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新年式式辞

2016年01月14日

東京弁護士会 会長 伊藤 茂昭

 平成28年の新春を迎え、謹んで、新年のお慶びを申し上げます。
 本日、東京弁護士会の新年式を開催させて頂きましたところ、多数のご来賓ならびに会員の皆様方のご列席を賜り、厚く御礼申し上げます。
 東京弁護士会は明治13年(1880年)東京代言人組合として創立されてより、今年で136回目の新年を迎えました。この135年の歴史において、戦前より弁護士の使命を国民の権利の擁護におき、ときには懲戒の危険にさらされながら権力に抗して人権擁護活動を展開し、また弁護士自治の獲得のために努力してまいりました。しかし昭和初期には学問、思想、表現、結社の自由を守る点において十分な活動ができず多大な惨禍をもたらす戦争へと向かうことになりました。そのような歴史を経て、戦後新たに日本国憲法が制定され、そのもとに基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする現行弁護士法が制定され、弁護士自治が確立されました。このことは弁護士の歴史を語る上で画期的な意義を有するものであります。
 戦後70年を迎えた昨年は、立憲主義と恒久平和主義を守る観点から弁護士会をあげて多方面の活動を展開いたしました。歴代会長声明、戦後70年企画としての写真展、資料展など、戦争の悲惨さを伝える平和の礎を守る様々な活動であります。
 私たちは、このような伝統を受け継ぎ本日の式典に臨んでおります。
 そしてこのような式典を開催するに際し、長年弁護士会の歴史とともに人権擁護と社会正義の実現のために会員として尽力された在会50年の先生方、まためでたく寿齢100歳、90歳、80歳にしてなお矍鑠としてご活躍の先生方を表彰申し上げる次第です。まことにおめでたいことと、心からお喜び申し上げます。
 先生方には、これを機に益々お元気でご活躍されますことをお祈り申し上げます。併せて、今後とも、東京弁護士会と私たち後進の活動を見守り下さいますよう会員一同とともにお願い申し上げます。
 つづきましてこのおめでたい席で、当会の活動を支えてきた30年・20年・10年と長期にわたり勤続している職員の表彰を行わせていただきます。
 そして東京弁護士会では、1986年度、昭和61年度に今は亡き笹原桂輔会長のもと稲田寛副会長、西嶋勝彦副会長の執行部において東京弁護士会人権賞を制定いたしました。人権の擁護は弁護士の社会的使命でありますが、一方多くの人々のたゆみない努力によって擁護され前進していくものであります。制定後29年にわたり社会の隅々において地道に人権擁護活動に努力を積み重ねられてきた団体・個人の68組の方々を表彰してまいりました。今年は69番目、70番目の表彰となります。この賞の30回目の節目の年に当たり、この制定に関与されたお二人の副会長稲田寛先生が在会50年・寿齢80歳表彰を受けられ、西嶋勝彦先生が在会50年表彰を受けられることはまた歴史の縁を感ずるものであります。お二人の先生の本日の表彰を人権賞の歴史とともにお祝いするものであります。
 さてその人権賞の今回の受賞者でありますが多くのノミネートされた候補者より厳正な選考委員会の議を経て選出されました、「故・黒田裕子殿」と、「全国過労死を考える家族の会殿」であります。受賞者の選考理由とその経過及び受賞者の活動につきましては、のちほど選考委員会委員長である福田泰雄一橋大学教授より説明があるかと存じます。

 人権賞受賞者の詳細はこちら

 さて、この機会に弁護士会の活動の一端をご報告申し上げることをお許し頂きたいと存じます。
 私は会長就任時に8つの課題を掲げ、重点的に取り組んでまいりました。中でも憲法と平和を守り安保法制に対する活動については先ほど触れさせていただきました。平和な国家であるとともに、司法が十分に機能する民主主義国家でなければなりません。そのためには若い有為な人材が法曹を志望し、充実した法曹養成課程を経て陸続として豊かな法曹として輩出されていくことが必要であります。中核となる法科大学院の規模の適正化と教育の充実を前提としつつ司法試験の合格者数を1500名程度とし、一日も早く安定的な規模感を持った法曹養成制度を確立する必要があります。併せて司法修習生への経済的支援、弁護士の活動領域の拡大、弁護士の事件受任を拡大する権利保護保険の普及、司法アクセスの拡充、弁護士業務の社会性・公益性を訴える中学・高校・大学での取り組みなど総合的な施策に弁護士会を上げて取り組む必要があります。日弁連の「取り組もうペーパー」はその弁護士の団結の方向性を示すものとしてすべての弁護士のご理解をいただきたいと考える次第です。
 そのほか、今年度の取り組みとしては、市民のための法律相談事業の改革、ぼったくり対策事業、ヘイトスピーチ問題などがあります。
 「ぼったくり対策事業」では、新宿区、商店街振興組合、警視庁と連携し、新宿歌舞伎町において、巡回活動や被害救済に努め、輝かしい成果を収めることができました。
 また、昨年9月には、ヘイトスピーチ問題に関し、自治体が公共施設の利用を拒否できる場合について一定の基準を示すガイドブックを作成し、地方公共団体に配布しました。東京都以外の地方自治体からも申し込みがあり、今年度の東京弁護士会の成果の一つです。
 136年目を迎える東京弁護士会は、今年も弁護士自治を堅持しつつ、弛みない多方面での日々の実践を通じて、会員と市民が頼ることのできる弁護士会として理事者・職員一丸となって、より一層努力することを新年にあたりお誓い申し上げる次第です。
 ご来賓並びに会員の皆様のご理解と格別のご支援をお願いいたしますと共に、ご列席の皆様方のご多幸・ご活躍を切にお祈り申し上げまして、新年のご挨拶とさせていただきます。

※この式辞は平成28年1月8日に開催した東京弁護士会新年式において読み上げられたものです。