• 文字を大きくしてご覧になりたい方へ
  • アクセス
  • サイトマップ
  • English
  • 修習生の方へ
  • 法律事務所職員の方へ
  • 会員サイトへ
  • ホーム
  •  
  • 弁護士に相談する
  •  
  • 法・司法制度を学ぶ
  •  
  • 私たちのメッセージ
  •  
  • 東京弁護士会を知る

都立定時制高校の廃校による募集停止措置についての意見書

平成16(2004)年6月7日

都立定時制高校の廃校による募集停止措置についての意見書


東京弁護士会
会長 岩井 重一

当会は、東京都教育委員会が平成9(1997)年9月に策定した「都立高校改革推進計画」の第一次実施計画、第二次実施計画に続き、「都立高校改革推進計画」新たな実施計画」として平成14(2002)年10月に発表した実施計画に基づく都立定時制高校の廃校による募集停止措置について、以下の通り意見する。

意見の趣旨

東京都教育委員会が平成14(2002)年10月に発表した「都立高校改革推進計画 新たな実施計画」に基づく、都立定時制高校の廃校およびそれに伴う募集停止措置は、生徒の学習権を侵害するものであり、かつ子どもの意見表明権などにつき定める子どもの権利条約の趣旨に反するおそれがきわめて強いものであるので、再検討すべきである。そしてその再検討の際には、当会の東京都への平成10(1998)年勧告(東弁人第76号)の趣旨も十分に踏まえ、定時制高校への通学を希望するすべての生徒について就学の機会が実質的に確保されるべく、通学時間等の就学条件の確保について、改めて十分に検討されるべきである。

意見の理由

第1 憲法26条1項は「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」と定め、明文をもって児童・生徒の教育を受ける権利、すなわち学習権を保障している。
そしてこれを受けて教育基本法3条1項は能力に応じた教育の機会均等を保障し、同2項は国および地方公共団体に対して能力があるにもかかわらず経済的理由によって就学困難な者に対する就学方法を講ずべきことを定めているほか、同法10条2項は、「教育行政について、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行わなければならない。」と定めている。
さらに子どもの権利条約第12条は自己に影響を及ぼすすべての事項についての子どもの意見表明権を定め、同条約第28条1項は、すべての子どもにとって中等教育が利用可能であり、これを利用する機会を与えるべきこと、すなわち子どもの教育機関へのアクセス権を定めている。

第2 東京弁護士会が平成10(1998)年に出した勧告
当会は上記各法条の趣旨をふまえ、平成10(1998)年3月23日、東京都に対し、(1)東京都教育委員会が平成5(1993)年度から実施した「3年計画」による都立定時制高校9校の廃校および同9校10学科の廃科による募集停止の措置について、生徒・保護者・教職員や地方自治体の意見を聴取し、再検討すること(2)今後、定時性高校生徒について通学距離・通学時間を自宅や職場から30分以内とするなど就学条件を確保すること(3)昭和53(1978)年度から実施している募集停止措置基準に戻すことを検討すること、の3点をその内容とする勧告を行った(東弁人第76号、以下「98年勧告」)。

第3 東京都の「都立高校改革推進計画 新たな実施計画」
しかるに、東京都は、平成14年(2002)年10月、「都立高校改革推進計画 新たな実施計画」(以下「新たな実施計画」)を発表し、その中で都立定時制高校についても、チャレンジスクール、新たなタイプの昼夜間定時制高校などの設置計画とともに、多数の都立定時制高校の廃校も含む(統合対象学校数44校)、以下のとおりの大規模な改革計画を発表した。

1 定時制高校に関する都立高校改革計画(平成14(2002)年10月24日発表)

(一)既存の定時制高校の統廃合と昼夜間定時制独立校の設置
東京都は、「多様化する生徒の実態に対応し、教育活動を効果的に進めるため」として、従来の夜間定時制課程を統合しながら昼夜間定時制独立校を設置することを発表した。

