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第22回市民会議(2010年10月28日)

第22回東京弁護士会市民会議が2010年10月28日に行なわれた。今回は「弁護士に対する苦情」、「弁護士による公益活動」、「取調べの可視化」について、ご意見をいただいた。

弁護士に対する苦情

  • 岡田ヒロミ委員(消費生活専門相談員)
    弁護士に関する消費者センターへのご相談は、過払金回収事件に関するものが多い。担当弁護士は「受任をした仕事を処理しているからよい」と思っているのかもしれない。しかし、依頼者は、「今、弁護士さんは自分のためになにをしてくれているのか」という気持ちが強いが、自分からは弁護士には聞けない。そこで、消費者センターに相談の電話をする。私たちは、「直接、弁護士さんに聞きなさい」とアドバイスする。なお、弁護士に対する「苦情」というより「どこに相談しに行けばよいのか」という問い合わせのほうが圧倒的に多い。
  • 若旅一夫会長
    弁護士に対する苦情が増えたということには、両面ある。「こうあってはならない」という面と、「弁護士会の自己変革・自浄作用により、弁護士に対する不満が顕在化した。これを踏まえて、弁護士会がどう取り組むか」という面である。「依頼者にこうしなければならない」ということをキャリアが浅いうちから教育するべき。弁護士会の自浄作用により、弁護士の市民に対する接し方がどんどん良くなっていくだろう。
  • 紙谷雅子議長(学習院大学法学部教授)
    退会命令が出された会員は、どうなるのか? 除名となるのは、どのような場合か? 処分される事案が増えたと思うが、その理由は?
  • 若旅会長
    退会命令が出ると、弁護士は、業務ができない。事実上、退会命令を出された弁護士を他の会は受け入れないからである。ただし、処分から3年が経過すると、入会申し込みはできることになっている。除名となる典型例は、非弁提携といって、反社会的な勢力に名前を貸すことである。横領等の金銭問題を起こし、返せないという例もある。
  • 後藤弘子委員(千葉大学大学院専門法務研究科教授)
    懲戒を予防するために、弁護士会は会員にどのような教育をしているのか。 法科大学院には「法曹倫理」という科目があり、この点にはとてもセンシティブである。
  • 濱田広道副会長
    司法試験を受けるまで、常識を学ぶ機会がなく、社会性のない人物もいる。研修の強化が弁護士会の課題である。当会は、「新人」、「5年目」、「10年目」と節目節目に研修の強化を図っている。内容は、事例の紹介とディスカッション。土曜日の午後半日をかけて実施している。
  • 阿部一正委員(㈱日鉄技術情報センター代表取締役社長)
    弁護士になった後での研修に効果はあるのだろうか。「ごくあたりまえのこと」を研修されて、いい大人が変われるものなのかは疑問である。
  • 若旅会長
    法曹倫理を司法試験や2回試験の科目にするべきというのが、私の持論である。内容は、最低限の知識と理論、職務基本規定など。
  • 古西洋委員(朝日新聞紙面審議会事務局長)
    苦情の増加と法曹人口の増加との関係に注目したい。資料を拝見すると、不祥事はベテランの方が多い。「法曹人口増で質が下がった」と短絡的にならないように留意するべきだ。医者の世界ではセカンドオピニオンをとるのは当たり前だが、弁護士の世界はどうか?
  • 後藤委員
    セカンドオピニオン制度があることで、弁護士制度の信頼を高める。
  • 紙谷議長
    医師の世界では、カルテを持って他の医師に相談するということはありえる。弁護士の世界では、それは難しいのでは。
  • 若旅会長
    弁護士には、自分が作成した文書の写しを依頼者に渡す義務まではない。
  • 紙谷議長
    弁護士の業務に関するセカンドオピニオンに関しては、相談者からの話を「聞いただけ」では「そのやり方はマズイ」と判断しにくいという性質があるのではないか。弁護士制度全体の信頼を高めるという意見に賛成だ。考えようによっては苦情が増えているのはよいことという見方もできる。アメリカでは弁護士倫理が試験科目となっているが、必修化すると、ロースクール生も本気に勉強する。薬学等、プロフェッションの世界では、倫理科目を試験に入れる方向である。
  • 後藤委員
    試験に組み込むことで、少なくても倫理を重視する姿勢を示すことはできる。
  • 若旅会長
    弁護士会は、個別の事件の内容や処理の妥当性には立ち入れない。しかし、「遅い」「高い」には立ち入れる。
  • 長友貴樹委員(調布市長)
    調布市が行っている市民相談では、借金、相続、夫婦間に関するご相談が多い。相談に関し苦情はない。お金をとっていないからかもしれないが。「懲戒不相当」のブレイクダウンが重要である。
  • 若松巌副会長
    「失敗したらすぐ謝る」が大事である。 開き直ると、必ず揉める。
  • 木村雅行副会長
    「クレイマーと言われてもやむを得ない事例もある。
  • 若松副会長
    単位会によっては、「会長注意」を行うところもある。
  • 木村副会長
    「市民窓口」委員会では、苦情をデータ化している。
  • 山田正記副会長
    一口に「苦情」といっても、依頼者からの苦情か、相手方からの苦情かで、全く異なる。前者の場合、弁護士に問題がある場合が多い。
  • 阿部委員
    大会社では、難しい案件について、セカンドオピニオンをとるのは当たり前となっている。複雑な社会だから間違うこともある。弁護士のミスを隠してはいけない。市民のレベルが高くなった証拠であるという面もある。

