は、与信審査の甘い高利の消費者金融業者から借り入れざるを得ないこととなる。
上述のとおり、現在の金利ですら消費者金融利用者のほとんどが返済余力を超えるか返済余力のぎりぎりの範囲内での返済を強いられているという現実が存在するのであるから、金利規制が撤廃・緩和されれば、消費者金融利用者の返済はより苦しくなり、今まで以上に、多数の「生活が破綻した支払不能者」が生み出されることになるのは明白である。
このような金利規制撤廃・緩和策は、個人の尊厳と幸福追求権を認めた憲法13条及び国民の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を認めた憲法25条に真っ向から反するものであり、とうてい容認できない。
(6)多重債務者問題が招く社会問題
警察庁調べによると、自殺者総数と経済・生活苦による自殺者数は、2003年度は34,427人中8,897人、2004年度は32,325人中7,947人と高水準にある。特に50代では経済・生活問題が動機のトップであり、依然としてリストラや失業と借金などに苦しむ中高年の姿が映し出されている、ということができる。
また、多重債務者による犯罪も多発しており社会不安をあおっている。
さらに、多重債務者、自己破産者をねらった「ヤミ金融 (出資法の上限金利に違反して貸金業を営む者の総称 )による被害は、2003年7月の出資法改正以降減少傾向にあるものの根絶には至らず、その根絶は依然として重要な社会的課題である。
(7)まとめ
以上、消費者金融会社が消費者に対し、現行出資法上限金利ぎりぎりでの高金利での貸付を続け、その貸付残高を増大させていく限り、さらに多くの支払不能者が生まれ、自殺や犯罪等の社会問題が引き起こされていくことは明らかである。金利規制を撤廃・緩和するとなると、その弊害がさらにひどくなることは必至である。
なんとかして、この悪循環に終止符を打たなければならない。そのためには高金利での貸金営業を止めさせなければならない。
3. 出資法の目的達成のための上限金利引き下げの必要性
出資法は、金融業者等の違法な経済活動から経済的弱者である一般国民を保護する趣旨で制定されたものであり、利息制限法とともに、経済的弱者保護という社会政策的見地から立法されたものである。
出資法の上限金利は、昭和29年の施行後、過剰貸付、苛酷な取立等が社会問題化したことを受けて、経済的弱者保護の見地から、昭和58年、平成12年にそれぞれ改正され、処罰金利の下限が引き下げられてきた。
しかしながら、今日、上述のように、消費者金融業者が年利25%から29%という利息制限法をはるかに超える高金利での貸付営業を続けているために、消費者金融利用者のほとんどが、生活破綻と支払不能に陥る危険性にさらされているという現実が存在している。このことは、現行の上限金利では、出資法の目的である経済的弱者保護という機能が十分に果たされていないということを意味する。
また、そもそも、出資法の上限金利と利息制限法の制限金利とを一致させなかった理由としては、終戦後、10日で1割、3割ないし1日1割という超高金利状態が現出した状況下で、「凡そ、利息を抑制するにつき、単一の限度を定め、適法不適法の一線を画することは、理想としてはのぞましいところであるが、・・・債務者保護のため譲ることのできない一線と現実に行われている金利とが余りにかけはなれている現状」が考慮された、ということが挙げられている。しかし、現在では、現実に行われている金利は、金利年25%以上29.2%未満での貸付が72.4%となっているというのであり、出資法の上限金利と利息制限法の制限金利とは相当に近づいている。刑罰金利の実効性を確保するために貸付の制限金利を利息制限法と別個に定める必要はなくなっているのである。
つまり、経済的弱者保護という出資法の目的を十全に果たすためには、その上限金利を利息制限法とを一致させるべきであり、現代の日本社会においては、それを一致させることについての不都合は存在しない。
4. 利息制限法の制限金利の正当性
