東京弁護士会

揺さぶられっ子症候群無罪判決を受け、私的鑑定費用を国費で負担する制度の実現を求める会長声明

2020年03月31日

東京弁護士会 会長 篠塚 力

本年2月7日、当会会員が国選弁護人を務めた傷害致死事件において、裁判員裁判の結果、無罪判決が言い渡された。
同事件は、児童虐待の一つの態様である「揺さぶられっ子(揺さぶり)症候群(Shaken Baby Syndrome=SBS)」が疑われた事件において、事故の可能性が否定できないとされたものである。
揺さぶられっ子症候群という虐待の態様があることが知られるようになり、それまで事故死と判断されていた子どもの死亡事案が虐待と判断される例が増えた。
世の中から、児童虐待はなくす必要があり、医療現場や児童福祉の現場においては、それを見逃さないような医学的知見及び福祉的介入が求められるのは当然である。
しかし一方で、えん罪による処罰があってはならない。児童虐待が疑われる事案であっても、「疑わしきは罰せず」という刑事裁判の鉄則は決してゆるがせにしてはならない。
私たちの社会は、えん罪を防ぎつつ、虐待の被害者を出さない法制度とその運用に英知を結集しなければならない。

ところで、本件では、検察側が有罪を立証するために検察側の主張を裏付ける証人を多数立てたのに対して、弁護側が2名の専門家証人を立てて反証を試みたことが奏功したと見られる。その意味で、弁護側立証に有効な証人を得られたことが判決の帰趨を分けたと言って良い。
ところが、日本の国選弁護制度の仕組みの中で、国選弁護人が専門家証人を依頼する際の報酬や実費等の費用は、国費から支出されない。これでは、検察官が、潤沢な資金から自らの主張を裏付けるに必要な証人を組織を挙げて確保し、証言を求めることと比較して、弁護人には「武器なくして戦え」と言うに等しい。
そのため、当会では、当会会員が国選弁護人として、専門家に弁護側(私的)鑑定を依頼したり公判廷に出廷しての証言を依頼したりするに必要な費用を賄うことができるよう、補助金を支出している。その財源は、当会会員の会費で賄われている人権救済基金である。
本件の弁護人にも、去る1月29日の常議員会決議を経て、専門家証人の報酬に充てるための費用を援助している。
しかし、本来、国選弁護人が活動するに必要な金額は、国費から支出されるべきである。
これまで日本弁護士連合会は、国選弁護業務を担う日本司法支援センターやその監督官庁である法務省と、国選弁護事件において私的鑑定費用等を国費で賄うよう求め続けてきたが、受け容れられていない。
したがって、現状では、弁護士会独自の援助金の仕組みがなければ、国選弁護人が自らの報酬から(熱心に活動すれば、国選弁護報酬は最低賃金にも満たない額のこともある)自腹を切る必要がある。これは不健全なことである。
「疑わしきは罰せず」という刑事裁判の鉄則を全うするためには、国選弁護人が、費用が支出できないがために必要な立証活動を断念することがないようにしなければならず、それは憲法が保障する弁護人依頼権の一内容と言えることから、早急に国の制度的な手当てがされることを望む。

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