退職代行サービスと弁護士法違反
東京弁護士会・非弁護士取締委員会では、弁護士や弁護士法人(以下「弁護士等」といいます)ではない者による弁護士法に違反する行為(以下「非弁行為」といいます)について、調査・取締りを行っています。
今回は、退職代行サービスと非弁行為について説明いたします。
一般に、退職代行サービスは、業者にお金を払うことで、業者が本人に代わって、退職の意思を会社へ伝えるサービスです。
最近では、新卒社員の方が入社後間も無く、会社を退職するために、退職代行サービスを使うといった報道も多くなされて、知っている方も多いのではないでしょうか。
しかしながら、実は、退職代行サービスには、非弁行為が含まれる場合があります。
例えば、次のような場合です。
【事例1】 |
〔解説〕
弁護士等でない者が、法律的な問題について、本人を代理して相手方と話をすることは非弁行為です。
残業代は、労働基準法に基づき認められた労働者の権利です。そして、残業代の有無、具体的な金額の算定は、法律的な問題です。
本事例では、業者は、本人に代わって、法律的な問題について話し合い(交渉)を行った結果、残業代が支払われることになっています。このような業者の行為は、非弁行為です。
【事例2】 |
〔解説〕
契約期間の途中での会社を辞めること(雇用契約の解約)や、パワハラを受けた場合の慰謝料などの損害賠償請求は、法律的な問題です。
本事例では、業者は、本人から代金を受け取って、法律的な問題について話し合い(交渉)になったら、提携先の労働組合が行うとしています。しかしながら、お金を受け取って、法律的な問題の処理を他者(本事例では労働組合)へ斡旋することは、非弁行為です。
なお、労働組合が交渉をする場合であっても、労働組合の行為が必ずしも非弁行為にならないとは限りません。
〔まとめ〕
「退職」というと会社を辞めるだけのことのようにも思えます。
しかし、実際に退職するには、会社と話し合いをして決めておかなければならない事項もあります。例えば、事例の残業代、パワハラの慰謝料のほか、退職金、残っている有給休暇取得などの問題です。
これらは「法律的な問題」であり、業者が、本人に代わって会社と話し合いをすることは、非弁行為となる可能性があります。
また、非弁行為の問題だけではなく、「法律的な問題」について、正しい法律的な保護を受けることができない場合もあり得ます。
例えば、事例1の残業代ですが、実は、法律上、意外と難しい計算が必要です。そのため、残業代が支払われたとしても、正しい計算に基づいたら、本来よりも少ない金額のこともあり得ます。
退職代行サービスの利用を考える際には、「退職」だけでなく、退職に関係して発生する「法律的な問題」にも目を向ける必要があります。十分にご注意ください。
<参考条文>
弁護士法
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
※非弁行為に該当するかどうかといった個別のお問い合わせへの回答、対応は行っておりませんのでご了承ください。