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会社法の改正に伴う会社更生法施行令及び会社法施行規則等の改正に関する意見募集に対する意見書

2014(平成26)年12月25日
東京弁護士会 会長 髙中 正彦

会社法の改正に伴う会社更生法施行令及び会社法施行規則等の改正に関する意見募集に対する東京弁護士会の意見は、以下のとおりである。

提出した意見書(PDF:200KB)

凡例

第1 意見書本文

おおむね、会社法施行規則改正案に記載の順に沿って意見を記載した。

第2 略称一覧(下線部が略称を示す。)

1 概要 前記意見募集の関連資料である「会社法の改正に伴う会社更生法施行令及び会社法施行規則等の改正の概要」

2 法令等
会社則案 会社法施行規則改正案
会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号)による改正後の会社法
会社則 現行の会社法施行規則
要綱 法制審議会「会社法制の見直しに関する要綱」(平成24年9月7日)

該当項目

本文

【該当項目】
特別支配株主の株式等売渡請求に係る規定の整備

【意見】
 会社則案33条の6において、売渡株主等に対して通知すべき事項から、会社則案33条の5第1項1号の株式売渡対価の支払のための資金を確保する方法が除外されているが、同号の事項も通知すべき事項に含めるべきである。

【理由】
1 法179条の2第1項は、特別支配株主が株式売渡請求を行う場合には、同項各号に掲げる事項を定めてしなければならないと規定しており、当該各号に掲げる事項は、株式売渡請求の相手方である対象会社の株主に対して行う株式売渡請求の内容を定めるものであると解される。かかる同項の規定に鑑みれば、同項6号の規定に基づき会社則案33条の5に定められる事項は、株式売渡請求の内容として、全て株主に対して通知すべきものであると考えられる。
2 実質的にも、特別支配株主が株式売渡対価の支払のための資金を確保できるかどうかは、株式を売却することとなる売渡株主等にとっては重要な情報であり、「株式売渡対価の交付の見込みに関する事項」が事前開示事項として規定されている(会社則案33条の7第2号)のも、株主の利益保護の観点から、株主に上記情報を提供する趣旨である。
3 しかし、上記のとおり事前開示事項として「株式売渡対価の交付の見込みに関する事項」が定められているものの、事前開示書類の閲覧請求等(法179条の5第2項)を行わなければ株式売渡対価の支払が確保されているか否かについて株主が何らの情報も得られないというのは、株主の利益保護として不十分と思われる。そこで、会社則案33条の5第1項1号の「株式売渡対価の支払のための資金を確保する方法」が売渡株主等に対する通知事項に含まれることとすれば、株主としては、かかる通知により、売渡対価の交付の見込みについて懸念があるか否かの検討の端緒を得ることができる。一方、対象会社に対してかかる事項の通知を求めたとしても、その内容は、事前開示事項である「株式売渡対価の交付の見込みに関する事項」とは異なり、その資金確保の方法に限られることから、これを通知する対象会社において過度な負担になるものとも考えられない(注)。

(注)株式売渡対価の交付の見込みを判断するに当たっては、対象会社の取締役(会)は預金残高証明等を確認することが想定されているが(坂本三郎ほか・「平成二六年改正会社法の解説〔Ⅶ〕」旬刊商事法務2047号10頁)、会社則案33条の5第1項1号の「株式売渡対価の支払のための資金を確保する方法」としては自己資金又は銀行借入れ等の記載で足りるものと考えられ、預金残高証明等を株主への通知事項に含めることが求められるわけではないはずである。

【該当項目】
支配株主の異動を伴う募集株式の発行等に係る規定の整備

【意見】
1 会社則案42条の2第5号中「取締役会の判断及びその理由」としていかなる記載が求められるかが必ずしも明確でないため、「特定引受人の選定、発行条件の合理性、当該割当て又は契約締結の必要性に関する取締役会の判断及びその理由」といった形で具体化することが望ましい。
2 会社則案42条の2第5号中に、「法第206条の2第4項ただし書に該当すると取締役会が判断する場合にはその理由」を加えたうえ、同項ただし書の事由については会社則第42条の2第6号、第7号における社外取締役及び監査役の意見の対象とするべきである。
3 会社則案42条の2に規定する事項として、特定引受人(その子会社等を含む。)の保有する新株予約権に係る交付株式の株主となった場合に有することとなる最も多い議決権の数の記載も加えるべきである。
4 会社則案55条の2についても、上記1ないし3と同様である。