(二)今回の計画発表に先立って東京都が指摘していた「定時制教育の現状と課題」(「定時制検討委員会報告書」(平成14(2002)年5月)、「昼夜間定時制高校(新たなタイプ)基本構想検討委員会報告書」(平成15(2003)年4月))(なお、(「都立高校に対する都民意識調査(概要)」(平成13(2001)年10月)問32で、定時制教育改善についての都民意識調査がなされている(調査対象者については、小学校6年生以上の5000人をランダムに抽出したものとされており、回答方法は選択式である。)。また「平成14年度第1回東京都教育モニターアンケート集計結果(『都立高校改革推進計画・新配置計画(案)』について)」においても、新配置計画(案)について資料を配布した上で、アンケートがなされている(96名回答)。)
(1) 東京都は、定時制高校につき、勤労青少年に後期中等教育の機会を提供するために設置されたものとし、その現状について(1)生徒数の減少(2)不登校経験者や高校中退者等様々な生徒が在籍していることを指摘している。
そして、定時制の生徒は全日制以上に多様化しているという実態があるとして、その多様化する生徒・保護者のニーズに応え、全・定併置校が抱える施設利用や指導時間の重複などの課題を解決するため、午前部・午後部・夜間部の三部制の昼夜間定時制独立校の設置を中心に、定時制教育の改革が必要と提言した。
(2) 東京都の提示する改革の方向
東京都は(1)を前提として、定時制課程の改革の方向として以下のa~cの点を指摘している。
a 多様な教育活動の展開
社会人講師の活用等により、生徒の特性等に応じた適切な履修を可能とする。
b 昼夜間定時制独立校高校の整備拡充
・チャレンジスクールの設置
小中学校時代に不登校経験を持つ生徒や高校中退者等を主
に受け入れる単位制の昼夜間定時制独立校として、三部制の「チャレンジスクール」を設置する。
現在桐ヶ丘と世田谷泉の2校だが、全都で5校設置を計画。
・新たなタイプの昼夜間定時制高校の設置
三部制、普通科、3年で卒業可の、従来はなかった新たなタイプの昼夜間定時制高校を設置する。全部で4校設置を計画。
・定時制単位制高校(新宿山吹型)の設置
午前部・午後部・夜間部の多部制をとり、生徒が自己の関心等に応じて自主的に科目を選択していく無学年制の学校を設置する。
このタイプの学校としてすでに現在開校している新宿山吹のほかに、多摩地区にもう1校開校するという計画。
c 修業年限の弾力化
生徒の学習希望の多様化等に応じ、履修方法により3年での卒業を可能にする。

(三)配置実施方策
上記昼夜間定時制独立校の設置については、従来東京都が実施してきたいわゆる一次・二次計画で計画化されたチャレンジスクールや「新宿山吹型」といわれる昼夜間定時制高校に加え、新たなタイプの昼夜間定時制高校を設置し、これに周辺の定時制高校を統合する、とした。また、単学級校について、周辺に受け入れ可能な定時制高校がある場合、これに周辺の定時制高校を統合する、とした。さらに、2年連続で入学者数(平成14(2002)年5月1日現在)が10人以下の学校(学科)で、今後も応募者が増える見込みが少ない場合は、募集停止を行う、とした。

(四)統廃合計画学校数
計画実施による都立定時制高校の平成23(2011)年度の配置図は、別紙1(「新たな実施計画」109頁(参考図表13))のとおりである。なお、平成14(2002)年度の都立高校課程別・学科別配置一覧は別紙1(「新たな実施計画」103頁参考図表10)のとおりであり、平成23(2011)年度に都が想定する都立高校課程別・学科別配置一覧は別紙1(「新たな実施計画」105頁参考図表11)のとおりである。また、「新たな実施計画」につき都内の定時制高校の統廃合状況を図示すれば、別紙2(「『改革推進計画・新配置計画案』撤回 定時制闘争の記録」8頁)のようになるという(これは平成14(2002)年6月発表の新配置計画(案)に基づいて教職員組合が作成した資料である。)。
また、東京都が発表している設置学校数・統合対象学校数につ
いては、以下の図表の通りである(都の作成した「新たな実施計画」79頁の図表を引用)。
この適正化計画表によれば、チャレンジスクール、新たなタイ
プの昼夜間定時制高校、新宿山吹型の昼夜間定時制高校があわせて10校設置されるが、そのために現行の44校の定時制高校が統合対象になり、差し引くと34校分の廃校を生み出す計算となる。

