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第7回市民会議(2005年11月24日)

第7回市民会議議事録(PDF:88KB)

2005年11月24日に第7回目となる東京弁護士会市民会議が開催され、委員7名全員が出席した。今回は「公設事務所」をテーマに議論した。

  • 阿部一正委員(新日本製鐵株式会社知的財産部長)
    今回の市民会議で諸外国には公設事務所のような制度はあるのだろうかと質問した。東京パブリック法律事務所の丸島所長の話によれば、公設事務所に似たようなものということでいろいろなバリエーションがあると思うが、例えば、アメリカでは全国的・大規模に、パブリック・ディフェンダー・オフィスという刑事専門の公的事務所は発達しており、そこに連邦や州や市の予算が大量に投入され刑事専門の弁護士が養成されているという。また、刑事だけではなく民事部門、子ども部門、パブリック部門等々備えているとのことである。イギリスは、法律扶助が発達しているが、市民相談所のようなものがあって、弁護士にアクセスできない市民のために対応するというシステムがあるとのことであった。アメリカやイギリスと比べると、東京弁護士会が支援する公設事務所は、弁護士任官、刑事対応、過疎地などの諸問題への対策を掲げており、極めて特徴的であるという話が印象に残った。

  • 岡田ヒロミ委員(消費生活専門相談員)
    消費者センターでは、相談にきた消費者に池袋や北千住の法律相談を案内している。実際に東京パブリック法律事務所等の公設事務所の弁護士に相談した消費者からは「相談して本当によかった」との連絡をもらっている。ただ、パブリック法律事務所と法律相談センターの役割分担がはっきりしないので、消費者センターの相談員も消費者をどちらに相談に行かせればいいのかわからないことがある。消費者が的確にたどり着けるよう、情報提供をしていただきたい。
    また、相手方が同一の事業者に関しての相談が2件入ったことがあったが、相談者の資力の事情から、1件は有料の法律相談センターへ、もう1件は無料の扶助協会へ誘導した。同じ事業者に関する、内容も同様の案件なので、両方連携して処理してもらった方が効率的だと思うが、システム上、それはできないと言われ、疑問に思った。また、日頃よく思うことは、公設事務所等での無料相談のようなイベント案内の情報が、末端の消費者センターのような窓口にまで伝わってこないということだ。新聞記事などを見て「こんなことやってたんだ」と消費者センターで相談員が驚いたこともある。消費者センター等の一番情報が必要な窓口まで届くようにしてほしい。

  • 古賀伸明委員(日本労働組合総連合会事務局長)
    敷居が低い弁護士事務所、気軽に頼める弁護士事務所といった意味で、都市型の公設事務所の充実というのは市民としても非常に心強い。これから労働相談は増えてくると思うので、こうした状況を考慮して運営してほしい。また、外国人労働者問題も多くなってきているので、特に外国人人口の多い地域の都市型公設事務所は積極的に取り組んでほしい。
    来年4月からは労働審判制度がスタートする。この制度は実際にやってみないとわからないところも多いが、弁護士の協力が不可欠で、簡易・迅速、低廉という労働審判制の利用がふさわしい案件については、労働審判を利用するよう振り分けをして、この制度を成功させるべく取り組んでほしい。
    また、都市型公設事務所は市民にとって非常に心強い機関である一方で、財政面の関係も考えなければならない。財政のバランスをとりながら是非運営していってほしい。

  • 紙谷雅子議長(学習院大学法学部教授)
    財政は大変重要な問題だ。どのような事件を実際に受任できるのかということがあるが、財政基盤が強固であればあるほど思い切って難しい事件を受けることができるようになるだろう。財政基盤をしっかりさせた上で、有意義な仕事ができるような仕組みにしてほしい。
    また、東京にも弁護士過疎地があると思うので、都市型だけではなくて過疎地型の公設事務所の設置も考える余地があるのではないか。また、例えば巡回をするなど、もうちょっといろいろな工夫があると、より多く人が救われるかもしれない。公設事務所に入った弁護士は非常に多くの経験を積んでいる。若手は、5 年分の経験を2年でやっていると言える程、事件の種類で大変恵まれているのではないかと思う。普通の事務所にいる以上に多くの経験を積んでいるだろう。

  • 長友貴樹委員(調布市長)
    公設事務所の活動は自治体を運営している中で大変興味のある分野である。自治体が何か支援するような形で公設事務所のようなものを新たに設けていくことはできるのだろうか。今後地元にこういう事務所があるといいと思う。
    また、借金をかかえてしまったために生活保護を申請しようとする人に役所の方から借金の整理を助言し、都市型公設事務所を紹介するという事例を聞いて、公設事務所と自治体との連携があると、自治体は助けてもらう部分があるのだろうと思った。それ以外でも児童虐待、外国人の権利、消費者保護など、我々が日常活動をする上での参考、いろいろな施策・事業を整える上で大変大きなヒントが都市型公設事務所の活動の中に含まれていると思う。

  • 藤森研委員(朝日新聞社編集委員
    公設事務所は我々ユーザーになるかもしれない者にとって有り難いし、心強い。特に都市型公設事務所の3分の1を東京弁護士会が支援しており、各事務所が性格を分けて活動しているのも非常にバランスがいい。やや概念的に考えると、市場原理だけではいかないところを公設事務所でやろうということなのだろう。その場合、長期的な財政をどのように考えていくかが一番ポイントだ。具体的に言えば、起訴前の被疑者刑事弁護や裁判員制度の案件が入れば、公設事務所で当面は沢山引き受けることになるのだろうが、そういう事件は儲からない。非市場的な公設事務所の財政的な将来像をどのように考えるのかという問題があると思う。被疑者弁護などはだんだん増えてくるから、その仕事自体を専属にしないで皆に振っていくという仕組みをどのように作っていくのかも、併せて考える必要がある。

  • 濱野亮副議長(立教大学法学部教授)
    都市型、過疎地型も含めて公設事務所は、ある意味でこれから導入される総合法律支援の先駆けとして既に実験的なことを現場で実践されているものといえる。以前、東京パブリック法律事務所の所長から、高齢者の問題のような法律以外の要素も含む問題について、地方自治体のいろいろな窓口やNPOとネットワークを持って、これらを全部総合した支援チームをつくり、それが核になって弁護士が助けていくという話を聞いたことがあり、非常に感動した。各種相談機関の間でネットワークを形成して情報を共有することについて非常に努力され、そのような試みは来年から始まる司法支援センターにも生かしていけるだろう。そして、日本全体でネットワークを構築しながら、どのようにパブリック・マネーを配分していくかということの重要な手がかりになろう。現在の法律扶助事件の報酬はあまりにも低すぎるので、これを機会に、重要な公共的なことを行っていることをアピールして、もう少し報酬のあり方を考えた方がいい。パブリック・マネーの導入についても、地方自治体もお金を出していくことを考えるべきである。なお、イギリスでは、銀行や電力会社がお金を出している。
    弁護士会も、実践していることを踏まえて、来年スタートする日本司法支援センターに何か知恵を出してほしい。