【理由】
1 【意見】1について
(1) 第三者割当増資に関しては、金融商品取引法上提出が求められる有価証券届出書において既に詳細な開示が求められているのに対し、会社則案42条の2第5号に定める「特定引受人に対する募集株式の割当て又は特定引受人との間の法第205条第1項の契約の締結に関する取締役会の判断及びその理由」との記載事項は、極めて抽象的であり、具体的にいかなる記載が求められるかが明らかではないように思われる。したがって、会社法上の大規模な募集株式の発行においても、株主への開示が求められる事項を具体化することが望ましく、その場合、例えば第三者割当における割当予定先の選定理由、発行条件の合理性、第三者割当増資の必要性等、既に有価証券届出書において記載が求められている事項(企業内容等の開示に関する内閣府令第2号様式記載上の注意(23-3)c、(23-5)a及び(23-8)参照)を定めることが合理的である。これらの開示を求めることにより実務上特段の負担になることは考え難く、また、会社則案42条の2第5号にいう「取締役会の判断及びその理由」を具体化するものとして合理的であると考えられる。
(2) かかる具体化が図られない場合であっても、有価証券届出書において第三者割当の場合の特記事項として記載が求められる事項が株主への通知に記載されている場合には、会社則案42条の2第5号に定める記載事項を満たすものと解してよいことについて、パブリック・コメントにおける回答としてお示しいただきたい。
2 【意見】2について
(1) 法206条の2第4項ただし書にいう「当該公開会社の財産の状況が著しく悪化している場合において、当該公開会社の事業の継続のため緊急の必要があるとき」には、同項本文による総株主の議決権の10%以上の議決権を有する株主が特定引受人による募集株式の引受けに反対する旨の通知を行った場合であっても、株主総会決議による承認を得る必要がないものとされており、上記事由が客観的に存在するか否かは、株主が差止請求をするか否かを検討する上で極めて重要である(岩原紳作・「『会社法制の見直しに関する要綱案』の解説〔Ⅱ〕」旬刊商事法務1976号7頁参照)。
 この点、「当該公開会社の事業の継続のため緊急の必要がある」か否かは新株発行等の差止訴訟(仮処分)の中で判断するものとされている(前記岩原7頁参照)ところ、実際は株主の上記反対通知があったことが判明した直後に株式発行の効力発生日が来る可能性が高いため、株主には差止仮処分申請を行う時間的余裕はないのではないかといった指摘もあるところである(江頭憲治郎・「株式会社法」有斐閣(第5版)752頁注8参照)。すなわち、法206条の2第4項ただし書の事由が株主に対し事前に通知・公告又は開示されないのでは、当該通知等の意義が損なわれることとなるおそれがある。
(2) 一見すると、かかる事由の通知等を要求することは、公開会社にとって容易でないように思われるかもしれない。しかし、実務上は、かかる事由がある場合、法206条の2第1項ないし3項に基づく開示の際においても、その旨と理由を詳細に開示することになるはずであり、新たに特段の負担を強いるものとは考え難い。また、かかる開示がなされることにより、反対通知を行い難くなるものとも考え難い(いずれにしても反対株主としては、緊急の必要性の有無を争うことになるはずである)。
(3) 他方、かかる事由の存在は、会社則案42条の2第5号における「取締役会の判断及びその理由」の内容に含まれるものと解することもできるが、法206条の2第4項ただし書において明記されている事由を、株主に対して通知すべき事項として明記しない理由は見当たらず、解釈上の疑義を生じさせないためにも、明記すべきである。また、この点については、その重要性に鑑み、社外取締役及び監査役等の意見(会社則案42条の2第6号、第7号参照)の対象とすべきである。
3 【意見】3について
(1) 募集株式の割当て等の特則を定める法206条の2第1項1号は、支配株主の異動に該当するか否かの判断において、「当該引受人(その子会社等を含む。)がその引き受けた募集株式の株主となった場合に有することとなる議決権の数」のみを分子としている。他方、募集新株予約権の割当て等の特則を定める法244条の2第1項1号は、募集新株予約権についてのみであるが、募集新株予約権に係る交付株式の株主となった場合に有することとなる最も多い議決権の数を分子として支配株主の異動に該当するか否かを判断することとされており、潜在株式を考慮している。
(2) 支配株主の異動に該当するか否かの算定方法は株主の判断に重要な影響を及ぼすものであり、募集株式及び募集新株予約権の割当て等の特則の趣旨に鑑みれば、募集株式又は募集新株予約権の割当て等が行われる前から特定引受人又はその子会社等が新株予約権を保有している場合には、当該新株予約権に係る交付株式(法244条の2第2項に定める交付株式と同様)も勘案するのが合理的であるように思われる。
(3) したがって、特定引受人又はその子会社が保有する新株予約権(新株予約権だけでなく、取得請求権付株式又は取得条項付株式を保有している場合には、その交付株式数を含めることも考えられる。)を開示事項に含めるべきであると考えられる。
4 【意見】4について
 上記1ないし3と同様である。

