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原子力損害賠償紛争解決センターの運営等に関する会長声明

2012年08月13日

東京弁護士会 会長 斎藤 義房

2011年9月、東京電力株式会社福島原子力発電所の事故の損害賠償を迅速・適正・公正に実現することを目的として、文部科学省の所管である原子力損害賠償紛争審査会のもとに原子力損害賠償紛争解決センターが設立された。

同センターには、本年7月末日現在で合計3,398件の申し立てがなされているが、そのうち和解が成立したのは369件に過ぎない。同センターの発足当初は、申立から約3か月での和解成立が想定されていたが、現状では第1回目の期日が入るのに5か月も要するケースもあるなど、被害者の救済が遅々として進まず、未済件数が増大している現状は極めて遺憾である。

この原因の第一は、同センターからの和解案に対する東京電力の受諾が速やかになされていないことである。東京電力は、原子力損害賠償支援機構と共同して作成し経済産業省の認定を受けている総合特別事業計画において、同センターの和解案を尊重すると表明している。ところが、東京電力が和解案への回答を引き延ばし、あるいは拒否するケースが現出している。

この様なケースが発生し続けることは何としても回避しなければならない。そのために、国は、同センターの和解案に東京電力を拘束する裁定機能を与えるなどの立法上の手当を早急に検討すべきである。

同センターにおける未済件数の増大の原因の第二は、同センターの調査官や事務職員などの人的態勢が不足していることである。この点について、同センターは、調査官や事務職員の人数を大幅に拡大するべく追加募集を開始した。

当会は、同センターのこの方針に賛同し、被害者の迅速・適正な救済のために、弁護士が調査官に就任することを呼びかけ、一日も早い同センターの人的態勢の整備に協力する所存である。

同センターにおける和解の内容は、原子力損害賠償紛争審査会が作成した「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」および「中間指針追補」を目安にして運用されているから、これらの指針は適正かつ合理的なものであることが求められている。

東京電力は、本年7月24日に「避難指示区域の見直しに伴う賠償の実施について」を発表した。ここで示された財物損害、建物の修復・補修・清掃費用などの賠償基準は、あくまでも加害者である東京電力が提示したものにとどまる。

そもそも避難費用や精神的損害および不動産、家財の喪失又は減少に関する損害は、被害者にとって基礎的かつ最重要とも言うべき損害である。これらの損害の賠償基準は、和解の仲介機関である原子力損害賠償紛争審査会において定められなければならない。その際に何より重視すべきは、本件被害者は突然の原発事故により生活基盤の全てを奪われているという事実と、放射線被害を回避するために長期間の避難を余儀なくされているという事実である。

当会は、原子力損害賠償紛争審査会および原子力損害賠償紛争解決センター総括委員会に対し、被害の実情をさらに具体的かつ正確に把握して、中間指針における日常生活阻害慰謝料額および自主的避難者の慰謝料額を直ちに見直すよう求めるとともに、不動産、家財の喪失又は減少に関する損害賠償の指針および基準について、被害者の人間の回復と生活再建の確保の観点から、すみやかに定めるよう強く求めるものである。