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「防衛装備移転三原則」に反対する会長声明

2014年04月15日

東京弁護士会 会長 髙中 正彦

 政府は2014(平成26)年4月1日、防衛装備移転三原則を国家安全保障会議及び閣議において決定し、同日、国家安全保障会議においてその運用指針を決定した。これらは、日本国憲法の平和主義に基づく国是として確立され、長らく政府が遵守してきた武器輸出三原則(禁輸原則)を廃止するという、我が国の平和国家としての理念を大きく変質させるものであり、看過できない。
 いうまでもなく、武器輸出三原則は、1967(昭和42)年の佐藤首相による国会答弁及び1976(昭和51)年の三木内閣の政府統一見解の表明によって定められたものであり、いずれも国会での十分な審議を経て、「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とした憲法9条の理念に則った国是として確立され、非核三原則とともに世界に高らかに掲げてきたのである。この原則は、半世紀近くに亘って我が国の基本方針として堅持されてきた。
 しかるに、政府は今般、武器輸出三原則を放棄し、名称も変えて「防衛装備移転三原則」を策定した。
 新三原則のうちの第一の原則は、「移転(輸出)を禁止する場合の明確化」であり、(1)日本が締結した条約などの国際約束に違反する場合、(2)当該移転が国連安全保障理事会決議に違反する場合、(3)紛争当事国(国連安保理が制裁措置をとっている対象国)への移転となる場合の海外移転を禁じるものである。しかし、これまでの武器輸出三原則が「紛争当事国」だけではなく「そのおそれのある国」向けの輸出も禁じていたのに、これを除外して大幅に緩めている点は見逃せない。
 第二の原則は、「移転を認め得る場合の限定並びに厳格審査及び情報公開」である。輸出は、平和貢献・国際協力の積極的推進とわが国の安全保障に資する場合に認める、としているが、極めて抽象的であるため拡大解釈される余地が大きく、武力紛争を助長するような不適切な輸出の歯止めとならない。そのうえ、米国など同盟国との武器の共同開発、生産や安全保障・防衛分野における協力の強化・装備品の維持などは無条件に安全保障に資する場合として例示しており、これでは「移転の限定」、「厳格審査」は名ばかりとなる恐れがある。
 第三の原則は、「目的外使用及び第三国移転に係る適正管理の確保」をその内容とする。相手国政府に目的外使用及び第三国移転についてわが国の事前同意を義務づけるとしているが、国際共同開発などの場合には相手国の管理体制を確認すればわが国の事前同意を不要とするなど、広く例外が認められており、適正な管理が確保できるか疑問である。

 以上のように、新三原則の策定は、
 1 武器輸出を原則禁止から原則容認へと転換するものであり、武器を輸出しない平 和国家として国際的な役割を果たしてきたわが国の歩みを変質させ、
 2 外国との武器の共同開発やライセンス生産に道を開き、ひいてはこれが紛争当事国に使われる危険性があり、
3 米国など同盟国が紛争当事国となった場合も、我が国がそれらの国に武器輸出を続けることを許し、実質的に我が国をその武力紛争に参戦させる恐れのあるもので、
 4 国是である武器輸出三原則を、国会での審議も経ず内閣の閣議決定で破棄・変更するもので、これまで武器輸出三原則を承認してきた国会を軽視し、
 5 周辺諸国に対し、日本の軍事大国化を危惧させ、さらには軍拡への口実を与えかねない、ものであって、認めることはできない。
 そして、今回の突然の閣議決定による防衛装備移転三原則の策定は、憲法9条に戦争と武力の放棄、戦力の不保持を定め、徹底した恒久平和主義に立脚する平和国家日本を変質させるもので、集団的自衛権容認に向けた憲法解釈の変更の動きと相俟って立憲主義に反するものである。
 よって、当会は、憲法の定める基本的人権の擁護を使命とするものとして、立憲主義堅持の立場から防衛装備移転三原則の策定に対し、強く抗議し、その撤回を求める。