(1)現行利息制限法は、昭和29年に明治10年に制定された旧利息制限法を廃して制定された。旧法は、元金100円未満が年2割(後に1割6分)、元金100円以上1,000円未満が年1割5分(後に1割2分)、元金1,000円以上が年1割2分(後に1割)と定めていたが、その立法目的は、経済的弱者である借主保護を実現することにあり、明治28年の民法典審議時の際には、同法の廃止を企図する起草者の声を2度もはねのけて廃止を免れた。第2次大戦後、貨幣価値が急騰し、金利も上昇したため、廃止されて現行利息制限法が制定されたが、経済的弱者である借主保護の実現という立法趣旨は、現行の利息制限法にも引き継がれており、規制金利の内容も若干の上昇はあるものの、実質的には変更はない。
したがって、利息制限法は、130年もの長きにわたって実質的な改正をみなかったと言える。ドイツ、フランスにおいては、いったん、金利規制が完全に撤廃されたが、暴利的貸付が横行し、「金利自由化」がごく短期間で終わったという歴史がある(※)。このことは、我が国の利息制限法が存在しつづけていることの正当性を裏付けるものである。
近時、貸金業規制法43条のみなし弁済について、最高裁が同規定を利息制限法の例外として厳格に解釈すべきことを明言したことは、借主が貸し手に比べ交渉能力が著しく劣ることを前提として借主保護の趣旨を徹底したものである。
このように、利息制限法の制限金利は、借主保護のための最低限の金利として現在も機能し続けている。
※ドイツには1867年に北ドイツ連邦法において利息制限に関する法規を撤廃し、遅延利息の利率を自由化したが、これに伴いかなりの暴利的な消費貸借が横行したため、1880年に刑法典を改正して金利自由化の幕をおろし、フランスでは1918年に民事利率を撤廃し金利自由化政策を行ったが、1935年に暴利規制をする新たな規定を置き、金利自由化政策は終焉した(「利息制限法と公序良俗」小野秀誠 信山社 1999年参照)。
(2)利息制限法は当事者が定めた金銭消費貸借契約の内容を制限することから、契約自由の原則、意思主義を制約する保護法規的性格であり、規制緩和、金融自由化の流れの中にそぐわないとの指摘も散見される。
しかしながら、金利規制撤廃・緩和策が多数の「生活が破綻した支払不能者」が生み、憲法13条及び25条に反する事態を発生させることは既に述べたとおりである。また、そもそも金銭の貸借関係においては貸し手が経済的強者であり、借り手は経済的弱者である。とりわけ、記述の通り、多重債務者問題は相対的にみて低所得者層に主に生じており、貸し手との力関係は歴然としている。したがって、利息制限法を撤廃し、契約自由の原則、意思主義の原則を貫かねばならない背景事情にはない。労働契約において最低賃金を保障する必要があるのと同様である。
(3)利息制限法の規定する現行制限金利は、戦後の著しいインフレにあわせて利息の制限を定めた経緯があるなか、近時のわが国の公定歩合、銀行の貸出約定利率が極めて低い現状及び現在の平均的な勤労者世帯の返済余力(表1)に照らすと、極めて高い状況にある。
日弁連の統一消費者信用法要綱案(平成15年8月21日発表)では、過去10年間の国内銀行貸出約定平均金利に6%を上乗せした上限規制の提言を行っている。利息制限法の借主保護の目的を完遂するためには、同提言を参考に制限金利の引き下げを早急に検討することが必要である。
5. 金利自由化論に対する反論(アメリカと韓国の場合)
(1)規制緩和の流れの中で、自由競争原理に基づき、出資法、利息制限法を廃止ないし緩和せよとの主張が存在することについては既に述べたが、実際に、アメリカと韓国では、金利規制を全廃ないし緩和して金融の分野に自由競争原理を持ち込んだ結果、「弱肉強食」の結果を発生させ、果てしなく経済的困窮者を生み出すことになった。
(2)アメリカの金利の規制緩和(2003年3月日弁連消費者問題対策委員会「消費者信用事情訪米調査報告書」参照)。
