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道徳「教科化」に関する中教審答申を受けての会長声明

2014年11月12日

東京弁護士会 会長 髙中 正彦

   去る10月21日、文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会(中教審)は、「道徳に係る教育課程の改善等について(答申)」を発表した。この答申は、平成25年12月の「道徳教育の充実に関する懇談会」の報告と同様に、学校教育法施行規則及び学習指導要領において、道徳の時間を「特別の教科 道徳」(仮称)として位置づけ、検定教科書を導入し、子どもの道徳性に対して評価を加えること等を内容とするものである。

   当会は、本年7月に「道徳の『教科化』等についての意見書」を公表し、上記「道徳教育の充実に関する懇談会」の報告について、「国家が公定する特定の価値の受け入れを子どもに強制することとなる点で、憲法及び子どもの権利条約が保障する、個人の尊厳、幸福追求権、思想良心の自由、信教の自由、学習権、成長発達権及び意見表明権を侵害するおそれがあり、見直されるべきである」との意見を表明した。
   ところが、上記の中教審答申の内容は、以下に述べるとおり、当会の意見書において指摘した懸念が払拭されていないばかりか、「道徳教育の充実に関する懇談会」の報告と比較していっそう、子どもの内心や人格に対する不当な干渉となるおそれが強まっていると言うべきである。

    第一に、道徳の時間を「特別の教科 道徳」(仮称)として位置づけることは、学校教育法や学習指導要領などに基づく教科内容の拘束力を生じさせ、現在にも増して道徳教育に対する国家統制を強めることになりかねない。
    第二に、道徳教育に検定教科書が導入されるということは、検定制度を通じて、国家が推奨する特定の道徳的価値が、「善い」もの、「正しい」ものとして、明確に提示されることを意味する。これは、道徳教育を担当する教師が創意工夫を凝らした教育を行う余地を奪うことになる点で、教師の教育の自由を侵害するおそれがある。また、国家が推奨する特定の道徳的価値の受け入れを子どもに強制するおそれがある点で、子どもの思想良心の自由や学習権を侵害する危険もある。
   第三に、「教科化」や検定教科書の導入により、国家が特定の価値観を、子どもが身につけるべき価値観として提示した上で、子どもの道徳性に対して評価を加えるようになれば、学習指導要領に定められた目標や価値観とは異なる価値観を有する子どもへの不利な評価をもたらすものとなる危険性が高い。
   確かに、中教審答申では、数値などによる評価を行うことは不適切とされている。しかし、一方で、児童生徒の学習状況の把握のために、「児童生徒の作文やノート、質問紙、発言や行動の観察、面接など、様々な方法で資料等を収集」し、児童生徒の道徳性を「多面的、継続的に把握し、総合的に評価していく必要性がある」とされている。また、内申書等の基礎資料となる指導要録に、道徳科目評価のための特別の記載欄を設けるとともに、「学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育の成果として行動面に表れたものを評価」し、これについて指導要録の「行動の記録欄」を改善し活用するものとされている。
   このような評価方法は、「数値」による評価ではないとしても、結局は子どもの内心や人格そのものを「評価」の対象としている以上、自ずとそれに優劣をつけることになるであろう。したがって、子どもの思想良心の自由や学習権を侵害する危険がより強まった。このように、中教審答申は、当会が懸念を表明した、道徳教育に「評価」を加えることの根本的な問題は払拭されていないばかりか、前記のとおり、より子どもの人権に対する侵害の度合いが高まっていると評価せざるを得ない。

   以上の理由により、当会は、中教審答申に反対し、この答申に沿った学校教育法施行規則の改正や学習指導要領の改訂がなされることのないよう求めていく。また、教育現場において、子どもの幸福追求権、思想良心の自由、信教の自由、学習権、成長発達権及び意見表明権が保障されるよう支援を行っていく決意である。


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