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憲法と人権擁護の観点からSDGsの実現を目指す2022年宣言

SDGs

2022年03月28日

東京弁護士会

宣言の趣旨

当会は、人類を貧困の恐怖や欠乏から解き放ち、人として生きる権利を尊重し、地球を癒し安全にする SDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))の理念に賛同するとともに、当会がこれまで取り組んできた人権擁護活動をさらに発展させ、憲法的価値を内包する SDGs の理念の具現化を推し進めていくことを決意し、ここに宣言する。

宣言の理由

2015年9月の国連持続可能な開発サミットにおいて、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(以下「2030アジェンダ」という。https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf)が採択され、その中で「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」(以下「SDGs」という。)として、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成しなければならない17の目標と169のターゲットが定められた。 2030アジェンダは、人類を貧困の恐怖及び欠乏の専制から解き放ち、地球を癒し安全にすることを宣言し、誰一人取り残さないことを誓い、世界を持続的かつ強靭(レジリエント)な道筋に移行させるために、大胆かつ変革的な手段をとるべきことを明らかにしている。 取り組むべき課題として2030アジェンダが掲げているのは、すべての人間の尊厳が基本的なものであるとの認識の下に、あらゆる貧困と飢餓を終わらせること、国内的・国際的な不平等と戦うこと、平和で公正かつ包摂的な社会をうち立てること、人権を保護しジェンダー平等を進めること、働きがいのある人間らしい仕事のための条件を作り出すこと、地球と天然資源の永続的な保護を確保すること、などである。

日本国憲法は、前文第2項において「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」と宣言し、人類を貧困や欠乏から解き放ち、地球を癒し安全にするというSDGsの理念を先取りしている。 そして、第13条で「すべて国民は、個人として尊重され」、生命・自由・幸福追求の権利は「最大の尊重を必要とする」とし、第25条で「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」としていわゆる生存権を保障し、第26条で教育を受ける権利、第27条で勤労の権利、第31条で法定手続の保障、第32条で裁判を受ける権利などを保障し、SDGsの17の目標と169のターゲットと本旨を同じくしている。

弁護士は「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命」(弁護士法第1条第1項)とする。弁護士及び弁護士会は、個人の人権を擁護し、前述した憲法的価値を実現する責務を負っている。これは正しく、SDGsの理念を実現する責務を負っていることも意味する。誰一人取り残さないという2030アジェンダの理念は、最も弱い立場にある人の最も重要な権利を護るという弁護士の本質的役割をも表したものであるといえる。

当会は、長年に亘り、多くの委員会及び会員である弁護士ひとりひとりが努力と工夫を重ねて、多様な人権擁護活動に取り組んできた。これらの取り組みは、SDGsの理念を先取りして実践してきたと言っても過言ではない。このような当会であるからこそ、これまで蓄積された豊富な知見、経験を活かして、時代や環境の変化に即応し、憲法的価値を内包するSDGsの理念を率先して具現化する役割を担うべきである。

SDGsを具現化する人権擁護活動として、当会がこれまで取り組み、また、今後展開していく主要な活動は、下記1から8のとおりである。当会は、時代や環境の変化に応じて、その他の分野においても活動を広げていく所存である。

  • 1.社会的弱者の人権侵害、虐待の根絶のための支援(目標3)

    (1)人権侵害の救済

    社会的に弱い立場の人が人権侵害を受けた場合、その救済を求めようとしても、そもそもどこに訴え出ればよいのかが分からない、訴え出るにしても専門家の助けがないと訴え出ることが難しい、訴え出るには費用はどうすればよいのかなど、様々な障害が存在する。

    当会は、人権擁護委員会を中心に、人権救済申立制度を設け、市民が人権侵害を受けた場合にその調査をし、調査の結果人権侵害性が認められたときに相手方に対して警告等をする取り組みを続けている。この制度は、費用がかからないこと、当事者の立証能力の脆弱性を補うために職権調査の構造を取っていること等、社会的に弱い立場の人でも利用しやすい制度設計をしている。また、人権救済申立事件の勧告書は、当会のウェブサイトで公表し、社会的弱者への人権侵害の根絶に向けて、啓発に努めている。

    今後も、当会の人権救済申立制度を、人権侵害の救済を必要とする多くの人々に浸透させ、利用しやすい救済の窓口として機能させていくことに努め、広報も含めた人権侵害の根絶のための活動を続けていく所存である。

    (2)子どもの人権擁護

    当会は、子どもの人権と少年法に関する特別委員会を中心に、少年事件、いじめ、虐待など子どもの人権に関する様々な問題に取り組むべく、子どもの人権救済申立制度を設け、子どもの人権110番の電話・面接相談活動を行っている。

