東京弁護士会
性の平等に関する委員会

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公開学習会「あらゆる労働者のワーク・ライフ・バランスを目指して~諸外国との比較から~」活動報告

1  はじめに

平成27年9月29日、両性の平等に関する委員会労働法プロジェクトチーム(以下「当PT」)により、標記の公開学習会を開催しましたので、その概要をご紹介します。

2  第1部 諸外国のワーク・ライフ・バランスに関する調査結果の報告

 第1部では、日本と異なる特徴を持つ、韓国、スウェーデン及びオランダの、ワーク・ライフ・バランスについて取り上げました(非常に詳細な内容を基調報告書にまとめていますので、関心をお持ち下さった方は、人権課までお問合せのうえ当該報告書を参照下さい。)。日本では、週49時間以上働く長時間労働者の割合が、男性30.5%、女性9.8%にのぼり、また、20代後半から30代の子育て世代の女性の就業率が低い、いわゆる「M字カーブ」の問題が見られます。
韓国は、日本と同様の問題を抱えながらも、後記3のパネルディスカッションでも紹介されているように、10年程前からワーク・ライフ・バランスのための施策を急速に進めてきました。
スウェーデンでは、EU指令を受け残業時間を含めた労働時間が週48時間に規制されており、また、非正規労働者の均等待遇が派遣を含め徹底され、正規・非正規間の賃金格差が小さくなっています。さらに、フレックスタイム制やテレワーク制による柔軟な労働環境が浸透している点も特徴的です。税・社会保険料の負担は重いものの、医療費や教育費(就学前教育や大学を含む)の無償等の福利厚生や所得の再分配により、バランスが図られています。
オランダの労働政策は、短時間労働によるワークシェアの成功例とされており、短時間労働者は、労働時間差別禁止法により、賃金その他の雇用条件について、フルタイム労働者と均等又はそれに準ずる待遇を保障され、日本のパート労働者のような非正規従業員ではなく、無期雇用を前提とした正社員と位置づけられています。併せて、労働者に労働時間を短縮又は伸長する権利が付与されており、使用者の側では原則としてこれを拒否できません。
スウェーデンもオランダも、週49時間を超えて労働する長時間労働者の割合は男女合計で8%台にとどまるとともに、前記のM字カーブは見られず、女性が出産後も就業を継続する傾向が見られます。

3  第2部 パネルディスカッション

第2部では、労働政策研究・研修機構副主任研究員の内藤忍氏を講師としてお迎えし、細永貴子PT長による司会のもと、パネリストの菊地初音委員及び岩田整委員とのパネルディスカッションを行いました。ここではその内容の一部をご紹介します。

~長時間労働~

○日本では長時間労働者が評価されると考えている人が多いという調査結果もある。EU指令のような、労働時間の総量規制やインターバル規制(終業時刻から翌日の始業時刻までに一定の時間を空ける制度)を導入すべき(内藤)。

~均等待遇~

○日本は欧米と異なり職種別採用ではないため、同一(価値)労働同一賃金はなかなか難しい。しかし、最低賃金を上げるだけでも正規・非正規間の賃金格差の解消につながり、男女の賃金格差も縮まる。会社と労組が合意して非正規を正規化し、その賃金体系を一本化した広島電鉄のような例もある(内藤)。

~性別役割分担意識の解消~

○厚生労働省に勤務していた平成8年に、霞が関の男性職員として当時極めて珍しかった育休(11週間)を取得した際、周囲の職員にしわ寄せが行き心苦しかった。使用者が臨時の代替要員を確保することで、男性にも育休を取得しやすい雰囲気が生まれるのでは(岩田)。
○スウェーデンでは約77%のケースで臨時の代替要員が採用されている。労働市場の柔軟性が高いため、代替要員にとっても、就業経験がプラスに働く(菊地)。
○日本では、第一子の出産を機に退職する女性の割合が、正社員でも47.1%、非正規で82%にのぼるとされる。育休制度の拡充のみでなく臨時の代替要員等、より育休を取りやすくするしくみの構築が必要といえる(細永)。

~保育制度・育休制度~

○イギリスでは保育料が高く、保育制度が充実しているとはいえないが、出産休暇のほかに父親・母親とも子が18歳になるまで18週間取得可能な、親休暇の制度等がある(内藤)。
○韓国では、満8歳まで通算1年間・夫婦併せて最長2年間の利用が可能な育休制度、仕事の有無等にかかわらず利用可能な普遍的保育への転換、政府が支援する保育施設での0歳児からの保育の無償化、中規模以上の事業所に対する保育所設置の義務化等の施策がとられている(岩田)。
○スウェーデンでは、子が満8歳になるまでに、両親合計して480日間の育休を取得可能で、その間390日間は80%の所得補償を、残りの期間も一定の最低補償金の給付を受けられる。育休取得者のうちの男性比率は34%と高い割合になっている(菊地)。
○育休中の所得補償の割合が低いと、夫婦のうち所得の高い方(夫であるケースが多い)が育休を取得した場合、所得の目減り額が大きくなり家計の負担になるため、「所得の低い妻の方が育休を取得した方が良い」という結論となりやすい。男性の育休取得を促すためにも、所得補償の割合を100%に近づけていくことが必要(内藤)。

~女性の活躍推進~

○韓国では2005年から、入札制度や融資枠での優遇等、民間企業が女性を積極的に登用するためのポジティブアクション制度が始まり、女性管理職比率の上昇等の効果が見られている(岩田)。
○日本では女性活躍推進法が成立し、平成28年4月から施行予定だが、男女の賃金格差是正が対象とされていない点は残念である(内藤)。

~総括~

○労働法による保護や福利厚生制度から取り残されがちな非正規雇用のワーク・ライフ・バランスを重点的にケアすべき。併せて、性別役割分担意識を是正するような法政策をとる必要がある。また、育休が長期化すると、所得ロス・キャリアロス・知識ロスという3つのロスが生じるため、育休に限らず幅広い育児支援の制度の促進が望まれる。社会保障制度と組み合わせることで、子育て世代・介護世代への負担の偏りを解消することが必要(内藤)。

4  おわりに

以上のとおり、ワーク・ライフ・バランスの実現を握る鍵は、長時間労働の防止のための労働法上の規制、非正規雇用の均等待遇、性別役割分担意識の解消、という3点にあるといえます。当PTでは今後も、諸外国の例を参考にするなどして各々について対策を研究・提言し、あらゆる労働者のワーク・ライフ・バランスの実現のために活動していきたいと思います。

以上

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