【該当項目】
内部統制システムの整備に係る規定の改正

【意見】
1 会社則案98条1項2号及び5号ロ、100条1項2号及び5号ロ、110条の4第2項2号及び5号ロ、112条2項2号及び5号ロ、140条1項2号並びに142条1項2号中「その他の」の次に「当該管理の実効性を確保するための」を加えるべきである。
2 会社則案98条1項5号イ、100条1項5号イ、110条の4第2項5号イ及び112条2項5号イの次に「ロ イに掲げるもののほか、当該株式会社の子会社の取締役等の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制」を加える(これに伴い、当該各号イ中「ハ及びニ」を「ロ、ニ及びホ」に改め、当該各号中「ロ」以下を一つずつ繰り下げる。)べきである。
3 会社則案98条1項5号、100条1項5号、110条の4第2項5号及び112条2項5号の各柱書は、「...当該株式会社及びその子会社から成る企業集団」と規定すれば十分である(「並びにその親会社及び」を「及びその」に改めることが妥当である。)。

【理由】
1 【意見】1について
 会社則98条1項2号等における損失の危険の管理、同項5号ロ等の子会社の内部統制に関する条項では「その他の」体制という文言が置かれているが、その他という文言のみではその内容が分かりにくく、明確な内容を意味するようにすべきである。
 特に、今般、監査等委員会設置会社制度が創設されたことに伴い、監査等委員会設置会社への移行ないし選択は、とりわけ中小の上場会社に期待されているともいわれる(なお、監査等委員会設置会社は、コーポレートガバナンスの水準において指名委員会等設置会社より劣るものというわけではなく、企業の規模や業種に応じて、より簡易でかつ効率的なコーポレートガバナンス体制を目指すものと考えるべきである。企業活動のグローバル化が一段と進展している今日、大手企業はもちろんのこと、中小規模の企業も、コーポレートガバナンス体制について海外の資本市場や海外投資家の厳しい目にさらされている。さらに、大手企業を追ってあるいは大手企業と並んで、中小規模の企業も積極的に海外に進出し、子会社による事業拠点を構築して盛んに事業を展開しているのが現状である。)が、このような会社にとっても会社法施行規則の内容が分かりやすいことが肝要である。
 そして、企業における損失の危険を管理する体制は、コーポレートガバナンス体制の中に組み込まれて、重要な支柱のひとつとなっている。しかしながら、単に管理に関する規程を設けて形を整えるのみで管理の実効性が上がっていない例が多く見受けられる(管理に関する規程を含むプログラムは、日常的な事業活動において継続して有効に実施されなければ、絶えざる風化のおそれにさらされることとなる。このようなプログラムが実効性のないままに放置された場合、それは、取締役等が職務の執行において注意義務を果たしていないことを意味すると考えられる。)。
 したがって、職務の執行の効率性や法令・定款の適合性の場合(会社則案98条1項3号、4号等参照)と同様に、「当該管理の実効性を確保するための体制」という文言でその趣旨を明確にすることが必要である。なお、この点は、監査等委員会設置会社以外の株式会社(清算株式会社を含む。)における場合も同様である。
2 【意見】2について
