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第20回市民会議(2010年2月22日)

第20回東京弁護士会市民会議が2010年2月22日に行なわれた。今回は、「東京における地域司法計画」と「裁判員裁判」についてご意見をいただいた。

議題 東京における地域司法計画

  • 紙谷雅子議長(学習院大学法学部教授)
    住んでいる場所によって、受けられる司法サービスが違うのに、市民の間では、子育てほどには地域間格差が意識されていないのではないか。日本でも、巡回裁判所を設けようという動きはないのか。記録の保存や財政上の問題があるとは思うが、市民の側からすれば、法廷の出前をしてくれたら利用しやすい。
    ただし、相談の内容によって差違がある。たとえば、労働問題であれば、地元で相談したいが、離婚問題であれば、地元で相談したくないであろう。
  • 阿部一正委員(㈱日鉄技術情報センター代表取締役社長)
    人口の割には多摩地区の弁護士数が少ないことが問題だと思う。交通の利便性という視点からすると、東京都は、東西は便利だが南北は不便である。それに対応するためには、弁護士が移動するべきなのか、裁判所の機能を移すべきなのか。市民にとっては、その両方をやってもらえると便利である。
    簡裁の調停部門が錦糸町に移ったものの、新宿で簡裁の出張調停が行われるようになったとのことであるが、調停ならどんな種類の事件でも新宿でできるとするのが便利でよい。
  • 長友貴樹委員(調布市長)
    多摩の26市3町1村の司法サービスの質に改善の余地があるのか。調布市の法律相談を受けた市民に「不便を感じていますか?」というアンケートをとってみたが、その問いかけをされたことがないためか、痛痒を感じていないようだ。しかし、多摩地区は面積が広いため、ひとくくりにはできない。「各地に裁判所を配置したのはいいけれど」では困る。本当に生活基盤があるところに弁護士が必要なのか。詰めた議論で実現してほしい。
  • 岡田ヒロミ委員(消費生活専門相談員)
    消費者センターの相談員は弁護士会に期待している。消費者生活センターとの連携をさらに強化してほしい。どんどん「センターを回る」とか。多摩パブリックはこれに積極的である。
    地方公共団体の法律相談で、相談を受けた弁護士による直受が少ないのは、なぜなのであろうか。また、紹介状を出す区と出さない区がある。紹介状があれば、法律相談が「無料」となる。法律相談料を払うべきだとは思うが、無料だから地方公共団体の法律相談に行くという方もいらっしゃる。
  • 後藤弘子委員(千葉大学大学院専門法務研究科教授)
    「東京版ひまわり」=パブリック法律事務所を増やすべきだと思う。ただし、東京都内であれば、奥地を除き、交通の便が良い。はたして事務所が所在する地域にこだわる必要があるのか。どこまで地域に密着しなければいけないのか。たとえば、自分は練馬区に住んでいるが、行政上の区画と生活の利便性は全く異なる。松戸は、千葉県内に所在するが、東京23区との利便性が高い。東京だけで考えて良いのであろうか。
    援助職の人たちとの交流をもっとされたらよい。クライアントの発掘という意味では、行政がクライアントになりうる。
  • 藤森研副議長(朝日新聞編集委員)
    「東京の公設事務所で弁護士を育てて地方へ送る」という理念は素晴らしいが、多摩パブリックや北千住パブリックは、財政的に厳しいと聞いている。それをどう解決するのか。国選・扶助の報酬増額で、インセンティブを高める運動が必要だ。
    弁護士会内での啓発も重要である。国選をやらない弁護士を減らす必要がある。

報告 裁判員裁判の実施状況(東京地方裁判所及び立川支部)と弁護士会の課題

  • 藤森研副議長(朝日新聞編集委員)
    「しがらみのない裁判員による判断」に、大いに期待している。また、保釈率や勾留請求却下率はじわじわ上がっていると聞いている。
    他方で、公判前整理手続に時間がかかり、長期未済の事件が増えているとも聞いている。これは、明らかに不当であるから、未決勾留日数の計算方法等でのフォローが必要である。
  • 後藤弘子委員(千葉大学大学院専門法務研究科教授)
    被害者参加制度を傍聴して感じたことは、従来の刑事弁護をやっていては駄目だということ。「被害者に負ける」ということもありうる。被害者が参加している場合、「今までの情状弁護とは違う」と弁護人が認識しているだけでも違う。組織的に準備している検察庁に比べられるので、よほど刑事弁護を理解した弁護士が裁判員裁判の弁護人を担当しないといけない。被疑者・被告人の権利のためにも、弁護体制へのてこ入れが必要だ。弁護士会が音頭をとって、基金を作って弁護人の上乗せ報酬を集める運動が必要なのではないか。
    なお、裁判員裁判が注目されているが、裁判員裁判の開始が非裁判員裁判にどのような影響を与えたのかの検証も必要である。
  • 紙谷雅子議長(学習院大学法学部教授)
    裁判員裁判のための弁護人研修の成果が出ていないのか。弁護士会がパワーポイントを作成する事務スタッフを弁護人の事務所に派遣するというのはどうか。また、弁護士会が、弁護人をサポートする新人弁護士を雇ってはどうか。
    当番弁護士等、弁護士がどれだけ公共的な支出・負担をしているのかを市民にもっと広報するべきだ。また、新人弁護士には「自分たちは公的なことをやっている」という意識を強く持ってほしい。
  • 阿部一正委員(㈱日鉄技術情報センター代表取締役社長)
    私は、裁判員裁判の導入が決まったときに、「絶対に判・検に負けますよ」と予言したが、そのとおりであった。「お金のあるところに資源がいく」、これが世の中の摂理である。とはいえ、「お金がある人が救われる」では困るので、弁護人側は、訓練をする機会をつくる、経験を共有する等の対応が必要である。