アクセス
JP EN

第35回受賞者

崔江 以子 さん

崔江以子(チェ・カンイヂャ)さんは、在日コリアンが多数暮らす川崎市桜本地区で在日三世として育ち、多文化共生の町づくりを目的として設置された「川崎市ふれあい館」(運営:社会福祉法人青丘社)に長年勤務してきました。

川崎市では、2013年頃からヘイトスピーチデモが頻発し、崔さんもヘイトスピーチを目のあたりにして、個人の尊厳を傷つけられました。 崔さんは、日本社会の差別に長年直面し苦しんできた高齢の在日コリアン一世や子どもたちをヘイトスピーチから守ろうと、自分の名前を公けにして様々な諸活動を先頭に立って行ってきました。2016年1月に、川崎市での市民団体「『ヘイトスピーチを許さない』かわさき市民ネットワーク」立ち上げにも加わりました。

2016年3月には参議院法務委員会において参考人としてヘイトデモによる具体的被害の意見陳述を行い、同年6月に成立した、日本で初めての反人種差別法であるヘイトスピーチ解消法(「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」)に結実しました。 同法施行後も、2016年6月のヘイトデモ禁止の仮処分決定や同年8月のヘイトデモ主催者に対する法務省の勧告などを勝ち取りました。

また、同法を実効化し、実際に差別を止めるために、川崎市におけるヘイトスピーチ目的の公共施設の利用制限に関するガイドライン作成及び各地での反差別条例制定に取り組みました。その反差別条例制定の支援活動は、2018年の東京都人権条例及び国立市人権条例などの制定にも繋がり、2019年12月には川崎市「差別のない人権尊重のまちづくり条例」に結実しました。川崎市の同条例は、日本で初めてヘイトスピーチに刑事罰を科すもので画期的なものです。

崔さんがネットなどでの差別的攻撃を受け続けながらも、声を上げ続けている反差別の活動は擁護されるべきであり、その献身的な諸活動と成果は東京弁護士会人権賞の受賞に相応しいものです。

濱田 正晴 さん

濱田正晴さんは、オリンパス株式会社に勤務していた2007年に、上司が短期間の間に複数の取引先社員を不正に中途採用しようとしていることを知り、社内のコンプライアンス室に内部通報を行いました。 同室の室長は、濱田さんが通報した内容を濱田さんの上司や人事部長に伝えました。その後、人事異動が行われ、濱田さんは、当面事業化の見込みが無く規模も縮小していた部門へ配転されました。さらに、達成不可能な業務目標の設定、部外者との接触禁止、著しく低い人事評価、面談時におけるパワーハラスメントなど、濱田さんの人格権を侵害するかのような組織的行為が長期間行われました。

濱田さんは、このような孤立無援の中で、オリンパス株式会社と上司に対し、配転無効と損害賠償請求の訴えを提起し、2012年に最高裁で勝訴判決を勝ち取りました。しかし、同社が濱田さんの権利回復措置を取らなかったことから、その後に権利回復や名誉回復を求める訴訟を提起し、2016年に東京地裁で勝訴的和解に至っています。現在、濱田さんは、同社人事部門スーパーバイザーの職位にて、海外赴任予定社員等に対するグローバル教育実施の主査として尽力しています。

これまで、濱田さんは、公益通報者保護法の抜本的改革を目指して「公益通報者が守られる社会を!ネットワーク」を立ち上げ、同社に属しながら裁判で闘った経験をブログに継続的に掲載するなどして積極的に情報発信に努めてきました。これらは、公益通報者保護法改正への機運を高め、公益通報の関係で悩む国民に勇気と励ましを与えました。

また、「市民のための公益通報者保護法抜本的改正を求める全国連絡会」の設立にも関与し、国会議員への要請活動も行い、2020年には参議院で参考人として法改正に関わる陳述を行いました。2020年6月に改正公益通報保護法が成立し、濱田さんが一貫して訴えて来た、通報者情報の守秘義務違反抑止のための刑事罰追加が盛り込まれました。 これらの諸活動と成果は、東京弁護士会人権賞の受賞に相応しいものです。

北洋建設株式会社(代表取締役 小澤輝真 さん)

北洋建設株式会社は、本店所在地を札幌に構え、1974年に設立された建設業を目的とした株式会社ですが、前身の工務店を1973年に創業して以降、長年にわたり刑務所の出所者を積極的に雇用してきました。その採用人数は累計で600名を超え、現在、従業員は60名ほどの規模ですが、その3分の1は出所者です。障害者等も積極的に受け入れています。

新たな犯罪被害者を生み出さないためにも、再犯防止は重要ですが、同社は全国の刑務所から出所者を受け入れて仕事の機会を与え、衣食住の生活基盤を提供しています。また、少年の補導委託も受けています。

創業者の息子である小澤輝真さんは、1993年に同社に入社し、2014年には代表取締役に就任しました。進行性の難病である「脊髄小脳変性症」を発症しており、余命宣告されながらも、協力雇用主への登録や日本財団の行う職親プロジェクトへの関与、出所者支援のための法務省へのロビーイングなど熱意をもって取り組んでいます。全国の弁護士からの支援依頼も受け付けており、被告人の雇用を確約する旨の陳述書を作成し、法廷に証拠として提出しています。小澤さんは、徐々に手足の自由もきかなくなり、車椅子の生活ですが、出所後に就職を希望している受刑者がいれば、面接のために全国の刑務所を回る等の活動を積極的に行っています。

このような出所者等の就労支援や、更生保護を活性化するための全国的な働きかけは、出所者等の自立・更生を支えるだけでなく、再犯防止につながるものであり、極めて重要な人権活動と評価されるべきであり、東京弁護士会の人権賞の受賞に相応しいものです。