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「東京都青少年の健全な育成に関する条例」の一部改正案に対する会長声明

2010年11月25日

東京弁護士会 会長 若旅 一夫

 
本年11月22日、東京都知事は、「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例案」(以下「本件条例案」という)を発表した。本件条例案は、11月30日から開かれる都議会定例会に提出され審議される予定であるが、都議会定例会の直前に明らかにされたものであり、十分な審議が尽くされない虞がある。

当会は、本年2月に都議会に提出された都健全育成条例の改正案に対し、本年5月12日付意見書(以下「意見書」という)をもって問題点を指摘し、改正に反対の立場を明らかにした。もとより、子どもの性的搾取・虐待が起きている現状や、子どもが有害情報に晒される状況は放置できないものである。しかし、安易に公権力の規制を認めれば、表現の自由や家庭教育の自由、子どもの成長発達権を侵害しかねない。本件条例案も、以下のとおり、これらの虞を払拭するものではない。

そもそも、子どもたちを救済するためには、子どもの権利保障や最善の利益保障の理念を前提とし、子どもの性的搾取・虐待などを、子どもの権利侵害と認識することから始めなければならない。しかし、本件条例案は、都健全育成条例を改正するものに過ぎず、このような理念に立脚するものではない。いま必要なのは、子どもが権利の主体であることを基盤にした条例の制定である。

次に、本件条例案の条文をみると、不健全図書類等の規制に関して、事業者の自主規制に関する第7条第2号の「不当に賛美し又は誇張するように」や、不健全図書類等の指定に関する第8条第1項第2号の「著しく社会規範に反する性交又は性交類似行為を、著しく不当に賛美し又は誇張するように」などの表現は不明確であるうえ、漫画やアニメーションには「誇張」が避けられないから、表現の自由を侵害する虞がある。また、第18条の6の3第1項は、不明確な要件で保護者の保護監督及び教育の義務を定め、同条第3項は、都知事が保護者等に対し必要な指導・助言をすることができるとし、同条第4項は、都知事が保護者に対し説明・資料の提出を求めることができるとするなど、家庭教育の自由を侵害する虞もある。

また、インターネットの規制に関しても、第18条の8第1項で保護者のインターネット利用を的確に管理する義務、同2項で青少年がインターネットを利用するに当たっての遵守事項を定める等の保護者の義務を定めるが、これらも家庭教育の自由に介入するものである。ことに、第18条の7の2は、保護者がフィルタリングサービスを利用しないときは、その正当理由を記載した書面を事業者に提出する義務を保護者に課し、同書面を保存していない事業者に対して知事が勧告権限を持ち、同勧告に従わない事業者を知事が公表する権限まで持つことになる。さらに、同条第7項は、知事部局の職員が事業所に立ち入り、調査を行い、又は「関係者」に質問し、若しくは資料の提出を求めることができるとしており、この「関係者」に保護者がふくまれる可能性もある。これらの条項は、事実上、フィルタリングサービス利用契約の締結を保護者に強制するものであり、家庭教育の自由を侵害するものである。そればかりか、青少年インターネット環境整備法第17条を逸脱し、条例で保護者に法律を超える義務を押しつけるものであって、条例制定権の限界を超える疑いがある。

以上のとおり、本件条例案は、当会が意見書で求めた子どもの権利条例の制定の提言に沿うものでない上に、その内容において意見書が指摘した要件のあいまい性・不明確性が残っている。
よって、当会は、本件条例案には反対であり、都議会定例会において、慎重かつ十分な審議が行われることを求める。