アメリカでは、1980年代の規制緩和政策の一貫として、消費者金融市場においても自由競争によって、貸付金利の低下を企図する政策がとられ、金利規制を緩和ないし撤廃する州が多くなった。
しかし、この政策の結果、消費者金融の金利に関し選択の余地のない低所得層が、高金利の餌食となり、犠牲を強いられた。その典型は年数百パーセントにも及ぶ「ペイディローン」による被害であった。
また、債務者の無知窮迫につけ込み、住宅を担保にとって高利貸付を行い、債務者から住宅を取り上げてしまう「略奪的貸付」も横行し、大きな社会問題となっている。
これらの結果、アメリカでは、1980年に30万件弱だった消費者破産件数が2002年には約157万件にまで増加している。
(3)韓国の利子制限法の撤廃
韓国にも、以前は日本と同じように、貸付金利を制限する利子制限法(年25%程度)が存在していた。
しかし、1997年のアジア諸国の通貨危機は韓国にまで達し、その結果韓国は、IMFから融資を受け、その管理体制下に入った。そして、IMFは韓国に対し、急激な自由化、民営化を求め、その一貫として、利子制限法が撤廃され、金利が自由化された。
その結果、年利数百%もの超高利金融業者が横行し、信用不良者(多重債務者)が激増して政府の公式見解でも370万人を超え、経済的理由による自殺率は世界一と推計され、夜逃げ、犯罪が多発するなど大きな社会問題となった。
そのため、2002年10月に、急遽、貸付業法が制定され、金利規制が一部復活されたが、金利の上限金利は年66%と高利であり、しかも3,000万ウオン(日本円で約300万円)以下の貸付金にしか適用されないという不十分さが指摘されている。
(4)以上のように、アメリカ、韓国で、金利を自由化した結果、多数の多重債務者を生み、社会問題となった事実は、経済的弱者を保護する社会の「セーフティネット」として金利規制が不可欠であることを意味している。
6. 出資法の上限金利の引き下げとヤミ金融問題
(1)消費者金融業界は、2000年の出資法上限金利引き下げによる選別融資の結果、貸金業者の融資を受けられなくなった者がヤミ金融被害に遭っているなどとして、出資法上限金利を引き上げることがヤミ金融被害対策に必要であるかの如き主張をしている。しかし、かかる主張には科学的・統計的根拠は一切なく、単に、消費者金融業者の利益獲得のためになされているにすぎない。
(2)現行の出資法上限金利下における多重債務者とヤミ金融
既述のとおり、現行出資法上限金利のもとでは、消費者金融利用者のほとんどが返済余力を超えるか返済余力のぎりぎりの範囲内での返済を強いられているという現実が存在している。
出資法上限金利が引き上げられると、消費者金融利用者は、現在よりも高い金利での借入をせざるをえなくなるので、返済のやりくりはより苦しくなる。そのような利用者に対してヤミ金融から貸付の勧誘がなされると、同利用者が当面の返済資金を捻出するためにヤミ金融を利用する可能性は高い。このヤミ金融利用の構造は、現行上限金利のもとでも同様である。
また、東京の有志の弁護士等のグループは、出資法上限金利改正前の1999年6月、ヤミ金融245業者について警視庁生活経済課に事実上の刑事告発を行っている。このことは、出資法上限金利が現行上限金利以上のときからヤミ金融被害が多発していたことを意味する。
したがって、出資法上限金利を引き上げてもヤミ金融が減少するということにはならない。ヤミ金融をなくそうとすれば、ヤミ金融の金利が現行上限金利から大幅に乖離した実質年利1000%を超える異常なものがほとんどであることからすれば、かかる異常な程度まで上限金利を引き上げない限り不可能であるが、この結果が不合理であることは誰の目にも明らかである。
(3)そもそもヤミ金融は正当な取引活動ではなく金融取引に藉口した恐喝行為である。かかる犯罪行為撲滅に必要なのはヤミ金融対策法等による取り締りであって、出資法上限金利の引上げなどでは断じてあり得ない。
東京都に寄せられた苦情・相談受付件数を見ると、ヤミ金融被害の受付件数は、ヤミ金融対策法施行前の2002年に21,928件、同法刑罰規定先行施行後の2003年に15,088件、同法全面施行の2004年には6,874件へと激減している。
