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安田好弘弁護士の保釈について

1999年07月22日

東京弁護士会 会長 飯塚 孝

1、東京高等裁判所第1刑事部は、安田好弘弁護士(第二東京弁護士会所属)に対する強制執行妨害被告事件(以下、本事件ともいう)について、受訴裁判所である東京地方裁判所刑事第16部の二度にわたる保釈許可決定(第1回1999年6月11日。第2回、同年7月5日)をいずれも取り消し、同弁護士の保釈請求を却下する決定を下した(第1回、1999年6月11日。第2回、同年7月6日)。これにより同弁護士は昨年12月6日の逮捕以来、7ケ月以上もの長期間、身体の拘束が継続され、弁護士としての諸活動、とりわけオウム真理教・麻原彰晃被告人の刑事事件における主任弁護人としての活動や、死刑事件および死刑廃止運動に関わる諸活動など、同弁護士の献身的かつ先進的な弁護士活動に甚大な支障が生じている。

2、安田好弘弁護士に対する強制執行妨害被告事件は、民事法上の問題と刑事法上の問題が交錯する領域で生じた事案であり、従って弁護士活動あるいは弁護士業務の当否に関わるものとして、弁護士一般が重大な関心を有し、同弁護士の自由で積極的な自己弁護の活動(防禦権の行使)が必要不可欠とされるものである。この観点に立ち、全国の弁護士会から1259名(1999年6月29日現在)の弁護士が安田好弘弁護士の弁護人に就任し、また同じく3357名もの多数の弁護士(同年7月5日現在)が安田好弘弁護士の早期釈放を求める書面を受訴裁判所に提出したところである。そして受訴裁判所は公判審理の進行を踏まえ、かつ厳重な保釈許可条件(例えば、「共犯者」や証人ないし証人予定者との接触禁止。なお保釈保証金は金5000万円)も付して、前記のとおり二度にわたり、安田好弘弁護士の保釈を許可する決定を下したのである。

3、しかるに東京高等裁判所第1刑事部(上記二度の保釈許可決定に対する抗告事件は、いずれも、同部に係属した)は、「共犯者の証人尋問が今後予定される」から「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由は依然存在する」などの理由で、いずれも受訴裁判所の保釈許可決定を取り消した。しかし、この取り消し決定は到底容認できないものである。その理由の要旨は以下のとおりである。
第1に、現に審理を担当している受訴裁判所は、従前の審理経過と今後の審理見通しを踏まえて保釈を許可したのであり、これを取り消すためには受訴裁判所の判断とは異なる保釈不許可の事由が認定されなければならないはずだが、そのような認定は存在しないこと。
第2に、無罪を主張する被告人に対しては、そのための自由で十分な機会が与えられるべきであり、本事件はまさにそのような事件であるが、現状では、保釈の不許可が安田好弘弁護士の無罪の主張と立証を封殺する最大の要因となっていること(いわゆる『人質司法』)。
第3に、検察官は保釈を不相当とする理由の一つとして、「(多数の)弁護人が選任されており、その全員の行動を被告人及び主任弁護人において全面的に統率するのが困難であることは明らか」など、あたかも弁護士・弁護人の存在が罪証隠滅を疑わせる要素であるかの如き極めて不当な主張をし、結果として東京高等裁判所の保釈不許可の決定は、このような不当な検察官の主張を容認したとも理解せざるをえないこと。

4、近時、早期の保釈が許可される比率は著しく低下傾向にある。また、保釈保証金の高額化、否認事件や黙秘事件における起訴後の接見禁止決定の濫用とも思える運用など、勾留・保釈の裁判実務の実状については弁護士会として重大な疑問と危惧を有するところである。これら勾留・保釈の裁判実務の現状は、当事者対等を原則とする刑事訴訟法の立法趣旨に背馳するものと言わざるを得ない。 本年は刑事訴訟法制定から50年という区切りの年である。弁護士会は、この際、安田好弘弁護士に対する本事件を契機とし、現在の勾留・保釈の裁判実務に根本的な反省を求め、刑事訴訟法の立法趣旨を遵守するよう裁判所に求める必要があると考える。
よって、被告人の自己弁護の活動の権利を保障するために、そして安田好弘弁護士の速やかな保釈を実現するために当会として全力を尽くす所存であることを明らかにする。
上記のとおり声明する。