区分 設置学校数 統合対象校数 差

チャレンジスクール 5校/19校/14校
新たなタイプの昼夜間定時制高校 4校/23校/19校
新宿山吹タイプの昼夜間定時制 1校/2校/1校

合計 10校 44校 34校

2 計画策定過程

(一)生徒またはその保護者からの意見聴取手続き
(1)今回の計画策定に際し、計画完成前に当時の定時制高校在籍生徒からの直接の意見聴取を行うことは制度的には行われていない。
なお教育庁関係者は、問い合わせに対し数度にわたり、「生徒の声は、校長を通じて聞く。」「生徒の声を直接聞くことはしない。」という趣旨の回答をしている。
(2)生徒の保護者たるPTA関係者は、基本構想検討委員会には委員として入っているものの、それらの者が定時制高校生徒の保護者であるか併置されている全日制高校の在籍生徒の保護者であるかは判然とせず、委員名簿中では全日制と定時制を意識的に書き分けていると見られるところからすると、同委員会に入っているPTA関係者は全て全日制生徒の保護者ではないかとも思われる。

(二)関係者からの意見聴取手続き
(1)基本構想検討委員会には学校長および定時制高校教頭が加わっている。
またPTAからの意見聴取状況は(一)で述べたとおりである。
(2)その他の外部者の参加については、平成15(2003)年4月24日に開催された東京都教育委員会定例会において、地域住民等から委員を入れるべきである、なぜ入れていないのかという趣旨の質問がなされている。
(3)その他、計画案発表後の説明会等を除いて、これまで本報告書にあげた他に、事前に広く一般意見聴取をするための手続きが制度的に行われたと認めるに足りる資料はない。

(三)東京都における議論状況
本件問題(定時制高校統廃合)については、上に述べたほか、東京都においては、以下などの議論が行われている。
(1) 東京都議会平成14年(2002)第3回定例会(9月25日)吉田信夫議員代表質問
夜間定時制高校の統廃合計画につき、夜間定時制高校は少人数教育の中で自分の成長の場を見いだしている生徒がいること、不登校経験のある生徒などにとって、かけがえのない存在になっており、東京の高校教育の重要な財産であるので、計画を撤回すべきとするもの。
この質問に対しては、教育長が回答した。その回答内容は第3・1で示されたところと同趣旨であった。
(2) 東京都議会文教委員会平成14(2002)年10月29日
「新たな実施計画」について、都立高校改革推進担当課長からその内容の報告があった。
(3) 同平成15(2003)年6月19日
定時制高校の統廃合計画の見直しについての各所からの請願・陳情に対し、都立高校改革推進部長が説明を行った。その説明内容は、統廃合に伴う移転についての説明、計画については関係者の意見を十分に尊重するべきである、具体的に基本構想検討委員会を設置するなどしているという説明などであった。
それに対しては委員より、都は夜間定時制高校の存在意義をどのように考えているのかという質問、統廃合の実施方法に関する疑問、全定併置の弊害とはどのようなものかという質問、負担が増える生徒への対応はどうするのかという質問、計画を拙速に実施すべきではなく時間をおいて考えるべきではないかという趣旨の意見、中高一貫教育校に定時制を併置しない理由についての質問、統廃合への反対意見書などが提出されたときにそれについてきちんと議論がされているのかという趣旨の疑問、改革を進めていくにあたって、当事者とくに主体者である生徒の意向を十分にくんで、合意・納得を図るために一層の努力をしてもらいたいという意見、生徒の声を直接聞くべきだという意見・要望などが発言されている。

第4 「新たな実施計画」の問題点
1 新たな実施計画における現行の夜間定時制課程の評価について
(一) 東京都は平成14(2002)年10月に決定した「新たな実施計画」において、前述した通り、「夜間定時制課程においては、勤労青少年である生徒は1割未満であり、小・中学校時代に不登校を経験した生徒をはじめ多様な生徒が通学している実態があ」る、「勤労青少年に後期中等教育の機会を提供するため主に夜間に設置された定時制課程では、生徒数が減少する一方で、不登校経験のある生徒や高校の中途退学者など様々な生徒が在籍してい」る(「新たな実施計画」49頁)とし、「定時制の生徒は全日制以上に多様化して」いるという実態があるとして(同49頁)、このような多様化した「生徒の実態に即した教育を展開していくことが、喫緊の課題」となっている(同49頁)とした上で、このような「多様化する生徒・保護者のニーズに応え」るため、また「全・定併置校が抱える施設利用や指導時間の制約などの課題を解決する」ために、「定時制教育の条件改善を図っていくことが必要」とし(同49頁)夜間定時制高校の大規模な統廃合が定められているが、これは、東京都が現行の夜間定時制課程が多様化する生徒のニーズに応えきれなくなってきており、生徒の実態に即した教育を展開できなくなっているとの把握、を前提としているものと考えられる。

