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葛飾ビラ配布事件に関する会長声明

2009年12月01日

東京弁護士会 会長 山岸 憲司

 本年11月30日、最高裁判所第二小法廷は、東京都葛飾区内のマンションで政党の政治的意見等を記載したビラを配布していた行為が住居侵入罪にあたるとして有罪判決を下した東京高等裁判所判決に対する上告事件について、被告人の上告を棄却する判決を言い渡した。

 ビラの配布は市民が意見を表明する重要な手段の一つであり、それを警察、検察及び裁判所が過度に制約することは、民主主義の死命を制する重要な人権である表現の自由に対する重大な危機である。したがって裁判所は、「憲法の番人」として市民の表現の自由に対する規制が必要最小限であるかについて厳格に審査をしなければならない。このことは憲法解釈上自明であり、日本弁護士連合会も本年11月6日に開催した人権擁護大会において「表現の自由を確立する宣言」として採択し確認しているところである。

 しかるに今回の判決は、被告人がマンションの共用部分の廊下から各室のドアポストにビラを投函した行為につき、マンションの管理組合の意思に反する立ち入りであるとした上で、そのことをもってその行為はそこで私的生活を営む者の私生活の平穏をも害するものであるとし、他方、政治的表現行為の保障の必要性については特段の衡量をせずに被告人を有罪とした。しかも本件の被告人は今回のビラ投函によって23日間の身柄拘束まで受けているのであり、被告人にもたらされたこのような不利益をも併せ考えると、この判決は今後の市民の表現行為を著しく萎縮させるものといわざるを得ない。

 国際人権(自由権)規約委員会は、2008年10月、「政府に対する批判的な内容のビラを私人の郵便受けに配布したことに対して、住居侵入罪もしくは国家公務員法に基づいて、政治活動家や公務員が逮捕され、起訴されたという報告に懸念を有する」旨の表明をし、日本政府に対し、「表現の自由に対するあらゆる不合理な制限を撤廃すべきである」と勧告した。

 今回の最高裁判決は、日本の表現の自由の保障の現状がこのように国際的にも強い批判を受けている中で出されたものであり、その問題性は極めて大きい。
もとより市民の私生活の平穏は重要な保護法益であるが、裁判所は、刑事処罰の適否を検討するにあたっては、市民の重要な意見表明の手段であるビラ配布の憲法上の意義を十分に踏まえ、厳格に審査を行うべきである。

 当会は、最高裁に対し、ビラ配布を含む表現の自由の重要性に十分配慮し、国際的な批判にも耐えうる厳密な利益衡量に基づく判断を示すことで「憲法の番人」としての役割を果たすよう強く要望する次第である。