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死刑執行に抗議する会長声明

2015年06月26日

東京弁護士会 会長 伊藤 茂昭

 昨日、名古屋拘置所で1名の者に対する死刑執行がなされた。上川陽子法務大臣が就任してから初めての死刑執行であり、第2次安倍内閣以降は昨年8月以来7回目で、合わせて12人になる。
 本件は、弁護人が被執行者の控訴の取下げ無効を主張していた事案であり、また再審請求の準備中であったものである。このような状況下で死刑が執行されたことは極めて遺憾であり、当会は改めてこの度の死刑執行に強く抗議する。
 日本弁護士連合会は、2014年11月11日、上川法務大臣に対し、「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し、死刑の執行を停止するとともに、死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出して、死刑制度とその運用に関する情報を広く公開し、死刑制度に関する世界の情勢について調査の上、調査結果と議論に基づき、今後の死刑制度の在り方について結論を出すこと、そのような議論が尽くされるまでの間、すべての死刑の執行を停止すること等を求めていた。
 死刑は、かけがえのない生命を奪い、人間の存在を完全に否定するという不可逆的な刑罰である。また、罪を犯した人の更生と社会復帰の可能性を完全に奪い去るという取り返しのつかない刑罰であるという問題点を内包している。
 死刑の廃止は国際的な趨勢であり、140か国以上の国が既に死刑を廃止又は停止している。死刑を存置している国は58か国あるものの、2014年に実際に死刑を執行した国はさらに少なく、日本を含め22か国であった。いわゆる先進国グループであるOECD(経済協力開発機構)加盟国(34か国)の中で死刑制度を存置している国は、日本・韓国・米国の3か国のみであるが、韓国は17年以上にわたって死刑の執行を停止、米国では19州が死刑を廃止しており、昨年末にはワシントン州、今年に入ってペンシルベニア州がそれぞれ死刑執行の停止を表明している。死刑の廃止、執行の停止は、今や国際的潮流である。
 さらに、記憶に新しいところでは、2014年3月、静岡地方裁判所は袴田巖氏の第二次再審請求事件について、再審を開始し、死刑及び拘置の執行を停止する決定をした。現在、東京高等裁判所において即時抗告審が行われているが、もし死刑が執行されていたならば、まさに取り返しのつかない事態となっていた。これらは、刑事裁判における冤罪の危険性と死刑の執行による取り返しのつかない人権侵害の恐ろしさを如実に示すものである。世論においても、かつてないほど死刑の存廃についての関心が高まっている。
 こうした状況を受け、国際人権(自由権)規約委員会は、2014年、日本政府に対し、死刑の廃止について十分に考慮すること等を勧告している。
 この度の死刑執行が、かかる世論や世界の情勢を踏まえて熟考の上、なされたものであったのか、あらためて問われなければならない。
 当会は、今回の死刑執行に対し強く抗議し、あわせて法務大臣に対し、死刑制度の廃止についての国民的議論の開始と死刑執行の停止に向けて誠実な対応をするよう、重ねて求めるものである。

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