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第8回市民会議(2006年2月27日)

第8回市民会議議事録(PDF:89KB)

今回の市民会議は、東京弁護士会が一番最初に立ち上げた都市型公設事務所である弁護士法人東京パブリック法律事務所において、2006年2月27日に開催された。市民会議のメンバー全員が、池袋にある同事務所に出向き、執務状況を見学した後に会議を開催し意見交換を行なった。会議には丸島俊介所長をはじめ事務所のスタッフも同席して、事務所の現状や今後のあり方についてコメントした。

  • 阿部一正委員(新日本製鐵株式会社知的財産部部長)
    事務所には思っていたよりも随分多くの弁護士がいて、このぐらい人がいれば心強くなっていろいろやれるのではないかと思った。日頃から弁護士の専門性について関心があるが、この事務所の方針としては、最初から得意分野だけというやり方は好ましくないとのことで、あらゆる事件をベーシックにやれる力をつけるということを基本にしつつ、それにプラスアルファの要素としていくつかの分野についても詳しい弁護士になっていこうとのことだった。この事務所には、東京弁護士会のいろいろな委員会活動をしているメンバーがいるので、新人弁護士はいろいろな分野の仕事をするとともに、こうしたメンバーとともに医療過誤や高齢者問題などの分野にも取り組んでおり、他の事務所の若手に比べればかなり幅広い経験を積んで地方に行くことになるとのことで、新人弁護士にとっては非常に充実した体制になっていると思った。

  • 岡田ヒロミ委員(消費生活専門相談員)
    弁護士が、破産申立ての相談の際に多重債務者の生活設計についてカウンセリングのようなことをしているという話を聞いたことがある。この事務所では、正にそのようなことをしており、ただ破産の申立てをするだけでなく、破産の申立てを通じて一人一人の生活の再建を援助していくところまで弁護士の仕事としている。破産申立ての際に提出する「生活・家計の状況」の書面を弁護士が丁寧にチェックして、どういう生活状況なのか、どこに問題があったのかということを考え直させて、二度と多重債務に陥らないように応援をしていくという打合せを定期的に行っているとのこと。こうしたチェックはとても大変な仕事であるし、必要なことであると思う。これからも多重債務者に対してできるだけ生活再建のための支援をしていただきたい。

  • 濱野亮副議長(立教大学法学部教授)
    前回の市民会議でもお話ししたが、これから始まる法テラスにおいて、東京パブリック法律事務所の経験は生かせると思う。この事務所は、近くにある豊島区役所の相談窓口、社会福祉協議会などと一定の連携関係をつくっており、法テラスでもそういうものを全国的に試みることができる。しかし、余りそれがうまくいって仕事が来過ぎて処理できなくなる可能性もある。その点、他の機関とどのように信頼関係をつくっていくのか、大変かもしれない。また、行政やNPO、弁護士等の専門職が一緒になってチームやネットワークをつくることも非常に大切である。この事務所が先進的にやってきた経験をふまえて、ここで活躍している弁護士がスタッフ弁護士として行くということで、全国いろいろなところにネットワークを拡げていくというのはとてもよいと思う。

  • 古賀伸明委員(日本労働組合総連合会事務局長)
    この事務所では、弁護士や事務局が東京の西北部地域の各区、私鉄沿線の自治体、それも役所だけではなくて福祉関係等の関連機関を訪問しパンフレットを置いてもらうといった広報活動を強化した結果、大幅に相談件数が増加しているとのことであった。こうした足を使った広報活動によって、沿線の自治体やその関連機関にこの事務所の活動がかなり浸透してきたことや地域において司法書士や税理士等の関連士業との協働ができ、自治体を含めた無料相談会などの開催によって各士業を通じた相談も来ていることなど、広報活動の効果が上がり、地域にも定着しているという話が印象的であった。また、過疎地に向かう弁護士に対する事務所の支援体制として、事務所に入って1年半か2年ほどはいろいろな事件を経験することや、過疎地で事務所をつくるにあたり、什器備品や事務局の採用など蓄積されたノウハウで、事務所立ち上げの応援をしているとの話にも興味を持った。

  • 紙谷雅子議長(学習院大学法学部教授)
    自治体や関連機関に自ら足を運んで広報活動をするという話は大変印象深かった。よく外国の本では「人口がこのぐらいいたら紛争はこのぐらいあるものである」という書き方をしてあるが、そういう意味ではまだまだ掘り返せば潜在的には多くの紛争があるだろう。おそらく弁護士へのアクセスについての情報を持っていない人たちが一番問題を持っているので、やはりある程度、弁護士の側から働きかけていかないと、なかなか情報が必要としている人たちに届かない心配がある。ぜひ続けてほしい。
    また、事務所に限らず、何事もスタートアップさせるのには大変な力が必要である。そういう意味でもバックアップ体制がとれるような仕組みというのは非常に重要であろう。過疎地に派遣する弁護士の育成も2年間を目処に考えて、最初の3ヵ月は期が上の弁護士と一緒に、その後はサポートを受けつつ1人でもいろいろやる。その他に、定期的に月1度、経験を積んだ弁護士で構成される担当会議で、どのような案件をどれくらい扱っているのかをチェックしながら万遍なく一通りやって、一応オールラウンダーになって地方に送り出すとのことであった。話を伺うと、公設事務所をゼロワン地域につくるだけではなくて、かなりしっかりしたサポート体制がないと本当の意味で公設事務所は機能しないのではないかという感想をもった。

  • 長友貴樹委員(調布市長)
    東京における衆議院の小選挙区は大体50万単位であるところ、調布、三鷹、狛江、稲城で約50万人、隣の武蔵野、府中、小金井でも約50万人であることから、東京26市の中でも区部に隣接した一番東側の今挙げた地域で人口が合計100万人である。一定の市場規模はあるので、是非この地域に早期にこういう公設事務所をお考えいただきたい。
    また、この事務所は豊島区役所とスープの冷めない距離にあるが、地方自治体と良好な連携を保っていくためにどうすればいいか、自治体の問題点や自治体に望むことがあれば聞いてみたい。さらに、この事務所で熱心に高齢化問題に取り組んでおられる弁護士の方から、成年後見の利用支援事業や地域包括支援センターの活性化、社会福祉協議会の予算・人員充実について問題提起がなされた。成年後見問題については、複数の自治体と共同でつくった成年後見センターが調布にある。今までの我々の経験と照らし合わせて、最善の方法を考えていきたい。

  • 藤森研委員(朝日新聞社編集委員)
    この事務所の弁護士は第一線で頑張っていることがよくわかった。一方、多重債務問題では一番最前線にいるのは事務局の方々かもしれない。事務局長の話では、疲労感もある一方、涙を流しながら「ありがとうございました」と言ってくれる依頼者に触れて、そういう仕事に自分は係わっているというところで達成感を味わえるという。ただ、「ありがとうございました、先生」と言ってもらうところを弁護士だけが味わって、どうでもいいような仕事だけ事務局がやっているということになると達成感に結びついていかないことになるだろうとの話で、なるほどと思わされた。また、ひまわり基金公設事務所へ行った若い弁護士のインタビュー記事を読んで、達成感はかなり味わいつつあるように読める。しかし、弁護士としての孤独感がある、その孤独感の捌け口なのか、若い弁護士がこの事務所に帰ってきていろいろと話をして帰って行く、それだけでも随分若い弁護士の気分が変わるとのこと。そのことを皆がどれだけ理解するかというところが大切だということを非常に強く感じたという話が興味深かった。