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元依頼者が津波で流されました(貞弘 貴史)

元依頼者が津波で流されました。
以前書きましたが、日弁連の公設事務所(ひまわり基金法律事務所)弁護士として岩手県遠野市におりました。
その方は、何回か依頼をお受けしたので、特に強く記憶に残っていました。
おじいちゃんとおばあちゃんで、よく事務所に来ていました。
当時事務員をしていた私の妻のことを、おばあちゃんは自分の娘のように気遣ってくれていました。
「わたすの娘は今東京に一人で嫁いでんのよ。周りに知り合いがいねえでつれえっていっつも言ってんの。東京から来ている奥さん見っと、人ごとと思えねえで。」
おばあちゃんは私にそう言っていました

とある休日、私と妻が事務所で仕事をしていました。預けられるところがなかったので、2歳になった息子も一緒でした。
打合せでいらっしゃったおばあちゃんに、「息子いますけど、だっこしてもらっていいですか?」と頼むと、快諾してくれました。「めんこいねぇ。おうおう、おっきくておもいねえ。元気だあ。」おばあちゃんは満面の笑顔でだっこしてくれました。

その後打合せのたびに、おばあちゃんはいつも「今日は奥さんとお子さんいます?ゆうとくん、風邪ひいたりしてねえか?」などと私に聞いていました。おばあちゃんは私の子供の名前をちょっと間違えていて、私が直すんですけど、ちょっと珍しい名前なので、いつも間違えます。
「まあ、また大きくなったら何かの形で会える、そのときに訂正すればいいか。」
そう思っていました。

そして、3月11日、津波が起きました。

そのおじいちゃん、おばあちゃんの家は海のすぐ側にあり、どう考えても建物は無事ではないはずでした。

「先生にはいっつも助けてもらって悪いねえ、わたすたち、悪運つえっから」
おばあちゃんは、震災前、笑いながらそう話していました。
おばあちゃんは、何回も自分たちに不幸なことがおき、それでも元気に生きている。自分たちは悪運が強いんだって思っている。打合せの度に、私にいつもそう話してくれていました。
ですので、ずうっと気にはなっていたのですが、おばあちゃんたちはきっと生きている、どこかの避難所できっと会える、そう希望をもって仕事をしていました。

7月に入り、近くの被災地に出張相談をすることになりました。「近くに行きますよ」そう知らせてあげようと思い、おばあちゃんの携帯電話に電話をかけました。
「トゥルルルル・・・ガチャ」「はい、もしもし」電話の声は、中学生くらいの男の子でした。
聞けば、おじいちゃんとおばあちゃんは流されて、自分が今この番号を使っているとのことでした。私は謝罪し、電話を切りました。

翌日、私はおじいちゃんとおばあちゃんの家に行きました。周りは家ごと全て流され、建物の基礎だけが少し残っている状態でした。何回か行ったことがあるのに、本当にどれがおじいちゃんとおばあちゃんの家かわかりませんでした。
「○○さんち?ああ、そこだよ。二人とも流された。家にいたみたいだな」近くの人に教えて貰い、おうちがわかりました。
そこには、ブロックを利用した、ちょっとしたお供え物ができるような場所ができていました。おそらく、遺族の方が作られたのでしょう。
私は遠野の道の駅で買ってきた向日葵をお供えし、おばあちゃんとおじいちゃんに謝りました。

「ごめんね。今回助けられなくてほんとごめんね。」
「ばあちゃん、ほれ、息子だよ。大きくなったでしょ。去年から幼稚園行ってるんだよ。帽子と制服、ぶかぶかなやつ買ったつもりだったけど、おっきいのはそのままだから、もう大分ぴったりになっちゃったんだよ。」
「遠野を出て、二人目も生まれたんだよ。まあた男の子だったよ。これが写真。名前、今度は間違えないでよ。ばあちゃん、いっつもまちがえっから・・・。上の子の名前、まだちゃんと覚えて貰ってなかったのになあ・・・

私は携帯電話に入っていた息子達の写真を見せながら、しばらくの間その場にたたずみ、仕事に戻りました。
車に乗り込むとき、ふと後ろを見ると、殺風景な建物の跡地に、さっきの向日葵と他の方がお供えしたお花がそよ風になびいていました。

おじいちゃんとおばあちゃんは、車がなく、逃げられませんでした。
いつの時代も、弱い人、まもられるべき人が犠牲になります。
弁護士ができることに限界があるかも知れません。
ですが、できることはあります。
おじいちゃんとおばあちゃんの家の跡地は、いつか、お花が咲き乱れ、子供の笑顔が絶えない町の一部になるでしょう

それはきっと、おじいちゃんとおばあちゃんの願いだと思います。
その日まで、被災地支援を続けたいと思います。

(弁護士・貞弘 貴史)

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