出資法上限金利はこの間変動していないのに被害件数が激減したのは、ヤミ金融対策法により取り締まりが強化されたことによるものであることは疑いの余地がない。
(4)以上により、出資法上限金利の引き下げとヤミ金融被害の問題とは全く無関係であり、それは理論的にも科学的・統計的にも根拠のない主張である。
むしろ、前述のような出資法の趣旨からすれば、現行の出資法上限金利は更なる引き下げが不可欠であって、現行の利息制限法所定利率まで引き下げられなければならない。
7. 日賦貸金業者、質屋、電話担保金融に対する例外措置の撤廃
現行法は、貸金業者のうち質屋・日賦貸金業者・電話担保金融について特例を設け、刑罰対象利率を、質屋につき年109.5%(閏年は年109.8%)、日賦貸金業者・電話担保金融につき年54.75%(閏年は年54.9%)とした上で、右利率をみなし弁済規定の上限利率としている (質屋営業法36条、出資法付則8・14項)。
法が、質屋・日賦貸金業者・電話担保金融について他の消費者信用取引と異なる扱いをしている根拠として、これまで社会問題化するような大きなトラブルまではなかったことや集金・担保物保管などにコストがかかることといった理由が挙げられている。
しかし、日賦貸金業者については、過酷な取立が問題となって、2000年6月に刑罰対象金利を引き下げる法改正がされているが(2001年1月1日施行)、これによって苛酷な取立は沈静化していないし、一般の貸金業者が高金利の取れる日賦貸金業者に移行しながら日賦業者としての要件を遵守していない事例も散見される。
また、コストについても、コストのかけ方は各業者により様々であり、例えば、質屋、日賦業者、電話担保金融以外の貸金業者であっても、立地条件のよい場所に店舗を構え、ATM設置などの設備投資を行えば、これらの業者よりもかかるコストは大きいのであって、質屋、日賦業者、電話担保金融であるからといって通常の業者との比較で一般的にコストが大きいとは言えない。特に、質屋や電話担保金融は、担保評価に担保物件管理コストを反映させることが可能であり、現実にも反映させていること、担保に取ることによって債権の保全がより確実に図られていることからすれば、通常の業者より高金利の取得を認める必要性はない。
加えて、電話金融担保については、携帯電話の普及に伴い電話加入権の価値は暴落している上、遠くない将来において電話加入権自体存在しなくなる蓋然性が高いのであり、現実にも電話担保金融業者の数は激減している。 したがって、これら例外措置は撤廃されるべきであり、出資法の上限金利は、例外なく、少なくとも利息制限法の制限金利まで引き下げるべきである。
8. みなし弁済規定の廃止
以上述べてきたように、出資法の上限金利を利息制限法の制限金利まで引き下げるとしたならば、必然的にいわゆるグレーゾーン発生の余地はなくなり、貸金業規制法43条は無意味な規定となり廃止されることとなるが、同43条は、以下の独自の理由によってもすみやかに廃止されるべきである。
貸金業規制法43条は、一定の業務規制を遵守した場合には利息制限法に対する例外を認めるという特典を与えることによって、貸金業者の業務の適正な運営を確保し、資金需要者等の利益の保護を図るべく、17条書面、18条書面の交付を含む一定の要件を満たす場合に、利息制限法の制限利率を超える利息・遅延損害金の支払いを有効な利息・損害金の支払いとみなしている。
しかし、かかる「みなし弁済規定」が多数の多重債務者を発生させ、生活が破綻した支払不能者を生み続ける要因となっていることについては、既にくりかえし、述べてきたとおりである。
最高裁は、みなし弁済規定は利息制限法に対する例外規定であることなどを理由に、「法43条1項の適用要件については、厳格に解釈すべきものである」(平成16年2月20日最高裁第二小法廷判決)との判断を示しており、みなし弁済規定は事実上死文化されたとの見方もあるが、上記のような弊害に鑑みれば、みなし弁済規定の存在自体が問題であるというべきであり、同規定は速やかに廃止されるべきである。