(二) 確かに、東京都が新たな実施計画で指摘する生徒の多様化とこの多様な生徒のニーズに応える必要性ということ自体は、多様な子どもの学習権にこれまで以上に対応していくという意味において首肯しうるものであって、新たな実施計画で定時制課程に関する新たな学校として提起されるチャレンジスクールや新たなタイプの昼夜間定時制高校等の設置も、かかるニーズにより細かに応えていくという意味で肯定的な評価をすることができる。
しかしながら、新たな実施計画は、こうした新たなタイプの学校を設置する反面として、既存の夜間定時制について大幅な統廃合をしようとするものであり、このことが果たして東京都が新たな実施計画でいう子どもの多様なニーズに応えるものと言えるかについては、以下の通りに、大きな疑問を否定しきれないものと言わざるを得ない。
まず、新たな実施計画で現行の夜間定時制課程が生徒のニーズに適合しなくなっていることの根拠として指摘されている「夜間定時制課程においては、勤労青少年である生徒は1割未満であ」るとの点に関しては、そこにいう「勤労青少年」とは正規雇用者のみを意味しているとされ、夜間定時制課程の生徒のうちアルバイトを含めて職に就いている生徒の比率については東京都として調査はなされていないというのであり、この点において、新たな実施計画のよって立つ前提の裏付けは不十分であると言わざるをえない(なお、後述2(三)(1)参照)。この点につき、東京都は廃校の理由として、「勤労青少年」が減少していることを指摘しているが、現在の時代情勢の下では成人といえどもアルバイト・パートなどの非正規雇用での労働が多いという状況を踏まえて考えるに、正規雇用でないということを理由に非正規雇用者を「勤労青少年」から除外して考えているとすれば、実態をふまえていないものと言うべきである。
さらに、そもそも、少子化の中で子どもの人口の減少に伴い都立全日制高校への進学者はその絶対数も比率も一貫して減少してきていることは都が指摘する通りであるとしても、これに対し、現行の夜間定時制課程への進学者数については、子どもの数の減少にもかかわらず絶対数において減少することなく平成9(1997)年ころからは横ばい傾向にあり、また都立高校全日制に通う生徒数との比率でみると定時制高校生徒数はむしろ増加傾向にある(別紙1「新たな実施計画」100頁、101頁図表)。すなわち、都立全日制高校に通う生徒と都立定時制高校に通う生徒の比率を比較すると、平成11(1999)年は定時制に通う生徒は全日・定時制に通う生徒総数の8.5%(13,316/156,571)、平成12(2000)年は8.7%(13,546/154,939)、平成14(2002)年は9.2%(13,446/146,264)となっており、近年の生徒数は横ばいであるし、上記のとおり比率的にはむしろ増加傾向にあるとも評価できるのである。

(三) 加えて、東京都は、全・定併置校が抱える施設利用や指導時間の重複などの課題(いわゆる「全定併置の弊害」)の解消も今回の定時制課程改革の理由のひとつにあげるが、これについても現場教員からは、この問題は学校現場においてはその自発的努力により工夫、解決がなされてきたとの指摘があるが、東京都の資料の中に、このような指摘に対する十分な言及はみられず、当会の聴き取り調査を経ても、その点について現状では解消が不十分な弊害があるのか、十分な検討がなされたのかという点の疑問は、払拭されない。そのような中で、現状に変更を加えてあえて解消すべきほどの弊害があるのか、また今回の改革が新たな弊害を生まないのかなど、疑問が残るところである。

(四) かかる最も基礎的なデータだけからみても、東京都の新たな実施計画が前提としていると思われる、現行の定時制高校が多様化する生徒の実態に即した教育を展開できなくなっているなどの根本前提そのものが実態に即したものと言えるのかとの疑問を提起せざるを得ないのであり、この点に関して東京都の前記前提を裏付ける根拠が提示されているとは認めがたい。

