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被災者を被災者が受け入れている窮境(今井 智一)

 東京武道館避難所は、4月24日をもって閉鎖されましたが、私が訪れた頃には、主に福島第一原発の避難地域周辺から避難されてきた方々約180名が生活をされていました。
 震災法律相談とはいうものの、相談ブースの看板で用いられていたのは、「法律相談」という言葉ではなく、「よろず相談」という言葉です。法律の話に限らず、様々な問題を抱える被災者の方々のあらゆる相談に応じ、皆さんのストレスを少しでも和らげたい、愚痴を聞くだけでもいいので、とにかく皆さんのお話を聞いてあげたい、弁護士のそうした思いが、「よろず相談」という言葉に表れていたのだといえます。その「よろず相談」コーナーで、私を含めて4名の弁護士が相談にあたっていました。

 私たちは、時には雑談の立ち話の相手になり、時には被災者の子供たちの遊び相手になったりしていましたが、深刻な悩みの相談も受けました。
 相談者の方は、被災者自身ではなく、家族である被災者を5名ほど受け入れた方でした。その方は、最近夫を亡くされて母子家庭になり、精神的にも経済的にも不安定な状況に陥っていたのですが、その苦しい状況下で、原発周辺地域から避難されてきた実家の親戚を受け入れたのでした。避難した親戚の方の中には収入の道を断たれた方や介護が必要なかたもいらっしゃるとのことでした。そのため、経済的な面や介護の点で受け入れた相談者の方に負担がかかり、あらゆる面で厳しい状況下に置かれてしまったのでした。相談の冒頭、何か援助を受けられる制度はないか、藁をもすがる思いで来たとおっしゃられていたことを覚えております。

 この方の相談もそうでしたが、早い時期に行われる震災相談で重要となることが多いのは、法律問題よりも、行政が用意している制度をどれだけ紹介できるかという点です。この方に対しては、避難してきた方の家が津波被害を受けたということでしたので、罹災証明申請と被災者生活支援制度の紹介、義援金配分の紹介、生活福祉資金制度の貸付などをご紹介させていただきました。
 微力ながらも助言をさせていただいた後に相談者の方が見せた笑顔は、今も映像として思い出すことができます。疲労し、強張った表情の目もと、口もとが、心なしか和らぎ、穏やかな笑みを湛えられたのでした。

 震災法律相談のことを振り返った今、その1つの笑顔の中に、弁護士が果たすことのできる役割が凝縮されているのではないか、そう感じております。

(弁護士・今井 智一)

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