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裁判員裁判東京地裁第1号事件が終わって(会長談話)

2009年08月07日

東京弁護士会 会長 山岸 憲司

 全国初の裁判員裁判となった東京地方裁判所の裁判員裁判第1号事件の公判が終わりました。

 事件を担当された裁判員及び補充裁判員の方々が真剣かつ全力で事件に取り組まれたことに心から敬意を表します。公判2日目の証人尋問では初の質問をし、3日目の被告人質問では裁判員全員が質問をされました。

 今回の公判審理においては、弁護士会が求めてきた裁判員に予断・偏見を抱かせないよう裁判員入廷前の手錠・腰縄の解錠、退廷後の施錠が実施され、また、被告人の着席位置を弁護人の隣とするなどの工夫がされました。検察官・弁護人は裁判員に理解しやすいように視覚的なツールを用いて主張・立証を行い、平易な言葉を用いて説明するなど、従来の刑事裁判とは大きく異なる手法がとられました。

 判決後には、裁判員全員と補充裁判員1人が記者会見に応じられ、審理のわかりやすさ、評議の雰囲気、心理的負担などが語られました。
裁判員となった感想は、「今も緊張しているが、本当にいい経験だった。」「大役を終えた気持ちだ。」「一般主婦ができるのか不安だったが、ほかの方たちと一緒に一つのことを成し遂げた気持ちだ。」「社会的重責を精いっぱい務めあげたという認識だ。」等と語られました。
裁判の手続きについては、「もっと難しいと思ったが、テレビドラマの方が難しいと思うくらい、分かりやすかった。」「プレゼンテーションのソフトやディスプレイが想像以上に分かりやすく、目で追いやすかった。検察官、弁護人も我々に理解させようという気持ちが伝わった。」等と語られました。
評議については「メンバーがとても話しやすく、今となってはかなり前から知り合いの感覚だった。評議でも思っていることを素直に話せたと思う。」「とても話しやすい雰囲気だった。初めて会った方ばかりだが、前から知り合いのような気持ちで一つのことに向けて真剣だった。」「もっと裁判官が中心になって議論が進むと思ったが、むしろ議論が迷走すると、アドバイスをするような役割だった。市民の意向が反映しやすいように準備された。」等と語られました。
裁判員裁判を検証しより良い制度にしていくためには、裁判員の経験をお聞きすることはたいへんに意義があることです。今後裁判員裁判が行われる地裁・支部で記者会見が行われる見込みであり、裁判員の方々が率直に感想を述べられることが期待されます。

 裁判員裁判が市民に理解され、定着するためには、私たちは、裁判員によりわかりやすく、かつ説得力のある法廷弁護活動を行うことが必要であり、そのための弁護士研修が重要であると考えており、引き続きその充実を図ります。

 他方、この裁判員制度は、市民の多様な経験に基づく常識を刑事裁判に生かし、市民が納得のいく裁判を実現しようとする重要な制度です。市民が参加しやすい制度となっているか、またそのような環境整備が十分になされているかなど、私たちは今回の裁判をはじめとして今後実施される裁判員裁判についてその実施・運用状況の把握に努め、制度及び運用の改善点の有無等について検証を行い、この制度について国民のさらなる理解と協力が得られるよう努力してまいります。また、取調べ全過程の録画等被疑者・被告人の権利が保障された刑事手続きの実現に向けて努力します。

 市民の皆様のご理解とご協力をお願いします。