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憲法96条の改正に反対する会長声明

2013年06月11日

東京弁護士会 会長 菊地 裕太郎

1 憲法96条改正の動きが国会で加速しており、本年7月の参議院選挙で複数の政党がこれを公約にしようとしている。自民党は昨年4月に「日本国憲法改正草案」を発表し、憲法改正の手始めに96条改正に取り組む方針を明言しており、これに賛同を表明している党の衆議院に占める議席は3分の2を超えている。
96条の改正の動きとは、現行憲法が「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」を憲法改正発議の要件と定めているのを「衆参各院の総議員の過半数」で発議できるように緩和しようとするものである。安倍首相は、国会答弁で「まずは多くの党派が主張している96条の改正に取り組む」と明言した。これは、改正要件を緩和して憲法改正のハードルを下げ、その後に憲法9条や人権規定、統治機構等を随時改正しようとの意図に基づくものと思われる。
しかし、このような改正は、立憲主義の下での憲法改正のあり方として極めて不当であり、到底許されない。

2 第1に、そもそも憲法は、国家権力を縛り、その濫用を防止して基本的人権を守ることを目的とする国の基本法である(立憲主義)。憲法が基本的人権を「侵すことのできない永久の権利として、現在および将来の国民に与」え(憲法11条、97条)、憲法を最高法規と定めてこれに反する法律、命令等一切の効力を否定している(憲法98条)のもそのためであり、憲法96条が改正の要件を通常の法律に比べて格段に厳しくしている(硬性憲法)のも同じ目的による。それゆえ、憲法制定権力を持つ国民から憲法改正の発議に制限を受けている側(国会)が課されている制限を自ら取り払い、発議要件を緩めようとする「改正規定の改正」は憲法改正の限界を超えているとの疑いを拭いがたい。
このことは、現行憲法において、議員の資格争訟で議席を失わせる場合(55条)、会議を秘密会とする場合(57条)、議員を除名する場合(58条)、衆参で結論が違った法律案を衆議院で再議決する場合(59条)においてさえ、3分の2の多数決(但し出席議員の)を要件としているのに、格段に重要で次元の異なる憲法改正発議をこれらの場合より緩やかな過半数の賛成で可能とすることの不整合からも認められる。

3 第2に、改正発議の要件が法律改正と同じレベルに下げられたときは、十分慎重な議論もないままに、時々の政権の意向で安易、頻繁に憲法改正が発議され、国民投票の結果次第では、政権交代のたびに国の基本的仕組みが変えられることとなりかねず、基本的人権の保障が不安定なものとなるおそれがある。
しかも、現在の選挙制度は、4割の得票で7割、8割の議席をえることを可能とする小選挙区制度を基本としており、また、いわゆる「一票の格差」の問題もあり、国会の議員構成が必ずしも民意を正確に反映しているとは言い難い。昨年暮れの衆議院選挙の結果を見ても、得票率と議席との間には大きな乖離があり、膨大な死票を生んでもいる。それにも拘わらず、国会に占める議員の過半数の賛成で憲法改正が発議できることになれば、必ずしも多くの国民の支持を得ない憲法改正案が発議されるおそれが強い。しかも、わずかの得票率の変動で大きく議席が変動して劇的な政権交代が起き、その都度、憲法改正もなされることになれば、憲法の安定性は完全に失われる。

4 第3に、安倍首相らは、60年もの長期間一度も憲法が改正されなかったのは、現行憲法の改正規定が厳しすぎるからであるかのように改正理由を述べるが、事実ではない。諸外国の憲法と比較しても、日本国憲法の改正要件はそれほど厳しいとはいえない。議会の4分の3以上の議決と国民投票(フィリピン)、連邦議会の3分の2以上の議決と4分の3以上の州の承認(アメリカ)、国民投票または政府提案について議会の議決と両院合同会議による再度の5分の3以上の議決(フランス)など、日本国憲法よりも改正要件が厳しい憲法も多数存在する。改正がなされなかったのは改正手続のせいではなく、憲法改正の必要性があるというコンセンサスが、国民から得られなかったからに他ならない。

5 第4に、「国民の過半数が改憲を望んでいるのに、国会議員の3分の1強が反対すれば改憲を発議できないのは国民主権を軽視するものだ」というような議論がなされるが、これも正しくない。憲法96条が両議院の各3分の2以上の賛成を憲法改正の発議要件としたのは、憲法が国の基本法であるが故に、国民から選ばれ、国民の代表として公共の利益を追求すべき使命を担う国会議員が、責任を持って議会において熟議し、圧倒的多数の賛成で改正案を国民に提示することを求めているのであり、上記のような主張は徒らに国民にその責任を丸投げし、国会の責任を放棄することに他ならない。
加えて、第一次安倍内閣の時に成立した「日本国憲法の改正手続に関する法律」では、「国民の承認は有効投票の過半数」とされているが、最低投票率が定められていないため、投票率によっては全有権者のわずかの割合の賛成だけで憲法改正が実現してしまう。このような状況こそ主権者たる国民の軽視であり、「国会議員の3分の1以上が反対すれば憲法改正の発議ができないのは国民主権の軽視だ」という論法は、本末転倒である。

6 以上、憲法96条改正の理由付けには合理的な根拠はなく、立憲主義の下で硬性憲法とされた現憲法の趣旨に著しく反し、改正の結果は恒久平和主義と基本的人権の保障を柱とする現行憲法の土台を揺るがすものとなりかねず、看過することは出来ない。
よって、当会は憲法改正の発議要件を緩和しようとする憲法96条の改正に強く反対する。

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