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「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)<コーポレートガバナンス・コード原案>」に対する意見書

2015(平成27)年1月22日
東京弁護士会 会長 髙中 正彦

「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」作成の「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)」に関する意見募集に対する東京弁護士会の意見は、以下のとおりである。

1 前記意見募集の(別紙)「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)」(以下「原案」という。)1頁の冒頭囲み部分並びに2頁~3頁の「本コード(原案)の目的」6及び7について

 従来の我が国のコーポレートガバナンスに関する論議が不祥事防止の組織論を中心としていたのに対し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための仕組み作りがその目的であることを明確にした点は、評価することができる。

2 原案3頁~4頁の「「プリンシプルベース・アプローチ」及び「コンプライ・オア・エクスプレイン」」について

 原案3頁~4頁に記載の「プリンシプルベース・アプローチ」及び「コンプライ・オア・エクスプレイン」のような規律の手法の採用自体については、異論はない。
 しかし、このようないわゆるソフト・ローによる規律の採用により、本来はいわゆるハード・ロー(会社法等)による規律が必要な部分について、ハード・ローによる規律が行われないこととなる事態が生ずることは避けるべきである。規律の手法の選択については、今後も、慎重な検討が望まれる。

3 原案5頁の「本コード(原案)の将来の見直し」について

 原案では、当該見直しの時期について、「定期的に」と記載するにとどまっている。
 しかし、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を推し進めていくためには、上記「定期的に」を「おおむね3年毎を目途として定期的に」に改めることが望ましい。

4 原案9頁の補充原則1-1③について

 同補充原則の「......その権利行使の確保に課題や懸念が生じやすい面がある......」との指摘に賛同する。例えば、当会民事司法改革実現本部「民事司法実情調査アンケート結果報告書」22頁・99頁(平成26年11月30日)によれば、「過去3年間に会社役員の責任追及に関する訴訟の原告代理人となった経験がある弁護士のうち大多数(88.9%。注:当該弁護士合計81名中72名)の弁護士が、会社が保有する証拠を収集する手段を欠いていると感じている......」ことが明らかとなっている。
 株主代表訴訟等の場面において、株主による権利の行使の確保に関し会社が「......十分に配慮を行う......」ことは、「......迅速・果断な意思決定を行う...」(原案1頁冒頭囲み部分)ことと矛盾しない。意思決定における「迅速・果断」は、「透明・公正」(同部分)を確保し得る限度において正当化されるのである。

5 原案11頁の原則1-4について

 同第2段落中「基準」の次に「(株主一般との潜在的な利益相反を解消又は低減させるためのものを含む。)」を加えるべきである。
 政策保有株式に係る議決権の行使においては、株主一般との潜在的な利益相反が懸念されるところ、当該基準には、この懸念を解消又は低減させるためのものが含まれることを明示すべきであるからである。

6 原案21頁の補充原則4-3②について

 同補充原則の末尾に次の1文を加えるべきである。
 「なお、このことは、独立社外取締役の役割・責務(原則4-7)についても当てはまる。」

7 原案22頁~23頁の原則4-8について

(1) 原則4-8について
 当会の会員の中からは、当該上場会社が市場第1部に上場するものである場合には、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任するのが好ましいとの意見があった。
 現に、諸外国においても、フランス(分散所有型の会社の場合にあっては、2分の1以上)、シンガポール(取締役会議長が独立取締役でない場合にあっては、2分の1以上)、香港においては、それぞれ3分の1以上の、イギリスにおいては2分の1以上の独立社外取締役があることが要求されているようである(コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議(第5回)資料1の4頁~5頁、同資料2の13頁・15頁、同議事録)。
 また、例えば、平成26年7月現在、東京証券取引所の市場第1部に上場する上場会社1814社中、独立社外取締役が3分の1以上ある会社は、116社(該当率6.4%)に上っており(以上について、前記有識者会議(第5回)資料3の6頁)、今後も独立社外取締役の増加が見込まれることからすれば、東京証券取引所の市場第1部に上場する上場会社については、独立社外取締役の数を3分の1以上とすることも、十分に可能であると考えられる。

(2)補充原則4-8①及び②について
 独立社外取締役が会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与すべくその役割・責務(原案22頁の原則4-7)を果たす上で、補充原則4-8①及び②の実施は、いずれも望ましい。

8 原案24頁の原則4-10について

 監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社において、常勤の監査等委員又は監査委員を置くことも検討に値する旨を、同原則の補充原則とするか否かは別として、追加することが望ましい。
 常勤の監査等委員又は監査委員を置くことは、統治機能の更なる充実に資するものと考えられるからである。

9 原案25頁の補充原則4-11②について

 同補充原則において、「取締役・監査役が他の上場会社の役員を兼任する場合には、その数は合理的な範囲にとどめるべき」と記載しており、適切である。
 独立社外取締役、独立社外監査役が会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与すべくその役割・責務(原案22頁の原則4-7)を果たすためには、兼任については合理的な範囲に限定するのが好ましく、その旨を本コードに記載することは好ましい

10 原案26頁の原則4-14について

 とりわけ補充原則4-14①中「......取締役・監査役に求められる役割と責務(法的責任を含む)を十分に理解する機会......」に関し、当会においても、既に、社外取締役・社外監査役に就任する予定等のある会員に向けてトレーニングの機会を提供しているが、今後は、とりわけ法的責任の点に関し、会員以外の方に向けても、その要望があれば、当該機会の提供に努めていきたい。

以上