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公益通報者保護法の一部を改正する法律についての会長声明

2025年07月01日

東京弁護士会 会長 鈴木 善和

2025年6月4日、公益通報者保護法の一部を改正する法律案(令和7年法律第62号)が参議院において可決され成立し、同月11日に公布された。

今回の改正は、従事者指定義務違反の刑事罰の導入、公益通報者の対象範囲の拡大、通報者探索を含む公益通報を阻害する行為の禁止、通報後1年以内の解雇又は懲戒について公益通報を理由としてされたものと推定する規定の導入、公益通報を理由とした解雇又は懲戒の刑事罰の導入等を内容としており、公益通報制度の実効性を向上させると共に、公益通報者保護を強化することにより、公益通報の利用をより促進させるものとなっている。これは、東京弁護士会の2025年1月9日付「公益通報者保護法の適切な改正を求める意見書」(以下「当会意見書」という。)で求めている内容に沿うものであり、この点については一定程度評価できるものである。特に、当会意見書のとおり、実務上公益通報と不利益な取扱いとの因果関係の有無は通報者と事業者との間で争いとなることが多く、この因果関係の立証責任を通報者が負うことで通報者に多大な負担が生じることから、通報を断念する人が存在し、重大な被害を見過ごす可能性を生じさせるばかりか、事業者の不合理かつ不利益な取扱いを誘発する一因となっていた。今回の改正により、通報者が負う立証責任を事業者に転換し、通報後「1年」以内ではあるものの、解雇又は懲戒について公益通報との因果関係を推定させたことは、通報者の負担を軽減するものであり、公益通報促進につながる大きな前進といえる。

他方、今回の改正においても、次の点において公益通報制度としてはいまだ不十分な内容であると言わざるを得ない。

1 立証責任の転換の対象となる不利益な取扱いの対象に、不当な配置転換、人格権侵害と評価しうる程度のハラスメント、退職勧奨等が含まれていない。当会意見書のとおり、不利益な取扱いが公益通報に起因するとの認定が困難な類型にこそ推定規定が必要であり、立証責任の転換の対象をより広汎に認めるべきである。

特に、不当な配置転換を立証責任の転換の対象となる不利益な取扱いに含めるべきことは、今回の改正法衆議院附帯決議(第217回国会閣法第32号)第1項及び参議院附帯決議(2025年6月2日参議院消費者問題に関する特別委員会)第1項においても検討課題とされており、今後の審議等を注視したい。

2 今回の改正で通報者探索行為の禁止が明記されたものの、これを行った場合の罰則規定の導入は見送られており、引き続き検討のうえ実現すべきである。

3 当会意見書で求めた体制整備義務を負う対象事業者の範囲拡大、公益通報が刑罰法規に抵触する場合(資料の持ち出し行為等の公益通報に付随する行為を含む)の刑事免責の明記等についても、上記附帯決議で今後の検討課題とされ、今回の改正で実現していない。

当会は、上記の点を含め当会意見書に記載した事項で今回の改正で実現しなかった点について、附則にある施行後3年の見直しの際に、引き続き検討し実現することを強く求める。

                            

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【参考資料】
公益通報者保護法の一部を改正する法律(2025年法律第62号)
東京弁護士会2025年1月9日付「公益通報者保護法の適切な改正を求める意見書」
公益通報者保護法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(衆議院)
公益通報者保護法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(参議院)