    また、子どもの人権問題に関する個々の弁護士のスキルアップを図るため、各種勉強会、見学会などを開催している。

    子どもの人権啓発活動としては、各種シンポジウムを開催し、とりわけ1994年からは、子どもたちと弁護士がつくるお芝居「もがれた翼」の公演活動を毎年継続して実施している。さらには、小中学生に対し、いじめ予防授業、少年非行授業を実施し、子どもの人権について多様な角度から学ぶ機会を提供している。

    今後も、当会は、個々の会員の活動を環境面でバックアップして、かかる人権擁護活動を持続可能なものとしつつ、社会環境の変化に伴い子どもの人権に関して新たに生起する問題に取り組んでいく所存である。

    (3)高齢者・障害者の人権擁護

    高度な高齢社会が到来し、障害者権利条約の批准・発効を経た昨今、高齢者や障害者の虐待防止は喫緊の課題である。当会は、高齢者・障害者の権利に関する特別委員会を中心に、かかる課題に取り組んできた。

    当会は、2000年の成年後見制度施行に先駆け、1999年10月に高齢者・障害者総合支援センター「オアシス」を発足させ、高齢者・障害者の法律相談(電話、面接、出張)や財産管理を担うとともに、後見人等候補者の推薦を行ってきた。特に近時は、高齢者虐待防止法の制定を受けて、自治体における高齢者虐待防止のケース会議に虐待問題に精通している弁護士を派遣し、具体的事案の解決に尽力している。

    障害者問題については、障害者の人権110番、障害年金法律相談会等の電話やFAXによる相談窓口を随時設置するとともに、東京三弁護士会で協力して、プロジェクトチームを立ち上げて入念な検討や研修会を実施した上で、精神科病院の退院請求等当番弁護士制度を発足させ、障害者の権利擁護を図っている。今後も、当会は、これらの活動を引き続き推し進めていく所存である。

    また、障害者の権利擁護の観点から、法律相談の申込方法についても、申込者が障害を持っているかもしれないことに思いを致し、電話やインターネットに限定せずに柔軟に対応する等、誰一人取り残されないような制度的な工夫に努めていく。

    (4)人権擁護活動の啓発・普及

    当会は、1986年から、東京弁護士会人権賞(略称「東弁人権賞」)を制定し、人権侵害に対する救済活動、国際的な人権活動、人権に関わる立法への貢献または阻止の活動、人権思想の確立のための研究・啓発活動、公害・社会福祉の分野における人権活動、新しい人権の確立のための活動など、各種の人権擁護活動に尽力されてきた方々を毎年表彰してきた。

    今後も、当会は、人権擁護への地道な努力の積み重ねに光を当て、広報等により広く社会へ周知し、人権擁護活動の啓発・普及に努めていく所存である。

  • 2.外国籍者の人権擁護(目標3、8、10、16)

    当会は、外国人の権利に関する委員会を中心に、外国籍者の権利保障、地位安定に取り組んできた。「誰一人取り残さない」という言葉のとおり、SDGsは国籍・民族等とは関係なく、すべての人に等しくあてはまる理念である。当会がこれまで取り組み、今後も続けていく外国籍者に関する人権擁護活動は、下記のとおり、SDGsのいくつかの目標に関連付けられる。

    目標3に関しては、在留資格を有しない外国籍者が必要な医療を受けられるよう、医療機関とも連携しながら、相談会等を開催して個々の外国籍者の権利保障に努めるとともに、医療費負担等も含めて、研究・提言等により、あるべき制度を追求する。

    目標8に関しては、技能実習制度が外国籍労働者を構造的に弱い立場に止めるものとならないように、運用の改善や必要な制度の改正を求めていくとともに、すべての外国籍労働者の地位の安定、権利保障を求めていく。

    目標10に関しては、外国籍者を含むすべての人の家族生活や子どもの権利が損なわれないよう、安心かつ安全で差別のない社会を実現すべく、国際人権法に沿った出入国管理を求めていく所存である。

    目標16に関しては、現在、司法審査を受けることなく入国者収容所や地方出入国在留管理局の収容場への収容が行われているが、国連機関から国際法違反の指摘もされているところである。出入国管理及び難民認定法(入管法)について、原則収容主義や無期限収容も含めて、抜本的な改正に向けて研究・提言等を行っていく。

  • 3.あらゆる性平等の実現(目標5、10)

