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最低賃金額の大幅な引き上げを求める会長声明

2024年07月10日

東京弁護士会 会長 上田 智司

東京都の最低賃金は現在時給1113円である。 最低賃金は、このところ年々増加しているものの、その水準は、いまだにかなり低いと言わざるを得ない。 上記の最低賃金で1日8時間、月22日間フルタイムで働いても月収19万5888円であり、年収は235万0656円に過ぎない。

最低賃金は、パート・アルバイトなど労働者の4割近くを占める非正規労働者にとって、特に重要な意味を持つ。非正規労働者の多くが最低賃金をわずかに上回る賃金で働いているからである。厚生労働省が2024年3月27日に発表した「令和5年賃金構造基本統計調査」によれば、正社員・正職員以外の平均賃金(月額)は男女計で22万6600円であり、女性に限れば、正社員・正職員以外の平均賃金(同)は20万3500円であった。低水準の最低賃金のため、非正規労働者の賃金水準は、現状低く抑えられてしまっている。

ロシアとウクライナの戦争が拍車をかけた国際的な原材料価格の上昇に加え、円安などによって、物価は上昇している。とりわけ、光熱費、食料品は値上げが相次いでおり、家計を直撃している。一方、物価の上昇に賃金は追いついていない。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によれば、2023年の労働者1人当たりの給与の総額は増えたものの、実質賃金は前年と比べて2.5%減少した。実質賃金は2年連続のマイナスであり、労働者の実質的可処分所得の減少は深刻化している。賃金の大幅な引き上げがなければ、家計はますます苦しくなる。

国際比較でも、海外の主要国と比べ、日本の最低賃金の低さが際立っている。円安が進んだこともあり、円換算で見ると、イギリス、ドイツ、フランスといったヨーロッパの主要国の最低賃金に大きく水をあけられている。昨年の改定前には、日本の最低賃金(全国加重平均)は、オーストラリアの2分の1以下になり、さらに隣国の韓国よりも低くなった、と報じられた。しかし、昨年の改定による引き上げによっても、これらの諸外国との賃金格差は埋まっていない。日本の最低賃金は、諸外国に比べて、引き上げ幅が小さいと指摘されている。日本の賃金水準の低さは、社会の経済的格差を広げ、貧困を深刻化させかねないものである。

非正規労働者をはじめとした低所得者は、貯蓄をする余裕がなく収入の大半を消費するため、最低賃金の引き上げは労働者の生活向上にとどまらず、経済の底上げにもつながる。

このような情勢であるからこそ、最低賃金を大幅に引き上げることが何よりも求められている。

もっとも、最低賃金の大幅な引き上げは、経営基盤の脆弱な中小企業に影響を与える可能性が大きい。日本商工会議所の「中小企業の人手不足、賃金・最低賃金に関する調査」(2024年2月)によれば、2024年度に賃上げを予定している中小企業は61.3%に上るが、賃上げを予定する企業の約6割が「業績の改善がみられないが賃上げを実施予定」としており、また、物価上昇をカバーできる3%以上の賃上げを予定する中小企業は36.6%にとどまっている。中小企業においても大幅な賃上げを実現するには、中小企業の支援が必要不可欠である。すでに、賃上げを行う中小企業を対象に、業務改善助成金、キャリアアップ助成金、法人税・所得税の税額控除等の制度が運用されてきたが、これらの制度の大幅な拡充を図り、物価上昇をカバーできる程度以上の賃上げが実現できるよう政策的に誘導する必要がある。また、これらに加えて、最低賃金を引き上げていくに当たっては、中小企業とその取引先企業との間で公正な取引が確保されるように、下請代金支払遅延等防止法の罰則強化や監視体制を強化するとともに、社会保険料の事業主負担分の減免などの中小企業支援策を実施する必要がある。

当会は、審議を行う中央最低賃金審議会、東京地方最低賃金審議会及び最低賃金を決定する東京労働局長に対し、物価高によって多大な影響を受けている労働者に健康で文化的な生活を保障するため最低賃金額を大幅に引き上げることを求めるとともに、政府に対し大幅な引き上げに対応した中小企業への支援策の策定・実施を求めるものである。

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