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民事介入暴力対策特別委員会

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離脱支援の実例

第1 はじめに

近年、様々な人がいわゆる闇バイトに応募し、犯罪行為に加担してしまったという報道が後を絶ちません。そして、いわゆる闇バイトを使った犯罪の背後には、暴力団等の存在があるとも言われております。

そして、暴力団や半グレ、トクリュウ(闇バイトを主導する犯罪グループ)などといった反社会的組織は、一度関わってしまえば、容易に組織を抜けられない、関係を断つことができないといった問題があります。

そのような問題を解決するため、当委員会では、これらの反社会的組織から抜け出し、真っ当な社会生活を営みたいという人のサポート(このようなサポートを「離脱支援」といいます。)に力を入れております。

本コラムでは、反社会的組織の中でも離脱が特に難しいと言われている暴力団からの離脱について、実際に当委員会に所属する弁護士が取り組んだ離脱支援の成功例と担当弁護士へのインタビューを、匿名化した上で、ご紹介いたします。

第2 弁護士による離脱支援の例

1 事案の概要

暴力団の組長の犯罪行為に関与して逮捕された組員のAさん(仮名)が暴力団を辞めようと決断し、当委員会に所属する弁護士に相談したことを受け、弁護士複数名によるAさんの離脱支援を行うチーム(以下、「離脱支援チーム」といいます。)が結成され、その支援により、Aさんが無事暴力団を離脱し、就労先を見つけて、平穏な生活を取り戻した事案です。

2 離脱支援活動の内容

(1)離脱意思の確認

離脱支援チームは、まずAさんが暴力団を辞めたいという強い意思があることを確認するために、Aさんと何度も面談してその強い意思があることを確認しました。

(2)警察への相談の同行

Aさんが暴力団から離脱するためには、暴力団の組長が押印したAさんが暴力団を辞めたことを示す書類(以下「脱退届」といいます。)を警察に提出する必要がありました。

そこで、離脱支援チームは、Aさんと一緒に警察相談に行き、Aさんが暴力団を本当に辞めたいと考えていることを丁寧に説明しました。

その結果、警察にもその熱意が伝わったのか警察の協力を得ることができ、無事離脱届を警察に提出することができました。

(3)保護対策の要請

Aさんが暴力団を辞めようとすると、暴力団がAさんやAさんの家族に報復を行う可能性があったことから、離脱支援チームは、警察に対して、AさんとAさんの家族に対する保護を要請しました。

具体的には、離脱支援チームがAさんの居住地を担当する警察署に保護の必要性を記載した資料を持参して訪問したり、Aさんの居住地の近くの交番にも挨拶をしに行ったりした結果、警察が保護を行ってくれることになりました。

(4)金銭問題の解決

ア 金銭の借り入れへの対応

Aさんは暴力団関係者からお金を借りていたことから、Aさんが暴力団との関係を完全に断ち切るには、この金銭問題を解決する必要がありました。

そこで、離脱支援チームは、弁護士が受任したのでAさんに直接接触してはならない旨を通知した上で、暴力団関係者と交渉を行い、解決することができました。

イ 滞納していた税金への対処

Aさんには滞納している税金があり、そのまま放置すると財産の差し押さえを受ける可能性がありました。

そこで、離脱支援チームは、税務署の担当者と話をし、Aさんが暴力団を離脱することや、滞納している税金を今後支払っていく意思があることなどを記載した書面を担当者に持参して丁寧に説明を行った上、Aさんが滞納している税金を支払い続けたことにより、Aさんの財産が差押えを受けることはありませんでした。

(5)就労支援

離脱支援チームは、暴力団追放運動推進都民センター(以下「暴追都民センター」といいます。)と連携し、Aさんの就労支援も行いました。

暴追都民センターとは、暴力団対策に関する活動をしている団体で、その活動の一つとして暴力団から離脱した者に対する就労を支援しています。

離脱支援チームと暴追都民センターが連携してAさんの就労先を探した結果、Aさんは暴力団離脱者の支援に理解のある企業に就職することになり、現在も勤務を続けています。

3 就労後の継続的なアフターケア

Aさんが就労先を見つけたことをもって離脱支援チームの仕事は一応終了しましたが、Aさんとは現在(令和7年1月執筆時点)まで継続的に連絡を取り合い、仕事や家庭の状況等について把握するとともに、何か困りごとがあれば相談を受けるという関係が続いています。

第3 担当弁護士(離脱支援チームの一員Y弁護士)へのインタビュー

1 離脱支援を行ってみて

離脱支援に関与させていただき、平穏な生活を取り戻したご本人やご家族とお会いし、充実した表情や声を聞くことができた時に、何よりも嬉しいと感じたことを鮮明に記憶しています。 

離脱支援活動は、決して私たち弁護士だけでは実現できません。ご本人の「離脱したい」という強い思いや、警察や暴追センター等の各所から協力をいただくことが必須であると感じています。

また、離脱支援の重要な目的は、ご本人及びご家族ら大切な存在である方々の平穏な生活を取り戻すことであると考えております。その観点から、暴力団のみならず、半グレやいわゆるトクリュウなど、あらゆる犯罪組織からの離脱支援に取り組んでいきたいと考えております。

2 離脱したい方へのメッセージ

暴力団から離脱し、就労先を見つけて、ご本人及びご家族ら大切な存在である方々の平穏な生活を取り戻すことは簡単なものではありません。しかし、離脱を望む方ご本人の強い決意があれば、実現することができるものと考えています。

そのために、私たち離脱支援に関わる弁護士も、精一杯のサポートをさせていただきたいと考えております。

                          令和7年3月26日 
                                民事介入暴力対策特別委員会 委員

※こちらのページはコラムであり、執筆委員の、掲載時における分析や私見が含まれております。

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