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司法修習生の給費制維持を求める会長声明

2003年09月18日

東京弁護士会 会長 田中 敏夫

現在、司法制度改革推進本部法曹養成検討会において、司法修習生の給費制を維持すべきかどうかが論議されている。平成15年7月14日に開催された同検討会では、「貸与制への移行という選択肢も含めて柔軟に検討する」との一応の取りまとめがなされ、同年9月9日の同検討会では、貸与制に関する事務局案を今後策定してこれを検討することとされた。
しかしながら、以下に述べるとおり、司法修習生の給費制は断固維持されるべきである。

1 現在、司法修習生の兼職は禁止され(司法修習生に関する規則第2条)、修習専念義務が課されているが、修習への専念は、「21世紀の司法を担うにふさわしい質の法曹を確保する」(司法制度改革審議会意見書)ために必要不可欠である。
このように修習専念義務が課されるべき司法修習生に対する給費制を廃止すれば、司法修習生は、収入の無いまま修習に専念しなければならず、経済的に余裕のある者以外は法曹になれないことになりかねない。
法曹の人材は、富裕層のみならず広く国民一般に求めるべきであり、既に社会で活躍している者や被扶養者を抱える者などにも門戸が開かれていなければならない。給費制の廃止は、これを著しく困難にするものである。

2 上記の問題点を貸与制によって克服することはできない。
貸与制が採用された場合、法曹の多くがその出発点において多額の債務を抱えることになること自体が問題であるのみならず、貸与の主体や条件等によっては、司法修習生としての自由で独立した修習が阻害されたり、実質的に修習専念義務が履行されなかったりするおそれもある。

3 さらに、貸与制を前提に任官者等に貸与金の返還義務を免除する制度も議論されているようであるが、このような制度は、法曹の間に全く正当な理由のない不平等、差別を制度化するものであるのみならず、裁判官の給源の多様化等によりいわゆるキャリアシステムの弊害を克服しようとする今次司法制度改革の趣旨に反するものであって、決して容認することはできない。

4 法曹養成は、単なる職業人の養成ではなく、国民の権利擁護、法の支配の実現にかかわるプロフェッションの養成である。人権感覚と正義感、倫理観を兼ね備え、自由で独立した法曹が広く社会に浸透することは、「法の精神、法の支配がこの国の血となり肉となる」(司法制度改革審議会意見書)ために不可欠である。
従って、将来の法曹を担う人材の育成は、国の責務と言うべきものであって、このための財政措置については「特段の配慮」が必要である(同意見書)。財政上の理由により給費制を廃止し、貸与制を採用することは、今次の司法改革の趣旨に反し、法曹養成制度を歪めかねないものであって、認めることができない。
よって、当会は、政府及び関係諸機関に対し、司法修習生の給費制の意義を十分に踏まえ、給費制維持のための諸施策を実施するよう強く求める。