2 子ども・生徒の学習権、中等教育機関へのアクセス権
(一) 学習権の意義
憲法26条1項は、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と明文もって子どもの教育を受ける権利を保障している。
そしてこの子どもの教育を受ける権利に対応して、教育基本法3条1項は、国又は地方公共団体に対して、子どもの能力に応じた教育の機会均等を保障し、同法第2項において、能力があるにもかかわらず経済的理由によって修学困難な者に対する奨学方法を講ずべきことを命じている。
また、教育基本法10条2項は、国又は地方公共団体は、「教育行政について、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行わなければならない」と定めている。
この国又は地方公共団体に課せられた教育の条件整備義務の反面として、子どもは具体的な学習権を有し、すなわち、適正に配置された通学条件の良い学校に通う権利が認められており、学校教育法施行規則1条2項において「学校の位置は、教育上適切な環境に、これを定めなければならない」とされている点もこの権利の一内容と解される。
この点に関しては、当会・98年勧告の際の報告書が詳細に論じている通りであって、特に「国及び地方公共団体の条件整備義務の反面として、子どもの学習権が適正に配置された通学条件のよい学校に通う権利を含むことは、当然のことであるした上で、とりわけ、『一旦確保された適正に配置された通学条件の良い学校』という条件を改悪する方向での見直しには、特段の合理的理由が求められる」としている点に留意されるべきである。

(二) 中等教育へのアクセス権の意義
さらに、子どもの権利条約第28条1項は、すべての子どもにとって中等教育が利用可能であり、これを利用する機会を与えるべきこと、すなわち子どもの中等教育機関へのアクセス権を定めている。

(三) 本件における学習権、中等教育機関へのアクセス権の侵害
かかる学習権の意義からすれば、第4・1で述べたような、新たな実施計画の寄って立つ前提そのものへの疑問を別としても、新たな実施計画による既存の夜間定時制高校の統廃合は、以下に述べるとおりに、子ども・生徒の学習権、中等教育機関へのアクセス権を侵害するおそれがきわめて強い。
(1)a 新たな実施計画による既存の夜間定時制高校の統廃合は、それにより学校数が減少する以上、現在通学中の生徒及び将来の入学を希望する生徒にとって、通学距離の拡大及び通学時間の長時間化をもたらす。
b まず就業(アルバイトを含む)している生徒にとって、通学距離の拡大及び通学時間の長時間化は、そもそも通学を継続していくことができるのか、高校生活を全うすることができるのかということに直結する死活問題である。実際に都立定時制高校生全体の生徒についての就業率(アルバイトを含む)は約6割に達しているのであり、昼間に就業している生徒は、例えば午後5時に勤務時間が終了して授業開始の午後5時30分に間に合う場所にある定時制高校でなければ通学を継続できない。通学時間に関する東京都高等学校教職員組合の調査によっても、通学時間は、30分ぐらいと答えた生徒が7割を超え(75.25%)、40分ぐらいと答えた生徒を含めると、8割を大きく超え9割近く(87.97%)になっている。通学時間が30分を大きく越えることになる場合、就業生徒の通学継続すなわち学校へのアクセスが肉体的、精神的に困難になることは明らかである。
c また、心身にハンディキャップをもつ生徒にとって、通学距離及び通学時間の問題がその肉体的、精神的な負担の面から一層切実であることも明らかであり、通学距離の拡大及び通学時間の延長により、従前と比較して大きな不利益を被ることになることは明らかである。