9. IT書面導入反対
以上のとおり、貸金業規制法43条は2重の意味において廃止されるべきであるが、同43条を存置し広く適用すべきだと主張する43条緩和論者の中には、みなし弁済規定の適用要件とされる17条書面や18条書面について、電子的手段によって代替させた書面(以下「IT書面」という。)の方が(1)保存・保管の確実性、(2)迅速性に優れており、消費者保護にもつながるとして、IT書面の導入を強く主張する者がいるので、IT書面の導入の是非について述べておく。
17条書面は、契約内容を明確化するとともに、利息約定、遅延損害金約定など、消費者の負担する債務内容の重大性を警告的に告知する書面であり、18条書面は、元金、利息、損害金の充当内訳を消費者側に明確に告知する書面である。これらの書面は、その都度の利用状況を消費者の目の前に示して借入金やその条件について注意を喚起するという重要な役割を担っている。
しかし、Eメールやホームページ上の記載は、その性質上、消費者が積極的に確認しようとしない限り、消費者の目にふれない可能性が高く、消費者の目にふれたとしても、紙の書面に比べインパクトが弱いため、「注意喚起」「警告」という役割を充分に果たすことができない。17条書面、18条書面の意義を考えると、いずれも紙による交付であることに意味があるというべきである。
また、そもそも、2000年に成立した「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」(IT書面一括法)において、貸金業規制法が対象から除外されたのは、「契約をめぐるトラブルが現に多発している」との理由によるものであった。このように、IT書面一括法の対象から除外された趣旨に鑑みれば、「契約をめぐるトラブルが現に多発している」事実が解消されたわけでもないのに、安易にIT書面の導入を認めるべきではない。
貸金業規制法の17条書面と18条書面に、IT書面を導入することには反対である。
以上


参考資料

表1 年収別の平均的な返済余力(2人以上の勤労者世帯)
総務省統計局編・家計調査年報平成16年家計収支編(2人以上の世帯)第4表「年間収入階級別1世帯当たり年平均1ヶ月間の収入と支出(勤労者世帯)」より抜粋
年収(万円) 月平均(円)
可処分所得 支出 黒字
0 ~ 199 135,277 116,189 19,087
200 ~ 249 195,316 193,938 1,377
250 ~ 299 221,961 202,233 19,728
300 ~ 349 243,941 217,761 26,180
350 ~ 399 282,728 228,640 54,088
400 ~ 449 300,068 239,520 60,548
450 ~ 499 320,366 257,271 63,095
500 ~ 549 345,444 271,013 74,431
550 ~ 599 368,192 275,064 93,128
600 ~ 649 402,007 298,461 103,545
表2 元利均等支払シミュレーション(表計算ソフトを使って作成)
元本(万円) 5年で返す場合の毎月支払額(円)
年利15% 年利18% 年利20% 年利25% 年利29%
50 11,849 12,696 13,246 14,675 15,870
80 19,031 20,314 21,195 23,481 25,393
100 23,789 25,393 26,493 29,351 31,741
150 35,684 38,090 39,740 44,026 47,612
200 47,579 50,786 52,987 58,702 63,483
250 59,474 63,483 66,234 73,378 79,354
300 71,369 76,180 79,481 88,053 95,225