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遺言・遺言書

遺言書は、生前世話になった人に相続の際に御礼がしたい、あるいはお孫さんに財産を渡したい、というように、被相続人(故人)が法律の定めと異なる相続の配分を生前に希望するときに作成するものです(遺言書がない場合には、民法の定めに従って相続人に配分されます。)。
遺言は、そうした被相続人の最終意思を尊重する制度であり、遺産を誰にどのように配分するかを自由に定めることができます。
もっとも、法定相続人には遺留分というものがあり、これを侵害するものについては、後に紛争の種となる可能性がありますので注意が必要です(詳細は、「遺留分」をご参照下さい。)。
遺言は、民法所定の方式によらなければならず、例えば、口頭で行っても有効な遺言とはなりません。民法は、遺言の形式を7種類に限定しており、その中でも、自筆証書遺言(民法968条)、公正証書遺言(民法969条)の利用が一般的です。

Q&A 多くの方々から頂く代表的なご質問

亡父の遺品を整理していたら、遺言書が出てきました。どうしたらよいでしょうか?

遺言書を保管している人は、相続開始を知った後、遅滞なく「検認」の手続を請求する必要があります。遺言書を保全し、関係者に広く周知して、公正かつ迅速に遺言の内容を実現するためです。公正証書遺言の場合は検認不要です(1004条)。

封印のある遺言書は裁判所で開封する必要があり、相続人であっても勝手に開封すると過料に処せられる場合があるので注意が必要です(1004条3項)。

なお、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」の施行によって、2020年7月10日より自筆証書遺言の保管制度が開始されました。自筆証書遺言を作成した人が法務局の遺言書保管所に遺言書の保管を申請できるようになり、遺言者の死亡後であれば、相続人らは遺言書保管所に遺言の内容を確認できます。検認も不要です。

検認や開封の手続きは、弁護士に依頼することもできます。遺言の手続は様々ですので、まずは弁護士と相談されることをお勧めします。

夫の四十九日の後に親族が集まったところ、2つの遺言書が出てきました。作成された時期は異なるようですが、どの遺言が有効なのでしょうか?それともいずれも無効なのでしょうか?

遺言が2つあっても、内容が互いに抵触・矛盾しなければ、いずれの遺言書も有効です。

問題は、遺言の内容が抵触・矛盾する場合です。遺言は、故人(被相続人)の最終的意思を尊重し確保する制度ですので、抵触・矛盾する部分については、後に作成された遺言によって前の遺言が撤回されたとみなされます。

作成日付が同じ2つの異なる内容の遺言がある場合、故人の最終的意思をできるだけ尊重するため、遺言の内容等を吟味して遺言の先後を確認しますが、どうしても先後がはっきりしない場合は、同時に2つの矛盾する遺言をしたものとみなし、抵触・矛盾する部分は無効とするのが通説的見解です。

複数の遺言の優劣は、上記のように難しい検討を要しますので、複数の遺言が見つかった場合は弁護士に相談することをお勧めします。

公正証書遺言とはどのようなものですか?

公正証書遺言は、証人2人の立ち会いのもとで、公証人が遺言の内容を筆記し、これに公証人、遺言者、証人2人が署名押印して作成するものです(969条)。未成年者や、推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族等は証人となることができません(974条)。

遺言者の遺言であることを公証人が確認していますので、後の裁判でこれが無効となることは少ないとされています。

自筆証書遺言を作成する場合の注意点について教えて下さい。

自筆証書遺言の作成にあたっては、全文を自筆すること、日付を記載すること、署名・押印をすること等が必要です。なお、2019年1月13日以降に作成される遺言書については、相続財産の目録部分を自筆せずに、パソコンで作成したり、預金通帳のコピーを添付したりすることができるようになりましたが、自書によらない財産目録を添付する場合には、目録の全ての頁に署名押印をしなければなりませんので、注意が必要です(968条)。

自筆証書遺言は遺言者自身で作成できる点で便利ですが、相続人は家庭裁判所で遺言の検認を受けなければならず、形式的な不備、遺言の内容が不明確、本当に本人が作成したのかはっきりしない等の理由で無効となってしまう場合がありますので、一度弁護士に相談されることをお勧めします。

遺言書保管制度について教えてください。

公正証書遺言は、遺言者の遺言であることを公証人が確認しているため、後の裁判で無効となることがとても少ないとされていますが、証人の立ち合いが必要なことや費用もかかることから、作成することが容易でない場合もあります。そこで、2020年7月10日以降、自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)で保管する遺言書保管制度を利用できることになりました。遺言保管場所には遺言者本人が自ら出頭して申請する必要があり、また遺言書保管所に保管される遺言書は、封のされていない、一定の様式のものである必要がありますが、保管時に様式の確認がなされるため、形式的な不備で無効とされるおそれは少なく、相続人においても検認を受けなくてもよいというメリットがあります。

相続人は、遺言書の内容に拘束されるのですか?遺言と異なる遺産の配分はできないのですか?

遺言書は故人の最終意思が記されたものであり尊重されなければなりませんが、有効な遺言書であっても、例えば、遺留分を侵害するような場合には遺留分侵害額の請求の対象となります(詳細はQ16をご参照ください。)。

また、遺産分割において相続人全員の合意があれば遺言の内容とは異なる分割方法を定めることもできます。

遺留分侵害額の請求をするときには訴訟や調停を申し立てる必要がありますか?

訴訟や調停によらなくても、請求の相手方となる相続人等に書面で通知して請求するだけでも構いません。なお、このときは必ずしも金額を明示する必要はないと言われています。

ただ、A16で説明したように遺留分侵害額請求権には時効がありますので、書面で請求をする場合には、内容証明郵便を利用して請求した時期と内容を証明できるようにしておいた方がよいでしょう。

遺留分侵害額の請求をしても、相手方の相続人等が支払に応じないことも多いので、早い段階で弁護士に相談し、適切に対処すべきでしょう。なお、支払に応じない場合は、最終的には、訴訟により遺留分侵害額の支払いを請求することになります。

遺留分侵害額の請求をする相手は誰ですか?

遺留分侵害額の請求の相手方は、法律上次のように定められています。

① 遺贈と贈与がある場合は、まず受遺者(遺贈を受けた者)に対して請求し、受遺者に対して請求できる額のみでは遺留分侵害額に満たないときに受贈者(贈与を受けた者)に対して請求する(民法1047条1項1号)。

② 受遺者が複数ある場合、原則としてその目的の価額に応じて請求する。例えば、Aが2400万円、Bが3000万円の遺贈を受けていて、Cが自己の遺留分を900万円分侵害されている場合には、Aに対して400万円〔=900万×2400万/(2400万+3000万)〕、Bに対して500万円〔=900万×3000万/(2400万+3000万)〕の請求をする(民法1047条1項2号本文)。

③ 受贈者に対して請求する場合は、まず新しい贈与の受贈者が負担し、それのみで遺留分侵害額に満たないときには、順次古い贈与の受贈者が負担する(民法1047条1項3号)。