弁護士による公益活動について

  • 紙谷議長
    弁護士が様々な公益活動を担われていることに敬意を表します。しかし、それが実際に行われていることと、それが世の中に知られているかということは、別問題である。弁護士会は、弁護士の公益活動が社会にとっていかに有用であるかを自ら説明しなければならない。それによって、弁護士の存在価値が認められる。「苦情」の問題もそうである。
  • 後藤委員
    公益活動をするためのお金は誰が出すのか、が重要である。日弁連が支え続けられるのか。国ができないとすれば、寄付、ファンドを考えなければいけない。
  • 阿部委員
    日本は先進国なのだから、国がそのお金を出すべきである。
  • 古西委員
    メディアがこの問題をもっと指摘すべきだろう。取調べの全面可視化の問題も含め、政府・与党にはもっと司法改革の推進を強く求めていきたい。

取調べの可視化について

    ※ネットで流されている捜査官が強引な取調をしている状況のテープを聴いて。
  • 後藤委員
    取調の可視化は、まず検察から始めるべきである。これによって、風穴を開けることができる。
  • 長友委員
    世論をいかに味方に付けるかがポイントではないか。証拠改変造事件で逮捕された特捜部副部長が、自分への取調べについて可視化を要求したというニュースを聞いて、私は、捜査側の人間が自ら可視化の必要性を認めたのかという感想をもった。世論のバックアップは得られるはずである。ただし、簡単ではない。市民のみなさんが何に関心があるかをよく考えるべきである。「えん罪」は確かに大問題であるが、日常生活とは距離がある。なかなか市民の皆さんに訴えるのは難しい。
  • 後藤委員
    今まで働きかけていないところへ働きかけるのはどうか。全国知事会であるとか、企業関係の事件も増えているので、捜査の対象になる可能性の方々の集まりである経団連とか。
  • 古西委員
    検察庁がこんなに逆風を受けた時期はない。外部の血をいれる必要があるのでは。内閣の下に検事総長の選考委員会を設け、公聴会も開く。適任者は、政界や経済界から独立し、組織を経営した経験があり、実行力がある人。日弁連が候補者を出すくらいのことをしてもいい。
  • 紙谷議長
    取調の可視化をどうやって早く実現させるか。法科大学院宛に署名簿やチラシは送ってあるのか。教員や学生がそれを目にするか否かは、法科大学院宛に送られてきたものを事務方がどうするかによる。まずは、法学部のみあるところも含め、関係書類を大学に積極的に送ってみてはどうか。