    (1)性平等の制度の実現

    当会は、性の平等に関する委員会を中心に、性平等の制度の実現、性差別の撤廃等のための活動を展開してきた。

    雇用の分野においては、性別による差別の撤廃のために、直接的な差別はもとより間接差別の禁止や同一価値労働同一賃金の原則について、あるいは、健康に家庭生活や社会生活と両立しつつ働き続けられる権利が人権であるとの視点から労働時間に関する制度について、さらには、職場におけるハラスメントの根絶について、調査研究、意見発表や広報啓発などに取り組んできた。

    家族の領域における平等の実現のために、婚外子の相続差別撤廃、再婚禁止期間の見直し、女性のみ若年での婚姻を可能とする制度の廃止、選択的夫婦別姓制度の導入について、研究や提言等に取り組む一方で、女性支援に取り組む専門家との定期的な研修と意見交換も行ってきた。

    女性に対する性的な搾取も問題として取り上げ、女性に対する重大な人権侵害としての家族ないし親密な関係にある者の間での暴力の防止と被害者の救済にも取り組んできた。

    性平等の実現は、すべての国や地域でなされるべきことであるとの認識のもとに、国際的な人権水準の実現を訴え、他国における差別の撤廃に向けた実践にも学んできた。他方で、女性のための法律相談を開設して継続的に実施し、学校に弁護士を講師として派遣し、デートDV防止授業を行っている。また、当会の個々の弁護士が、担当する事件において、性別による差別からの救済を図ってきた。

    今後も、当会は引き続き上記の諸活動を地道に継続しつつ、ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児のエンパワーメントや、各国内及び各国間の不平等を是正するための取り組みを拡げていくように努める所存である。

    (2)LGBTQ(セクシュアル・マイノリティ)の人権擁護

    当会は、とりわけ性平等の実現の一環として、性の平等に関する委員会を中心に、LGBTQ(セクシュアル・マイノリティ)の人権擁護のための先駆的な取り組みを行ってきた。

    我が国の弁護士会としては初めて、2012年にセクシュアル・マイノリティをテーマとしたシンポジウムを開催し、その後も毎年のように、セクシュアル・マイノリティの人権問題に関するシンポジウム・公開学習会を開催して、一般市民向けにセクシュアル・マイノリティの知識を広めている。

    2014年6月に、我が国の弁護士会としては初めて、セクシュアル・マイノリティ専門の定期電話相談(相談料無料)を開始し、セクシュアル・マイノリティが直面する法律問題について、精通した弁護士が法的助言を行っている。

    当会内では、2019年4月1日施行で、同性愛者等である職員(カミングアウトの有無を問わない)のために職員就業規則等を改正し、同性パートナーを有する職員も、結婚、出産、育児等の際の休暇や支給金など、家族に関する福利厚生制度を利用できることを定めた。2020年1月からは同性パートナーを有する会員に対しても、異性パートナーの場合と同様、会費免除・会務活動の免除・弔慰金・災害補償等の福利厚生を受けることができるように会則改正等を行っている。これらの規則改正により、同性カップルが異性カップルと同じ福利厚生を享受できるようになった。

    さらに、2021年3月、当会は「同性カップルが婚姻できるための民法改正を求める意見書」を発出し、同性婚の実現に向けて対外的に発進している。 今後も、当会は引き続き上記の諸活動を地道に継続しつつ、会内では、セクシュアル・マイノリティの職員を働きやすくする制度の改善に取り組み、対外的には、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の改正や、同性婚の法制化に向けて、研究や提言等に取り組んでいく所存である。

  • 4.個人の貧困を終わらせるための支援(目標1、2)

    2018年時点の我が国の相対的貧困率は15.4%となっており、約6人に1人の国民が貧困である。貧困を終わらせるSDGsの対策は我が国にも求められている。

    日本弁護士連合会は、2006年の人権擁護大会で「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」を採択し、「今後、研究・提言・相談支援活動を行い、より多くの弁護士がこの問題に携わることになるよう実践を積み重ね、生活困窮者支援に向けて全力を尽くす決意」を表明した。

    当会は、憲法で保障された生存権を実現するため、人権擁護委員会を中心に、生活保護相談センターを運営し日常的に相談窓口を設けているほか、東京三弁護士会共催で全国一斉生活保護ホットラインを毎年開催し、生活困窮者支援の活動を行ってきた。また、貧困問題に多くの弁護士が取り組んでもらうため、毎年貧困問題を切り口にした様々なテーマで勉強会を開催している。

    今後も、当会は引き続き上記の諸活動を地道に継続しつつ、さらに生活困窮者の支援、貧困を終わらせるための支援を拡げていく所存である。

  • 5.中小企業のSDGsへの取り組みの支援(目標5、8、9、12、13)

