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長崎幼児誘拐殺人事件に関する会長声明

2003年07月15日

東京弁護士会 会長 田中 敏夫

長崎市の幼児誘拐殺人事件は,4歳の幼児が被害者となった痛ましい事件であるとともに,補導されたのが12歳の少年であったため,社会に大きな衝撃を与えている。
報道によれば,補導された少年に関し,インターネットの掲示板に複数の氏名や住所,学校名等が書き込まれ,また,顔写真が携帯電話のメール等で出回っているとのことである。
少年法61条は,同法1条の定める少年の健全育成の趣旨から,家庭裁判所の審判に付された少年について,氏名,年齢,職業,住居,容ぼう等により当該事件の本人であることを推知できるような記事または写真を新聞紙その他の出版物に掲載することを禁止しているが,上記インターネットへの書き込みや携帯メールでの写真の流通などは,同法同条の趣旨を無にしかねないものと言わざるをえない。また,事件に無関係であるにもかかわらず犯人扱いされた少年に対して許されない人権侵害となることはもちろんである。
さらに,現役大臣が加害者の親の責任を感情的とも思える極論を以て論じたことは,極めて遺憾である。そのような議論は,原因など事件の本質に関する冷静な分析を阻害しかねないものである。本事件については,社会全体が冷静に事件の本質に迫って対処することが類似事件の再発を防ぎ,少年の健全育成を図ろうとした少年法の趣旨にかなうものであり,そのためには今後の家庭裁判所における調査及び審判を慎重に見守る必要がある。
子どもの権利条約40条2項は,刑法を犯したと申し立てられ,訴追され又は認定されたすべての児童について,手続のすべての段階においてプライバシーを尊重すべきものと規定している。少年の実名報道や感情的な極論などが少年及びその家族を社会から孤立させて社会復帰を著しく困難にさせ,生命に対する危険など深刻な被害を蒙らせるおそれがあることが銘記されるべきである。
東京弁護士会は,マス・メディアをはじめ,広く市民に対し,少年を特定する実名や顔写真等はもとより,家族や学校名等,少年を特定するおそれのある事項と関係者の人権侵害を招く事項を伝播することをしないよう強く要望する。