弁護士による法的解説・事例紹介(外国人事案) 李 世燦 弁護士  東京弁護士会 外国人の権利に関する委員会 副委員長 外国人の入居差別に関する裁判例の紹介 @大阪地判平成5年6月18日 Aさいたま地判平成15年1月14日 B京都地判平成19年10月2日 C大阪地判平成19年12月18日 @大阪地判平成5年6月18日 (事案) ](在日韓国人)が、不動産仲介業者との間で賃貸マンションの入居について相当程度進んだ段階で、 所有者から入居を拒否されたため、所有者らに対し賃借権の確認、建物の引渡、損害賠償を提起した 事案 (判決内容) 一部認容:被告の一部に対し損害賠償請求認容(26万7000円) 理由:(理屈は契約締結上の過失)契約が相当程度進んだ段階で、契約が確実なものと期待するに至 った以上、合理的理由なく契約締結を拒絶することは許されないとした。  →在日韓国人であることを主たる理由として契約締結を拒絶したものと認められ、右締結の拒否に は何ら合理的な理由がない、と認定 ※「相当程度進んだ」段階でなければ拒否できる? Aさいたま地判平成15年1月14日 (事案) ](インド国籍)が、賃貸用不動産の仲介会社に電話したところ、肌の色を執拗に聞かれた(「皮膚 の色は何色ですか」、「普通の色ですか」等)ことが、人格的利益を侵害するとして、損害賠償を提 起した事案 (判決内容) 一部認容:損害賠償請求の一部認容(社員、会社) 理由:人格的利益ないし人間の尊厳と直結している肌の色を執拗に問いただすことは、]の人格的利 益を毀損する違法な行為である。 B京都地判平成19年10月2日 (事案)  ]1(衣料製造販売会社)は、Yとの間で、]1の従業員である]2を入居させる賃貸借契約の準 備を進め、共益費や仲介手数料等を仲介会社に支払い、入居予定日の前日に契約書を取り交わす段階 になって契約書の締結を拒んだ事案。これが]2の国籍を理由とするものであるとして、損害賠償等 を請求した事案 (判決内容) 一部認容:]2に対する110万円の損害賠償認容  理由:被告は]2が日本国籍ではないことを理由に賃貸借契約を締結しなかったことが認められる とした上で、「本件賃貸借契約の成立に向けて準備を行ってきた]1に対し,本件賃貸借契約の成立 についての強い信頼を与え,客観的にみて,本件賃貸借契約の成立が合理的に期待される段階まで両 者の準備が進んでいたにもかかわらず,しかも,合理的な理由がないにもかかわらず,本件賃貸借契 約の締結を一方的に拒んだ」   →信義則上損害賠償が認められると認定 C大阪地判平成19年12月18日 (事案)  在日韓国人2世の]が、賃貸住宅入居について国籍又は民族性による差別を受け精神的苦痛を被っ たが、これはY(国)による人種差別禁止法等の立法不作為に原因があるとして、慰謝料を求めた事 案(国家賠償) (判決内容) 請求棄却 理由:憲法14条、人種差別撤廃条約に基づく立法作為義務を負っているとは認められない。同条約 2条1項は政治的責務を定めただけであり、一義的で明確な法的義務を定めたとは言えない。