    我が国では、中小企業が事業者数で約99%、従業者数で約70%を占め、雇用と地域経済を支えている。中小企業こそが、SDGsの実現に向けて、社会的課題の解決、社会共通の価値の創出などに大きく寄与できる存在であり、ジェンダー平等や次世代人材の採用・育成、幅広い雇用の創出・維持、持続可能な生産消費形態の確保、気候変動対応などに取り組むことにより、地域社会、日本そして世界の人々に幸福と繁栄をもたらし、地球の持続可能性に大きく貢献できる。

    当会は、中小企業のSDGsへの取り組みを啓発し支援すべく、中小企業法律支援センターにおいてSDGsプロジェクトチームを立ち上げた。同チームでは、2011年に国連において策定された「ビジネスと人権に関する指導原則」の中小企業への浸透を推進し、中小企業によるSDGs及び同原則の取組事例の紹介、関係諸団体との連携、セミナー開催や研究成果の発表などを開始している。これまで同センターが中小企業の法的支援の過程で培ってきた経験や知見、他団体との連携関係等を活かし、中小企業がSDGsに取り組みやすくするように、具体的な活動へのアドバイスや支援、環境整備に努めていく所存である。

  • 6.海や陸の生態系を守り、持続可能な利用への支援(目標7、13、14、15)

    我が国は海に囲まれており、森林面積も多い。海や陸の生態系を守ることは重要な課題である。その実現のためには、自然環境の重要性や現状を確認し共有したうえで、各自が管理や保護に励むとともに、必要に応じて補助金の導入や法規制なども検討すべきである。

    当会は、公害・環境特別委員会が、SDGs部会、気候変動エネルギー部会、及び動物部会等を設置し、同委員会を中心に環境保護活動に取り組んでいる。

    当会としては、気候変動、再生可能エネルギー、自然保全、動物福祉、食品ロス、及びプラスチックゴミなどの問題について、現地調査、専門家との勉強会、環境問題に取り組む企業へのヒアリング、及びシンポジウムなどを実施または実施予定である。引き続き、現状の確認や報告、企業支援、及びこれらに基づいた政策提言などを行い、海や陸の生態系を守り、持続可能な利用ができる社会に貢献していく所存である。

    また、当会内の取り組みとしては、海洋プラスチックゴミ問題が深刻化していることを踏まえ、プラスチックゴミ対策として、プラスチックゴミの排出抑制と再資源化を進めていくように努めている。

  • 7.司法アクセスの向上(目標16)

    (1)弁護士による司法アクセスの向上の意義

    平和で誰をも受け入れる社会を実現していくためには、紛争が生じたときに、誰でも利用できる、司法の理念に基づく解決手段が用意されていなければならない。我が国における司法による紛争解決機関として裁判所があり、憲法上国民には裁判を受ける権利が保障されている(憲法第32条、第37条)。もっとも、一般市民は裁判上の手続を自ら遂行するだけの法律的な知識を持たない場合が多く、誰もが裁判を受ける権利を行使できるようにするためには、法律の専門家たる弁護士の助力が不可欠である。

    また、近時において裁判外での法的紛争解決手段が構築されており、当会はその推進にも貢献している。

    (2)法律相談センター・法律相談窓口等の設置・運営

    当会は、市民が法的課題・紛争に直面した際に弁護士にアクセスしやすくするために、都内各地に法律相談センターを設置している。当会単独では、錦糸町法律相談センター、池袋法律相談センター及び北千住法律相談センターを設置・運営し、当会を含めた東京三弁護士会は、霞が関法律相談センター、新宿法律相談センター、蒲田法律相談センター、立川法律相談センター、八王子法律相談センター及び町田法律相談センターを設置・運営している。

    また、当会においては、法律相談センターに赴かずに、相談担当の弁護士の紹介を可能とする弁護士紹介センターも運営している。この弁護士紹介センターでは、原則面談相談を前提としているが、災害、感染症の蔓延などの事態に備えて、オンライン相談を開始している。

    さらに、当会においては法律相談の内容に応じて、多分野にわたる相談窓口を設置し(上記で掲げた以外に、民事介入暴力被害者救済センター、公益通報者相談窓口、マンション管理相談窓口、ハーグ条約対応弁護士紹介窓口、犯罪被害者支援センター、中小企業法律支援センター、女性のための法律相談、空き家相談窓口等)、事案に応じた適切なサービスを提供できるように努めている。