 会社則案98条1項1号等においては当該株式会社の取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制が定められているが、同項5号の企業集団における場合も、当該株式会社の子会社の取締役等の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制は、子会社の取締役等の職務執行の効率性及び法令等との適合性を評価するために必要不可欠である(企業集団における親会社のコーポレートガバナンスはもちろんのこと、子会社のコーポレートガバナンスに対してもステークホルダーの厳しい目が注がれている。子会社の取締役等の職務執行における責任の有無や程度が問題にされる可能性が生じているが、その評価は客観的な記録に基づくものであることが要求されると考えられる。)。 
 したがって、当該株式会社において、当該株式会社の子会社の取締役等の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制を構築することが必要である。
3 【意見】3について
(1) 前記【意見】3に記載の各規定は、取締役又は取締役会が株式会社の業務の適正を確保するための体制として決定すべき事項のうち企業集団の業務の適正を確保するための体制(以下「グループ内部統制体制」という。法348条3項4号、362条4項6号、399条の13第1項1号ハ及び416条1項1号ホ)について法の委任に基づいて定めるものである。
 会社則案が当該各規定のイ以下に掲げる内容は、【意見】1及び2として述べた点を別として適正であると考えられるが、当該各規定の柱書きが企業集団について親会社を含めている点は疑問である。
(2) 理由は、以下のとおりである。
ア 平成26年会社法改正前の法及び会社則においては、グループ内部統制体制に関しては、会社則において「当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制」と定められていた。しかし、同改正により、グループ内部統制体制に関する規定は法で定めることされ、改正前の会社則の該当規定が法に移設されたが(上記(1)括弧書き内に記載の各規定)、その際に「親会社」の文言が除かれた。
イ 同改正に際して「親会社」の文言が除かれた趣旨は、「......株式会社およびその株主にとって、その子会社の経営の効率性および適法性の確保が極めて重要なものとなっていることを踏まえ、当該株式会社の株主の保護という観点からすると、特に、株式会社およびその子会社から成る企業集団に係る部分については、法律である会社法に規定することが適切であることに基づく......」と解説されている(坂本三郎ほか・「一問一答平成26年改正会社法」商事法務(初版)218頁)。この解説と法及び会社則案の該当規定を総合すると、企業集団のうち特に重要なものを法が規律の対象とし、会社則案においては親会社のある株式会社を含めた企業集団を規律の対象とすることとしたと解されないでもない。
 しかし、企業実務においては、親会社が子会社の株主総会における議決権を背景とする支配力を基に子会社取締役を監督するとともに、グループ内部統制体制を決定し(一定の範囲で子会社にその実情に適した内部統制体制の決定・構築を認める。)、子会社に対する監督の実を上げる経営体制がとられており、子会社の取締役(会)が親会社を含むグループ内部統制体制を決定するわけではない。
 したがって、グループ内部統制体制に関する法の規定において「親会社」が除かれたこと(上記ア)は企業実務の実情に副う正当な改正であり、会社則において「親会社」が含まれていると、子会社において内部統制体制を決定する際の実務に戸惑いを生ずる可能性もある。
ウ 前記【意見】2に記載の各規定のイ以下においても、専ら当該株式会社の子会社に関する体制が定められており、当該株式会社の親会社における体制は含まれていない。
エ 以上の理由から、会社則においても「株式会社及びその子会社から成る企業集団」と規定すれば十分であると考える。

