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検察の在り方検討会議の提言を受けての会長声明

2011年04月11日

東京弁護士会 会長 竹之内 明

2011年3月31日,法務大臣の私的諮問機関である「検察の在り方検討会議」(以下「在り方会議」という)が,「検察の再生に向けて」と題する提言(以下「提言」という)を行った。
この会議において期待されたのは,厚労省元局長事件のような悲劇を二度と起こさないために,冤罪防止にもっとも有効で,かつ世界の多くの国で実施されている「取調べ全過程の録画」の制度化を明確に提言することであった。しかし,提言の結論にこれが盛り込まれず,取調べの全過程の録画の制度化は,新たな検討の場に先送りされた。極めて遺憾であると言わざるを得ない。
提言がいう「取調べ及び供述調書に過度に依存した現在の捜査・公判実務を根本から改める」との観点から刑事手続全体の検討をする必要があるとしても,その検討とは切り離して,まず取調べの全過程の録画の制度化を進めることは可能であり必要であった。取調べ全過程の録画がいつ実現されるのか不透明になったことに強い危惧を抱かざるを得ない。

すでに,法務省では,取調べ可視化についての検討を進めており,2010年6月には中間報告をして本年6月に最終報告をとりまとめる段階に至っている。取調べの可視化を実現することを前提に国家公安委員会委員長の下に設置された「捜査手法,取調べの高度化を図るための研究会」においても,本年4月7日に中間報告を発表し,本年9月にも審理を終えようとしている状況にある。
また,在り方会議では,相当数の委員が,取調べ全過程の録画が必要であると指摘し,提言においても,「可視化に関する法整備の検討が遅延することがないよう,特に速やかに議論・検討が進められることを期待する」と述べられている。 
このように可視化の検証や議論はすでに相当に熟している。一方,捜査官による密室での違法・不当な取調べが繰り返され,自白調書の作成過程が検証できない構造の中で,この数年だけでも,志布志事件,氷見事件,足利事件,布川事件,厚労省元局長事件などの冤罪が発覚している。このような状況を一刻も早く解消するために,取調べの可視化の早急な実現が求められているのである。

そこで,取調べ可視化の制度化は,提言にいう新たな検討の場とは完全に切り離して,あるいは,新たな検討の場であっても先行して議論を進めたうえで,来年度の通常国会において,その法制化を図るべきである。その際,対象事件としては裁判員裁判など一部の事件から段階的に実施することが現実的選択と思われる。
また,提言で指摘されたように,法制化の前であっても,知的障がい者,少年,外国人等を被疑者とする事件や検察の特捜部事件などにおいて,すみやかに,取調べ全過程の録画の試行がなされるべきである。

 「新たな検討の場」についての江田法務大臣の方針につき,法制審議会とするものと,法務大臣直轄の組織としての外部有識者による「刑事司法改革会議」とするものとの2つの異なった報道がなされているが,提言を受けての新たな検討の場としては,「刑事司法改革会議」のほうがより望ましいものと言える。提言の意向を踏まえるならば,刑事司法関係者以外の市民の代表をも広く加え,また,常に開かれた形で議論ができる会議体とするべきである。

以上,当会は,政府に対し,刑事司法改革に関する新たな検討の場での議論と切り離して,あるいは,検討の場での先行的議論を経て,取調べの可視化法案を早急に策定し,来年度の通常国会において,一定の事件における取調べの全過程の録画の制度化を実現することを強く求める。 
また,当会は,取調べ及び供述調書に依存しない捜査・公判の在り方,証拠開示制度の在り方,弁護人立会権,被疑者・被告人の勾留保釈制度の在り方などを検討する,新たな検討の場に幅広い国民的基盤を持った委員が参加して,公開の場で透明性の高い議論が行われることを求め,市民とともに,新たな刑事司法制度の構築に向けて積極的に取り組んでいく所存である。