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社会生活のあらゆる分野・形態での差別を禁止する法制の調査・研究に向けた会長談話

2024年03月28日

東京弁護士会 会長 松田 純一

1.2024年1月30日、当会は「『外国人・障害者・LGBTQ+、って怖いからアパート貸せません。』これって違法じゃないんですか、弁護士さん?! ~だれも排除されない社会のために必要なことは何か~」と題してシンポジウムを開催した。
このシンポジウムでは、不動産賃貸の現場において、①外国人であること、②障害者であること、③性的指向や性自認(たとえば、同性カップルであることや自認する性別が戸籍上の性別と異なること)を理由として、不動産を借りることを断られてしまうことが実際にある、という現状があらためて確認された。
もっとも、①外国人・②障害者・③LGBTQ+当事者に対する入居差別は、憲法その他の法律や裁判例等から許されないことはすでに明らかになっている。すなわち、①外国人であるという理由で賃貸を拒絶する入居差別については、損害賠償請求を認める理由となることが、裁判例上確立している。そして、②障害者に対する入居差別に関しては、障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)が、官公庁や事業者による障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止を定めており、仲介をなす事業者が、障害者であることを理由に、賃貸人や家賃債務保証会社への交渉等、必要な調整を行うことなく仲介を断ることは、不当な差別的取扱いとして許されない(なお、同法の改正により、本年4月1日から事業者に合理的配慮の提供義務が課せられる。)。また、③LGBTQ+当事者に対する入居差別についても、性的指向や性自認に関する判例の趣旨等に照らして、許されるものではない。

2.差別が許されないのは、不動産賃貸借の場面には限られない。学校・教育、雇用、医療、公的サービスの提供、民間の営利事業、さらには刑事手続や収容施設等社会生活のあらゆる場面において同様である。また、差別は、①外国人・②障害者・③LGBTQ+当事者に対するものに限られず、その事由を問わず許されてはならない。
しかしながら、社会のいたるところで差別はなお存在し続け、今このときも、多くの人々が苦しめられている。
このシンポジウムは、現存する差別を解消するためには、差別を許さない旨を社会の共通認識とし、官公庁・事業者・業界団体等の指針とすること、並びに、効果的な救済を可能とすることが喫緊の課題であり、差別事由を限定せず、社会生活のあらゆる分野におけるあらゆる形態の差別を禁止することを内容とする立法が必要であることを示唆するものであった。
そして、この包括的な差別を禁止する法制度は、差別の禁止を明定するだけでなく、司法手続における証明責任の適切な分配、政府から独立した国内人権機関の設立、人権意識を涵養する教育の実践、さらに、昨今激化しているヘイトスピーチ・ヘイトクライム等の根絶のあり方についても丁寧に整備されたものであることが求められる。以上の諸点を検討する過程では、差別の形態を分析し、各々の施策の実現に向けた具体的な手段等について検討することが必要となろう。
当会は、長年にわたり、差別の解消に向けた分野ごとの取り組みを進めてきたところであるが、今後、それら取り組みの成果等を踏まえて、包括的に差別を禁止する法制の調査・研究等の活動を行い、様々な角度から差別の根絶について取り組む所存である。

以上

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