被災者相談の「新たな段階」(吉田 悌一郎)
最近、被災者支援も「新たな段階」に入ったという議論を聞くようになった。
いつから「新たな段階」と位置づけるかは難しい問題であるが、避難所から住宅(ここでいう住宅とは、仮設住宅や自治体が提供する民間借り上げ住宅、公営住宅などを指す。)に移った段階を「新たな段階」と考えることはできるだろう。
しかしながら、重要なことは、「新たな段階」に入ったからといって被災者の生活環境がそれまでよりも改善されているとは限らないことだ。仮設住宅をめぐる困難な問題がそれを物語っている。
避難所では食事の提供があるが、仮設住宅ではそれはなくなる。つまり、避難所から住宅に移るということは、被災者の自立を促されることになる。家も仕事も(場合によっては家族も)失った被災者にとって、「新たな段階」はそれまでよりも過酷な状況を強いられることでもある。
また、これも当然のことだが、すべての被災者が「新たな段階」に入っているわけではない。今でも避難所での生活を余儀なくされている被災者の方々はたくさんいる。「新たな段階」を議論するに当たっては、これらのことを踏まえて考える必要がある。
さて、東京都江東区東雲の公務員住宅に、主に福島県からの被災者の方々約300世帯800人が生活されている。6月24日(金)に弁護士会主催でこの東雲の公務員住宅の被災者を対象とした無料法律相談会が行われ、私も相談員として参加させていただいた。
避難所での相談活動とは異なり、ここでは通常の法律相談と同様に、公務員住宅の建物の中の集会場に相談ブースを作り、被災者の方にそこまで相談にお越しいただくというスタイルをとった。しかし、それにもかかわらず、相談は2時間半で13件と盛況であった。5人の弁護士でご相談をお受けしたが、ひっきりなしにご相談があるという状況だった。
避難所での相談は、どちらかというと法律相談よりも生活相談的なものが多かったが、ここでは法律相談らしい相談が多かった。私が受けた相談は、二重ローンの問題、借地の地代の話、生活保護、原発の補償などであった。
住宅に入ってとりあえず生活が落ち着き、改めて自分の身の回りの法律問題を相談する心のゆとりのようなものが生まれたのかも知れない。避難所とは違って、1年間は追い出される心配がないということもあるかも知れない。
しかし、一見落ち着いているように見える被災者が、「新たな段階」において抱えている問題もみな深刻なものだった。今後はより一層法律家の支援が必要になると強く感じた。
それと同時に、被災者同士の横の連携を図ることが重要であり、それを支援することが必要である。800人もの被災者がおられるのであるから、何か被災者の自治会のようなものを作り、被災者同士で悩みを相談し合ったり、情報を共有したりできる組織を作ることが必要であると思う。
今後の原発の補償問題などの際にも、このような組織の存在は被災者にとって重要になると思う。こうしたことのお手伝いもできればと思う。
いずれにしても、被災者相談の「新たな段階」においても、まだまだ我々弁護士が取り組むべき課題は多い。
(弁護士・吉田 悌一郎)