【該当項目】
事業報告及びその附属明細書に係る規律の改正

【意見】
1 会社則案118条5号及び128条3項は、少数株主がある株式会社に適用を限定すべく、これらの規定における「親会社等」から当該株式会社の発行済株式の全部を有するものを除く旨を明記するべきである。
2 会社則案129条6号については、1を前提として賛成する。

【理由】
1 会社則案118条5号、128条3項及び129条6号の各規定は、要綱の第1部第1(第1の後注)に基づいて設けられた規定であるが、当該要綱は、子会社少数株主の保護の観点を趣旨としている。しかるに、会社則案118条5号及び128条3項は「当該株式会社とその親会社等との取引」と規定しているため、「親会社等」には、当該株式会社の発行済株式の全部を有するものが含まれることとなる。
 そこで、要綱が定めた趣旨を超えて、少数株主保護の必要のない子会社にも会社則案118条5号及び128条3項に掲げる事項を事業報告及びその附属明細書に記載することを義務づけることが合理的かどうかについて検討することが必要である。
2 親会社が子会社との間で子会社の利益を損なうような取引を行い、子会社債権者等利害関係者に損害を及ぼす事例は多く見られるところであり、このような事象は当該子会社が完全子会社であるかどうかによって差はないのであるから、この観点から見れば子会社一般について会社則案118条5号イないしハの事項を事業報告の記載事項とすることに意義がないわけではない。
 この点、類似の既存制度として東京証券取引所有価証券上場規程は、「支配株主との取引等を行う際における少数株主の保護の方策に関する指針に定める方策の履行状況」を適時開示事項としているが(上場規程411条1項、同施行規則412条5号・6号、211条4項1号、226条4項1号)、会社則案の上記規定がより広く子会社自体の利益を害さないように留意した事項を定めているのは、事業報告への記載を要するとすることにより親子会社間の取引一般についてその適正を図る趣旨のものと解される。一般論としてはそのような立法政策も考えられるところである。
3 しかし、今回の会社則改正をもって上記2のような立法政策を実現しようとすることには、以下の点から慎重を要するところである。
(1) 今回の会社則改正は要綱を前提としており、会社則案118条5号及び128条3項は、上記のように要綱が示した趣旨を超えるものである。法制審議会会社法制部会の調査審議においても、親子会社間の利益相反取引は子会社の少数株主保護の問題として検討され、子会社側の不当な不利益発生防止の方策の事業報告への記載も子会社少数株主保護のための情報開示の充実の観点から設けられたものであり(岩原紳作・「『会社法制の見直しに関する要綱案』の解説〔Ⅲ〕」旬刊商事法務1977号12頁、坂本三郎ほか・「一問一答平成26年改正会社法」商事法務(初版)226頁)、完全子会社にまで義務づけることを想定して検討された経過はない。
(2) 少数株主のない子会社(完全子会社)は、親会社1社当たりで見ても相当数存在しており、子会社の規模や管理形態も多様であって、そのすべてにおいて会社則案118条5号イないしハの事項を事業報告に記載しなければならないとする必要性があるとまでは言えない。
(3) 親子会社間の取引の適正確保に関しては、親会社、親会社取締役、子会社取締役等に対する責任追及(民法709条、法429条)(子会社債権者が損害を被った場合)、親会社取締役に対する責任追及(法423条、847条等)(子会社搾取により親会社の信用毀損などが生じ、親会社株主が損害を被った場合)などの制度があり、これらは完全子会社が親会社との取引により不当な損失を被った場合にも等しく適用されるのであるから、子会社の利益を害さないように留意した事項を事業報告に記載する義務を少数株主がいる子会社に限定しても、子会社債権者等利害関係者の保護が不十分とは言えない。

