小さな家族(石渡 幸子)
彼は7歳。
地元ではまだ幼いねと言われていたが、3ヶ月の退避暮らしですっかり老いてしまった。
6月までは、赤坂プリンスの地下1階に用意された部屋が彼の「家」。
ほんとの「家」がちゃんとあるのに、なぜココにいるのか。
彼にはわからないことだらけ。
こっちの「家」では、大好きな「お父さん」と寝られないし、好きに転げるスペースも自由もない。
隣に気をつかう窮屈さに、後ろの毛が薄くなってしまった。
「お父さん」とおそろいだ、「お母さん」が笑う。
笑った顔でも「お父さん」や彼同様疲れでいっぱい、似たもの家族。
それでも、みんなで同じ所にいる彼はまだ幸せだよ。
時々のぞきに来る女の人が、教えてくれた。
地元では、みんな一緒に避難できたか、わからなかったらしい。
家族一緒がダメなんて、そんな経験の無い彼にはいくら考えてもわからなかった。
身体が大きいからダメなんだろうか(3ヶ月で結構スリムになったけど)。
声がうるさいんだろうか(彼は静かだが、元気な仲間もいる。)
食べ過ぎるから?
嫌いな人もいるのだろう(ごめんなさい、横を向いて下さい)
法律では、彼は「物」と呼ばれるそうだが、これもよくわからない。
彼は小さい家族、大事なファミリー。
「お父さん」はそう言って頭をなでてくれるのだ。
7月から、彼だけ別の場所。
それは、「家」じゃないと思うのだけど。
似たもの家族だから、家族みんなでわからない。どうして彼だけダメなのか。
*「ペット」「子供」「老人」「女性」「外国人」...不動産広告で、後ろに許可不許可と書かれることの多いこれらの単語。誰かに「存在」を許してもらわないと、今の社会で存在できない、そんな不自由さを背負っている単語です。だからこそ、弁護士にとって、ことさらに気になる単語です。
(弁護士・石渡 幸子)