d 東京都は、生徒の多様なニーズに応えるためということを制度改革の目的とするとしながら、実際には新たな実施計画は、生徒にとっての基本的なニーズであることが明らかな通学距離及び通学時間について、生徒のニーズ即ち生徒の学習権・中等教育機関へのアクセス権の観点からみて、従前の条件を改悪するものであって、この意味で新たな実施計画は、生徒のニーズを損なうものであると言わざるをえない。
e 以上、都立高校改革推進計画に基づく定時制高校の統廃合の実施は、通学時間や通学距離の点で、勤労学生、不登校の子どもたちなど多様な生徒の通学可能な条件を奪うこととなるから、かかる募集停止の実施は、地方自治体に科せられた教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備を義務づけた教育基本法10条2項に反し、適正に配置された通学条件の良い学校に通う権利としての生徒の学習権・中等教育機関へのアクセス権を侵害するものである。
(2) また、既存の定時制高校への入学者の中には、定時制高校がもともと少人数で家庭的な雰囲気の中の単学級(ないし少数学級)であるからこそ、入学を希望したという生徒も少なくない。そして今後もかかる意味で入学を希望する生徒が出てくる可能性は十分にある。
特に、様々な原因で中学校まで不登校であった生徒や引きこもり傾向であった生徒、心身にハンディキャップをもつ生徒、外国からの帰国子女、外国から日本に帰化した生徒、在日外国人などの外国人生徒、社会に出たあと高校卒業の必要性を感じて入学してくる成年者の生徒、昼間就業しながら夜間勉学する勤労生徒などを積極的に受け入れることも都立定時制高校の大切な役割であり、このことは東京都自身も認めていたところである(98年勧告の際の東京弁護士会の調査における平成9(1997)年12月4日付け東京都教育庁からの事情聴取結果)。即ち、既存の定時制高校は、不登校の生徒や中途退学者のいう、「定時制高校には少人数学級のよさがある。人数が少ないからいやすいし、安心できて少人数で先生が親切である。」という柔らかな教育の場としての機能を果たしている。困難を抱えた子どもたちは、定員20人という少人数のクラスに安心して通う中で自信をつけ友達と一緒に卒業することで社会的自立を果たしている現実が存在するとの声もある。このように、教育から一旦離れかけた子どもたちを学校に復帰させ、社会に巣立っていくことを支援していくという定時制高校の現在果たしている役割は無視できないのである。なおこの点については、都立定時制高校に通う生徒の4割近くが中学時代に不登校を経験しているとの調査結果も発表されている。
(3) 東京都は、現行の夜間定時制課程が多様化する生徒のニーズに応えきれなくなってきており生徒の実態に即した教育を展開できなくなっているという把握の根拠として、定時制高校の受験倍率の低さと全定併置の弊害をあげている。
しかし、すでに述べてきたように、今回の新たな実施計画が実施された場合、チャレンジスクール、新たなタイプの昼夜間定時制高校、新宿山吹型の昼夜間定時制高校があわせて10校設置されるとしても、平成14年度で101校存した定時制高校のうち44校が統合対象になり募集停止廃校となってしまうものであり、この意味で現行の都立定時制高校の半数近くを統廃合してしまうことを内容とするものである。また新たに設置される昼夜間定時制高校等が、上記の意味での、現行の夜間定時制課程と同様の、少人数で家庭的な雰囲気の中の単学級(ないし少数学級)という性格をもつ保証はない以上、前述した生徒達ないし将来的に定時制に通学する可能性のある生徒達にとって、選択可能な学習権実現の場を奪うことになるおそれがきわめて大きく、この意味においても、将来の定時制高校の生徒の学習権・中等教育機関へのアクセス権を侵害するおそれがきわめて強いものと言わざるをえない。