【該当項目】
多重代表訴訟等に係る規定の整備

【意見】
 会社則案218条の7第1号中「資料」の次に「並びに同号の判断のため必要な調査ができなかったときは、その旨及びその理由」を加えるべきである。
【理由】
1 最終完全親会社等(法847条の3第1項参照)は、直接又は間接に、ある株式会社の発行済株式の全部を有している。
 当該株式会社の発起人等の責任の原因となった事実には、当該最終完全親会社等の当該株式会社に対する指示による場合や、当該最終完全親会社等と当該株式会社との間の取引等による場合が含まれ得る。このような場合、当該株式会社の監査役(当該株式会社が監査役設置会社である場合)が当該最終完全親会社等について調査を行おうとしたときに、当該最終完全親会社等の取締役等が、当該最終完全親会社等が当該株式会社に対して有する完全親会社等として有する支配力を背景に、当該調査を拒絶する等の事態が生ずることが想定される。
 他方、親会社の監査役が子会社について調査をする場合(法381条3項・4項)とは異なり、子会社の監査役が親会社について調査をする権限を付与する旨の規定は存しない。それにもかかわらず、当該株式会社の監査役は、当該調査において必要な調査を尽くさなかったときは、善管注意義務の違反により、当該株式会社に損害賠償の義務を負う可能性がある。
 【意見】のような修正を加えることにより、上記のような事態の発生を抑止する効果を期待することもできる。
 よって、【意見】のような修正を加えるべきである。
2 他方、旧株主による責任追及等の訴え(法847条の2)については、その対象となる責任又は義務は、株式交換等の効力が生じた時までにその原因となった事実が生じたものに限られる(同条1項本文)。したがって、株式交換等完全子会社の監査役(当該株式交換等完全子会社が監査役設置会社である場合)が株式交換等完全親会社について調査をする必要が生ずる事態や、当該株式交換等完全親会社の取締役等が当該調査を拒絶する等の事態が生ずる可能性は、必ずしも高いものではないと考えられる。
 そこで、会社則案218条の4第1号については、【意見】と同趣旨の修正を加える必要はないものと考えられる。

【意見】
 会社則案118条4号に関し、概要第3、2(1)ウ①本文に記載の事業報告のうち平成27年4月1日以後に作成されるものについては同号の規定を適用する旨の経過措置を加えるべきである。
【理由】
 会社則案118条4号の趣旨は、法847条の3第4項に規定する場合に該当するか否かに関する事項を事業報告の内容の一つとすることにより、最終完全親会社等の株主に対し、当該事項に関する情報を提供しようとするところにあると思われる(なお、会社則案118条4号中「その完全親会社等」を「法第八百四十七条の三第二項に規定する完全親会社等」に改めるか、又は会社則案2条2項117号の次に同項118号として「完全親会社等 法第八百四十七条の三第二項に規定する完全親会社等をいう。」を加える(これに伴い、会社則案2条2項118号以下を1号ずつ繰り下げる。)べきである。完全子会社等の定義については、会社則案2条2項118号に規定されているものの、完全親会社等の定義については、同項に規定されておらず、会社則案の他の規定においても規定されていないからである。)。
 特定責任追及の訴えに関する規定は、施行日以後にその原因となった事実が生じた特定責任について適用される(会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号)附則21条3項)。会社則案118条4号についても概要第3、2(1)ウ①本文に記載の経過措置を適用すると、施行日前にその末日が到来した事業年度のうち最終のものに係る当該末日から施行日以後にその末日が到来する事業年度のうち最初のものに係る当該末日の前日までの間に生じた当該事実に係る特定責任について、法847条の3第4項に規定する場合に該当するか否かに関する資料の取得が困難となるおそれがある。
他方、会社則案118条4号に規定する特定完全子会社の有無について、有力な企業においては、既に検討が進められているようである(全国株懇連合会「株主総会等に関する実態調査集計表」54頁・118頁・179頁(平成26年10月。経済産業省株主総会のあり方検討分科会(第3回)参考資料)参照)。概要第3、2(1)ウ①本文に記載の事業報告のうち平成27年4月1日以後に作成されるものについて同号の規定を適用することとしても、実務上の負担はそれほど大きなものとはならないものと考えられる。
よって、【意見】のような修正を加えるべきである。