アクセス
JP EN

生活保護法施行規則の一部を改正する省令(案)に対する意見

2014(平成26)年3月27日
東京弁護士会 会長 菊地 裕太郎

 生活保護法施行規則の一部を改正する省令(案)(以下「省令案」という。)に関するパブリックコメントについて、当会は以下のとおり意見する。

 印刷用PDFはこちら(PDF:143.1KB)

1 省令案はこのままでは容認できない

 改正生活保護法については、申請手続の厳格化等によりいわゆる「水際作戦」を合法化する等の批判や懸念が各方面から多数出された。当会も、昨年6月12日付で「『生活保護法の一部を改正する法律案』の廃案を求める会長声明」を発し、改正法案の孕む問題点について指摘したところである。
 国会審議においては、これらの批判や懸念を解消する方向での法文修正、答弁、附帯決議等がなされた。しかし、今般示されている省令案は、以下の諸点においてこれら法文修正等の意義を何ら踏まえておらず、到底容認できないものであり、全面的に見直されるべきである。

2 「保護の開始等の申請」について

(1) 従来厚生労働省は、保護の開始等の申請が要式行為ではなく、口頭による申請も可能であることを認めていた。国会審議においては、生活保護法の一部を改正する法律(平成25年法律第104号)による生活保護法(以下「改正法」という)第24条第1項につき、上記の批判や懸念を踏まえて、申請行為と申請書提出行為が別であることを明確にする法文修正が行われ、参議院厚生労働委員会の附帯決議でも「申請行為は非要式行為であり、・・口頭で申請することも認められるというこれまでの取扱い・・に今後とも変更がないことについて、省令、通達等に明記の上、周知する」とされた。
 ところが、省令案は「保護の開始の申請等は、申請書を保護の開始を申請する者(以下「申請者」という。)の居住地又は現在地の保護の実施機関に提出して行うものとする。」として、修正前の法文と同様に、保護の申請には申請書の提出が義務づけられており口頭での申請は認められないかのような誤解を招く表現に戻されている。

(2) また、省令案は、「ただし、身体上の障害があるために当該申請書に必要な事項を記載できない場合その他保護の実施機関が当該申請書を作成することができない特別の事情があると認める場合は、この限りではないこととする。」として、口頭による申請が認められる「特別の事情」(改正法第24条第1項ただし書き)は、身体障害の場合等に極めて限定されているかのような誤解を招くものとなっている。加えて、改正法第24条第1項ただし書は、単に「当該申請書を作成することができない特別な事情があるとき」であるのに、省令案は、上記のとおり「特別の事情」の有無の判断を実施機関に委ねるものとなっている。

(3) さらに、従来厚生労働省は、要否判定の必要書類等の提出は申請から保護決定までの間に行えばよいとしていたところ、国会審議においては改正法第24条第2項に「ただし、当該書類を添付することができない特別の事情があるときは、この限りでない。」とのただし書を付する法文修正がなされ、かつ上記附帯決議においても「要否判定に必要な資料の提出は可能な範囲で保護決定までの間に行うというこれまでの取扱いに今後とも変更がないことについて、省令、通達等に明記の上、周知する」とされた。
 しかし、省令案は、この点に関して一切記載がなされておらず、上記附帯決議に反している。

(4) 以上から、省令においては、①申請行為は非要式行為であり、口頭で申請することも認められるというこれまでの取扱いに沿って修正された改正法第24条第1項の文言に則した表現にすべきであり、②口頭による申請を認める「特別の事情」(改正法第24条第1項ただし書)を限定する文言、「保護の実施機関が・・と認める」という文言は削除すべきであり、③申請書の記載事項に不備があったり添付書類に不足があったりした場合でも、申請書を受け付けたうえで相当の期間を定めて補正を求めることを明記すべきである。

3 「扶養義務者に対する通知」及び「扶養義務者に対する報告の求め」について

(1) 省令案は、改正法第24条第8項ただし書の「あらかじめ通知することが適当でない場合」として、また改正法第28条第2項の扶養義務者に報告を求めることが適当でない場合として、①「保護の実施機関が、当該扶養義務者に対して法第77条第1項の規定による費用の徴収を行う蓋然性が高い場合」、②「保護を開始する者が配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(略)第1条第1項に規定する配偶者からの暴力を受けているものであると認めた場合」、③「①及び②のほか、保護の実施期間が、当該通知を行うことにより保護を開始する者の自立に重大な支障を及ぼすおそれがあると認めた場合」を規定するとしている。これは、原則として上記通知を行い報告を求めるが、上記①ないし③に該当する場合にのみ、例外的に上記通知や報告要求を行わないというものである。

(2) しかし、上記通知や報告要求については、厚生労働省の「生活保護関係全国係長会議資料」において、「福祉事務所が家庭裁判所を活用した費用徴収を行うこととなる蓋然性が高いと判断するなど、明らかに扶養が可能と思われるにもかかわらず扶養を履行していないと認められる極めて限定的な場合に限ることにし、その旨厚生労働省令で明記する予定である」と記載され、昨年5月31日の衆議院厚生労働委員会において村木厚子社会・援護局長(当時)も同趣旨の答弁をしていた。即ち、原則として上記通知や報告要求は行わず、これらを行うのは「家裁を活用した費用徴収を行う蓋然性が高いと判断される」極めて例外的な場合に限るものとしていたのである。
 ところが、省令案は、原則と例外を完全に逆転させ、原則的に通知や報告要求を行うが、通知等を行わない例外的場合として①ないし③を規定するとしている。これでは、実施機関が①ないし③の場合であると積極的に認定した場合以外においては通知を行い、報告要求も行うことになる。また、家裁を使った費用徴収を行うか行わないか判断しかねる場合、国会答弁では通知や報告要求をしないはずであったが、省令案では通知や報告要求を行うべきこととなる。このような省令案は到底容認できない。

(3) そこで、省令においては、上記係長会議での説明や国会答弁のとおり、上記通知や報告要求を行うのは「福祉事務所が家庭裁判所を活用した費用徴収を行うこととなる蓋然性が高いと判断するなど、明らかに扶養が可能と思われるにもかかわらず扶養を履行していないと認められる極めて限定的な場合に限る」と規定すべきである。

以上