東京弁護士会
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接近・展開・連続の支援を(宮内 博史)

 車を降りた瞬間の泥臭い磯の臭いが忘れられません。

 3月20日。震災から10日後の宮城県石巻市。私は,特定非営利活動法人難民支援協会のスタッフと同行して,被災地に入りました。押しつぶされた車の数々,市役所内まで流されてきた泥やヘドロ,避難所の高校に塗られた「SOS600人」の文字・・・,初めて見る被災地の現状は,想像を絶するものがありました。

 震災後,私は,岩手県や宮城県の避難所,そして,東京の味の素スタジアムで法律相談活動をしてきました。支援活動を行う際,心に留めている言葉があります。「接近・展開・連続」です。ラグビーの戦法から発想したこの言葉は,被災者支援においても当てはまると思うのです。

 まずは「接近」。支援にあたっては,被災者の方々のもとに近づく,つまり,「接近」しなければなりません。しかし,難しいのは,この「接近」と「避難所を訪れる」ことが同義ではないことです。むしろ,「接近」の真髄は,避難所に入った後,被災者の方々と心を通わせ,心の声を聞き取ることにあります。このことが,想像以上に難しいのです。

支援活動を開始した当初,被災者の方々から声をかけられることはほぼ皆無でした。しかし,だからといって,被災者の方々が法律問題を抱えていないわけではありません。岩手県の大槌町で出会った年配の女性は,「私は,夫も,家も車も,お店も全部津波で流されたわ。でも,弁護士に相談していいのか分からなくて・・・」と話されていました。弁護士の敷居は想像以上に高かったのです。この高い敷居を取り払ってこそ「接近」は実現されるのだと痛感しました。そこで,「接近」を実現するために始めたのが,紙芝居です。避難所では,「日本一分かりやすい生活再建支援法」と題する紙芝居を冒頭で行い,難しい法律用語を使わずに支援金制度について説明しています。そうすると,驚くことに,紙芝居が終わる頃には,「紙芝居のことで聞きたいのだが・・」と自然と相談の輪が広がっているのです。

 「接近」を実現するにあたって,地元の支援団体と連携することも重要です。このことは,とりわけ,外国人被災者の支援に関して実感しました。3月,私は,宮城県と福島県の国際交流協会の方々と会い,被災地における外国人の現状について教えていただきました。そこで初めて,沿岸部には,日本人と家族を構成し,帰国という選択肢が無いフィリピン人や中国人の方々が多数おられることを知りました。この情報は,テレビや新聞等でほとんど報道されていなかったため,その後の支援活動を検討する上で大変貴重でした。このような連携を通じて,より多くの被災者の方々に「接近」できることを実感した次第です。

 次に「展開」。被災地で聞いた生の声を,具体的な支援策につなげることが肝要です。私は,被災地での活動を通じて,ローンを抱えたままでの生活再建が非現実的であること,支援金の金額や申請期間が不十分であることを痛感しました。その場で解決できないこれらの問題は,東京に持ち帰った上で,将来の救済策につながることを信じて周知するよう努めています。

また,先の外国人被災者の問題については,多くの先生方と協力し,外国人のための震災電話相談を立ち上げることができました。被災地の国際交流協会にも広報いただいた結果,約1か月半で100件以上の相談があり、相談活動も9月末まで延長されることになりました。

 最後に「連続」。仮設住宅への移転が始まったとはいえ,まだまだ多くの方々が避難所生活をされています。将来に対する不安が増す中,継続的な支援が必要です。とりわけ,新たな政策や立法が打ち出された場合,それらを分かりやすく説明する法律家の存在は不可欠です。地元の先生方と連携協力しながら,継続的な支援をしていきたいと思っています。

 岩手県陸前高田市の避難所での相談活動を終え,帰ろうとしたときのことです。ある男性の避難者から,「今日はありがとう!また来てくれるよね?」と尋ねられました。「また必ず来ます!」,私はそう答え,避難所を後にしました。約束は必ず果たします。そのときは,より多くの笑顔と出会えることを信じています。

(弁護士・宮内 博史)

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