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共謀罪の新設に反対する声明

2005年10月18日

東京弁護士会 会長 柳瀬 康治

 政府は、今特別国会に、共謀罪の新設等が含まれている「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」を上程し、10月14日から衆議院法務委員会において実質審議が始まっている。
共謀罪は、死刑または無期もしくは長期4年以上の懲役もしくは禁錮の刑が定められている罪に当たる行為について、団体の活動として当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀する行為を犯罪として処罰しようとするものである。
長期4年以上の懲役もしくは禁錮の刑が定められている罪は、現時点で600以上もの多数であり、この法律が成立すれば、一挙に600以上の共謀罪の構成要件が新設されることになる。
近代刑法は、人権保障の観点から、法益侵害に向けられた行為を処罰することを原則としている。そのため、結果が発生する結果犯を原則として処罰し、未遂犯や予備罪は例外的に処罰されている。
ところが、共謀罪は、犯罪の遂行を合意するだけで処罰しようとするものであり、行為を処罰するという近代刑法の原則に反しており、人権保障機能を危うくさせるものである。
犯罪の遂行の合意を処罰するということは、人と人とのコミュニケーションそのものを処罰することであり、それは表現の自由を侵害するだけでなく、思想信条の自由という内心の自由をも侵害するおそれがある。
また、政府の提案理由によると、共謀罪の新設は、国連越境組織犯罪防止条約締結のための国内法整備のために必要であるとのことであるが、同条約は、性質上越境的で組織的な犯罪集団が関与する犯罪が適用範囲とされているにもかかわらず、共謀罪には、越境性も組織的な犯罪集団も要件とされておらず、そのため、共謀罪が対象とする「団体」には、労働組合、市民運動団体、企業等、広く団体一般の活動も処罰対象となるおそれがあり、その適用範囲が極めて曖昧である。
さらに、共謀罪が一旦成立させられれば、その後には、共謀罪摘発のために必要であるとして、通信傍受法の対象犯罪や傍受手続の緩和によって広く盗聴捜査が行われるようになったり、室内盗聴が認められたり、捜査員が組織に入る「潜入捜査」が導入されるなど、捜査機関の捜査権限が更に拡大されることは必至である。
当会は、既に2003(平成15)年7月7日付「共謀罪新設に対する意見書」において共謀罪新設に反対する意見を公表しているところであるが、共謀罪の新設を含む刑法等改正案が、何らの修正をされることなく今特別国会に三度上程され、会期中に成立の見込みもあることから、当会として、改めて共謀罪の新設に対して強く反対するものである。