    今後も、当会は、時代や環境の変化に対応しつつ、市民にあまねく適切な法的サービスを行き渡らせるように努める所存である。

    (3)公設事務所の設置・運営

    当会は、都市型公設事務所として、弁護士法人東京パブリック法律事務所、同北千住パブリック法律事務所及び同多摩パブリック法律事務所の3事務所を設置・運営している。

    首都圏においても、一般の法律事務所では対応しにくいケースがあり、都市部にも司法過疎問題が存在するとの認識の下、これらの公設事務所において、如何なる市民も権利救済の網の目からこぼれ落ちることのないよう、日々活動している。また、自治体と連携して地域の法的需要に細やかに応えると共に、都内に限らず、全国の司法過疎に対応するため、過疎地へ派遣する弁護士の養成を行っている。これまで、当会の各公設事務所から、司法過疎地にある日弁連ひまわり公設事務所や法テラスに派遣された弁護士は多数にのぼる。

    さらに、東京パブリック法律事務所では、国内で権利侵害のおそれのある外国籍者の権利擁護のために、法律相談等を実施している。多摩パブリック法律事務所は多摩地域の自治体と連携して多摩地域の司法を支えている。北千住パブリック法律事務所は、困難案件等の刑事弁護を引き受け、多数の無罪事件を獲得し、冤罪防止に大きく貢献している。

    当会の公設事務所は、刑事にせよ、民事にせよ、外国人の事件にせよ、一般の法律事務所では担えない困難案件を担っており、きめ細かい司法的権利救済活動を展開している。今後も、当会は、引き続き都市型公設事務所の活動を充実させ、権利救済の網の目から誰一人こぼれ落ちることのないように努めていく。

    (4)ADRの推進

    誰でも利用できる司法的な解決手段としては、裁判制度のみならず、当事者の話し合いによる平和的な解決手段が整備されることが望ましい。

    当会は、当事者の自主性を尊重して平和的な紛争解決を目指すADR(裁判外紛争解決手続)を運営する機関として、紛争解決センターを設置している。同センターにおいては、日常的な民事紛争はもとより、医療紛争、国際的な家事紛争、学校問題、災害といった専門性が求められる紛争類型にも対応した多様なADRを実施している。東京三弁護士会と金融ADRに関する協定を締結している金融機関との紛争については、金融ADRとして専門ADRを実施している。

    さらに、新たに発生、あるいは顕在化してくる様々な紛争に関しても、例えば、養育費の不払い解消に向けて養育費の取り決めをする養育費ADRや増加する外国人労働者の雇用主や第三者との問題解決についてビジネスと人権に関する指導原則に則ったADR等を創設するなどの取り組みを迅速に進めている。

    その方式としても、対面による手続きのみならず、オンラインによる申し立てや手続の実施にも取り組んでいる。

    今後も、当会は、ADR機関として活動することを通じて、持続可能な開発のための司法アクセスの向上に一層寄与することに努めていく所存である。

  • 別紙(SDGs17目標)

    目標 1. あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困を終わらせる
    目標 2. 飢餓を終わらせ、食料の安定確保と栄養状態の改善を実現し、持続可能な農業を促進する
    目標 3. あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確実にし、福祉を推進する
    目標 4. すべての人々に、だれもが受けられる公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
    目標 5. ジェンダー平等を達成し、すべての女性・少女のエンパワーメントを行う
    目標 6. すべての人々が水と衛生施設を利用できるようにし、持続可能な水・衛生管理を確実にする
    目標 7. すべての人々が、手頃な価格で信頼性の高い持続可能で現代的なエネルギーを利用できるようにする
    目標 8. すべての人々にとって、持続的でだれも排除しない持続可能な経済成長、完全かつ生産的な雇用、働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)を促進する
    目標 9. レジリエントなインフラを構築し、だれもが参画できる持続可能な産業化を促進し、イノベーションを推進する
    目標 10. 国内および各国間の不平等を減らす
    目標 11. 都市や人間の居住地をだれも排除せず安全かつレジリエントで持続可能にする
    目標 12. 持続可能な消費・生産形態を確実にする
    目標 13. 気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を実施する
    目標 14. 持続可能な開発のために、海洋や海洋資源を保全し持続可能な形で利用する
    目標 15. 陸の生態系を保護・回復するとともに持続可能な利用を推進し、持続可能な森林管理を行い、砂漠化を食い止め、土地劣化を阻止・回復し、生物多様性の損失を止める
    目標 16. 持続可能な開発のための平和でだれをも受け入れる社会を促進し、すべての人々が司法を利用できるようにし、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任がありだれも排除しないしくみを構築する
    目標 17. 実施手段を強化し、「持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップ」を活性化する

    ※ 「SDGsとターゲット新訳」制作委員会の「SDGsとターゲット新訳」Ver.1.2より引用