3 子ども・生徒の意見表明権・表現の自由
(一)意見表明権の意義
子どもの権利に関する条約12条には子どもの意見表明権について以下のとおり明記されている。
「1、締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。
2、このため、児童は特に、自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続きにおいて、国内法の手続き規則に合致する方法により直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて聴取される機会を与えられる。」
かかる条約上の意見表明権を前提とし、この権利に関連して、国連子どもの権利委員会は、本年1月30日に採択された統括所見において、子どもに影響する全ての事項、家庭、裁判所及び行政機関、施設、学校、並びに政策立案において、子どもの意見の尊重と子どもの参加を促進し、助長するとともに、子どもに、この権利を確実に認識させることを勧告している(後述第5)。

(二)表現の自由の意義
子どもの権利に関する条約13条1項には、子どもの表現の自由について以下の通り明記されている。
「児童は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態または自ら選択する他の方法により、国境との関わりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。」

(三)本件における子どもの上記諸権利の侵害
(1)本件において問題となる、定時制高校生については、16才以上の年齢に達しているので、上記の児童の権利に関する条約第12条にある「自己の意見を形成する能力のある児童」及び13条にある「児童」に該当する。つまり、このような児童は自己に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利、またあらゆる種類の情報及び考えにつき表現する自由を保障されているのである。
したがって、東京都は、「新たな実施計画」を策定するにあたって、特に現に定時制高校に通う生徒、募集停止となった場合、何らかの不利益を直接受ける在校生、自らの出身校を失うことになる生徒の意見を表明する権利を尊重すべきであった。
(2)また、募集停止を予定される高校の当事者として、生徒だけでなく、保護者、現場の教員や学校管理者としての校長等についても、当該高校の廃校も予定される以上、計画実施案策定手続きの中で、意見聴取の機会を確保しなければならない。このことは、行政手続きにも憲法31条の適正手続きの保障が及ぶという確立された考え方からも当然のことといえる。しかるに本件においては、生徒の保護者や実際に教育にあたる現場の教員からも事前に直接意見を聞いていないとみられ、このことも大きな問題であるといわざるをえない。
(3)特に、現に通学中の生徒は直接不利益を受ける者であるにもかかわらず、東京都は、未成年者とはいえ16歳以上の年齢であり意見を表明することができる生徒の意見を直接聴取しなかったばかりか、在校生が東京都の担当者に説明を求めに行った際に、教育的配慮の名目の下に面会を拒絶したことが本件調査の端緒となった人権救済申立において提出された資料及び生徒自身の聞き取り調査により判明している。
東京都は、校長を通じて生徒の意見を聴取したと主張するが、校長は学校運営の担当者であり、東京都教育委員会に選任された学校行政の担当者である。校長を通じて意見を聴取したとしても、それでは必ずしも十分に生徒の意見を聴取したことにはならない。また、アンケート調査内に、定時制高校への進学希望を述べる可能性がある、例えば不登校の生徒が含まれているのかどうかにつき、都教育庁は明確に回答できないなど、その点からみても、都が生徒の声を聞こうという点を意識して調査をしたとは認められない。
「全定併置の弊害」は、全日制の都立学校が夜間に学校を使用できず、定時制高校が昼間学校を使用できないことを主たる理由とするものであるが、全・定併置は、夜間定時制高校を通学者の通学可能な範囲に設置するためのもっとも効果的な制度であって、全・定併置を解消した場合、生徒らの通学可能な所に夜間定時制高校がないという事態が広く起こりうる。にもかかわらず、直接在校生の意見を聴取しないで、これまで述べてきたような不十分な調査のみによって、全日制を残し、定時制高校を募集停止、廃校にすることは、子ども・生徒の諸権利を侵害するおそれがきわめて強い。
都は、新宿山吹高校の入試の志願倍率が高いこと等を例に取り、新宿山吹型のような新たなタイプの定時制高校が求められていると言う。しかし、新宿山吹型の高校が一定の子どものニーズに応えていることは事実だとしても、それはそのまま今回のように多くの定時制高校の統廃合を正当化する直接の根拠となるわけではない。定時制高校の統廃合には、さらに積極的かつ特に合理的な理由が必要である。その点からして今回は統廃合の理由が十分ではない。
なお、ある種類の高校の必要性は必ずしもその志願倍率のみではかれず、仮に高校の存在意義の評価を志願倍率のみで図ろうとする発想があるとすれば、その様な発想は、子どもの学習権の保障という観点からはとうてい受けれがたいことは、ここであえて言うまでもない。
(4)以上の理由により、東京都が「都立高校改革推進計画 新たな実施計画」策定にあたって事前に生徒から意見を聴取しなかったことは、子どもの意見表明権、表現の自由を保障する子どもの権利に関する条約12条、同13条の趣旨に違反する恐れがきわめて大きいものといわざるを得ない。

4 東京弁護士会の98年勧告
(一) 東京弁護士会は、平成10(1998)年3月23日、当時の青島東京都知事に対し、東京都教育委員会が平成5(1993)年度から実施した「3年計画」による都立定時制高校9校の廃校および同9校10学科の廃科による募集停止の措置について、同措置が在校生及び将来の入学希望者の学習権を侵害するものであるとした上で、(1)前記の廃校及び廃科による募集停止の措置について、生徒・保護者・教職員や地方自治体の意見を聴取し、再検討すること(2)今後、定時制高校生徒について通学距離・通学時間を自宅や職場から30分以内とするなど就学条件を確保すること(3)昭和53(1978)年度から実施している募集停止措置基準に戻すことを検討すること、の3点をその内容とする勧告を行った(東弁人第76号)。

(二) 上記の勧告の理由は、募集停止の措置が、生徒・保護者・教職員の意見を聴取しないで強行されたこと、および、募集停止は、通学時間や通学距離の点で、勤労学生、中途退学者、不登校の子どもたちなど多様な生徒の通学可能な条件を奪うこととなるから、地方自治体に科せられた教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備を義務づけた教育基本法10条2項に反し、適正に配置された通学条件の良い学校に通う権利としての生徒の学習権を侵害するものであることであった。

(三) しかるに、かかる勧告にもかかわらず、その後東京都において、勧告に沿った再検討の措置が採られた事実は認められない。
そればかりか、今回の定時制高校統廃合計画についても、当会が平成10(1998)年に出した勧告の趣旨が基本的に妥当するばかりか、さらなる統廃合を行うという意味で、同勧告にいう学習権侵害・中等教育機関へのアクセス権侵害の程度はいっそうはなはだしいものとなっていると言わざるをえない。
前回の「3年計画」の時は、計画により募集停止される定時制高校の数は9校であったのに対し、平成14(2002)年度の都立定時制高校101校(分校1校を含む)のうち、今回の新たな実施計画により統合対象となる定時制高校は44校となる(第三・1(四)参照、別紙1「新たな実施計画」80頁から84頁)。新たな実施計画の実施により新しい形態の定時制高校ができるとしても、定時制高校が同計画実施前と比較して差し引き34校減少する(都の作成した第三・1(四)図表参照)結果となるということであり、前回勧告のときと比べても募集停止の影響が比較にならないほど大きいものとなることが必至である。
さらに言えば、このたびの調査によっても、前回勧告でその改善を指摘されていた制度改革をさらに推進する計画を内容とする今回の計画策定に先立って、生徒、保護者、教職員の意見を直接聴取する手続が制度的に実施されていなかったことが認められることはすでに述べたとおりであるし、またこれもすでに述べたように、今回の計画の前提となっている現行の夜間定時制課程の評価について、疑問があると言わざるを得ない。その意味で、今回の定時制課程のさらなる統廃合計画に、とくに合理的理由を見いだすことは困難である。

(四) 以上のように、今回の「新たな実施計画」についても、98年勧告の趣旨は基本的に妥当するばかりか、同勧告にいう学習権侵害、中等教育機関へのアクセス権の侵害の程度はいっそうはなはだしいものとなっているといえる。

第5 国連子どもの権利委員会の勧告
国連子どもの権利委員会は、日本政府の第2回定期報告書を審査し、平成16(2004)年1月30日に開かれた第946回会合において、日本への第2回統括所見を採択した。その中で、国連子どもの権利委員会は、特に、東京都の定時制高校統廃合計画について、以下のとおりの懸念を示し、勧告している。

「教育、余暇および文化的活動に関する(条約題28条、第29条および第31条)第2回統括所見
(懸念事項)
49 e とくに中退した生徒を対象として柔軟な教育機会を提供している東京都の定時制高校が閉鎖されようとしていること
(勧告)
50 c 東京都に対し、定時制高校の閉鎖を再検討し、かつ代替的形態の教育を拡大するよう奨励すること」

上記の勧告採択前の本審査において、国連子どもの権利委員会から、政府代表団に対して、なぜ東京都が定時制高校を廃止するのか、生徒の数が少ないとしても子どもに教育にアクセスする機会を与えるべきではないかという質問があった。 国連子どもの権利委員会は、現在の東京都の夜間定時制高校が、その柔軟な指導体制の中で困難を抱えた子どもたちに対する教育の場として十分に機能していることを評価している。国連によるこの懸念事項、勧告の趣旨も、これまで検討してきた諸点につき、当部会と同旨の見解に基づくものと考えられる。
また今回の総括所見では、「49a 教育制度の過度に競争的な性質によって、子どもの身体的および精神的健康に悪影響が生じ、かつ子どもが最大限可能なまでに発達する権利が阻害されていること」についても懸念を表明している。
入試の志願倍率が高いことをもって生徒の希望が高い学校であると評価し、「新たな実施計画」における都立高校の統廃合の基準のひとつとしているかのような東京都の施策は、中学生の中に新たに過度の競争を出現させるおそれがないのか、慎重な検討が必要である。

第6 結論
よって、東京都教育委員会が平成14(2002)年10月に発表した都立高校開発推進計画についての「新たな実施計画」に基づく、都立定時制高校の廃校およびそれに伴う募集停止措置は、生徒の学習権を侵害するものであり、かつ子どもの意見表明権などにつき定める子どもの権利条約の趣旨に反するおそれがきわめて強いものであるので、再検討するべきである。そしてその再検討の際には、先に触れた当会による東京都への98年勧告(東弁人第76号)の趣旨も十分に踏まえ、定時制高校への通学を希望するすべての生徒について就学の機会が実質的に確保されるべく、通学時間等の就学条件の確保について、改めて十分に検討されるべきである。

以上
戻る
▲このページのトップヘ