東京弁護士会

第23回市民会議(2011年2月8日)

第23回東京弁護士会市民会議が2011年2月8日に行なわれた。今回は「裁判員裁判-死刑求刑相当事件を裁判員裁判の対象とする場合の問題点」「検察官の起訴独占」について、ご意見をいただいた。

裁判員裁判-死刑求刑相当事件を裁判員裁判の対象とする場合の問題点

  • 濱田広道副会長
    裁判員法は、開始から3年後にこの制度の善し悪しについて検証し見直すことになっている。
  • 紙谷雅子議長(学習院大学法学部教授)
    3年後に見直すというのは、どのあたりを見直すことになるのか。
  • 竹之内明2011年度会長
     今、日弁連の裁判員本部では論点の洗い出しのための第一読会を行っている。選択制の問題や、事実認定と量刑の分離など元々制度設計のときにかなり議論された課題と、実際に制度を始めてみて使い勝手がどうかという問題、例えば55条移送の少年の問題や、証拠開示の問題などがあがっている。基本的な枠組みは司法制度改革審議会で議論されてきているので、実際運用してみてどうなのかという議論が中心になっていくと思う。
  • 濱田副会長
    日弁連は、死刑を求刑された場合で死刑判決をするためには全員一致でなければいけないという意見だが、その方向にもっていくのは簡単ではない。
  • 紙谷議長
    実現するかどうかはわからないが、特別多数決、全員一致は主張としてはわかりやすいし、みんなが納得しやすいと思う。
  • 後藤弘子委員(千葉大学大学院専門法務研究科教授)
    石巻の少年事件に関し、客観的に外から見ているともう少し違ったかたちで適切な弁護が出来たのではないかと思う。先例になりそうなケースについては、弁護士会としてサポートするような体制はできないのか。
  • 濱田副会長
    弁護士会としては、裁判員裁判用名簿の作成、養成講座の実施、経験交流会の開催、裁判官を講師に招いた研修会の実施等努力している。
  • 竹之内会長
    日弁連としては、刑事弁護センターと裁判員本部でプロジェクトチームを作って、死刑求刑が予想される事件や、既に死刑が言い渡された事件を経験した弁護人に集まってもらって対応を協議している。
  • 若旅一夫2010年度会長
    個別事件の弁護人がサポートしてほしいという要請を出せば、受け皿はあるということか。
  • 竹之内会長
    そうだ。死刑判決の求刑が予測される事件については、日弁連から呼びかけをしてチームでサポートできるようにしている。
  • 後藤委員
    問題は弁護人たちが助け(バックアップ)を求めるかどうかだ。このような事件が地域で起きればみんな助けようと思うが、助けないで座してみてしまうということが実際に起こっているのではないか。
  • 竹之内会長
    石巻の事件の場合、仙台の方でいろいろバックアップしていたとは思うが、裁判員裁判における弁護人選任のあり方や、名簿の作り方とかには問題点はあると思う。
  • 紙谷議長
    日本の場合は裁判に市民が参加することが主たる理由になっているのに対して、アメリカの場合は自分と同じ立場の同輩によって判断してもらうという権利であり、それが嫌だったら裁判官に判断してもらうことができる。それから否認事件に限定されている。日本で自白事件が裁判員事件の対象になった理由は何か。
  • 濱田副会長
    制度設計を討議したときに、裁判所出身の人には合議体は譲れないとの考えがあり、重大事件であれば否認に限る理由はないので自白事件も含まれたのだと思う。
  • 古西洋委員(朝日新聞紙面審議会事務局長)
    死刑事件を裁判員裁判から外すことには反対だ。今までの日本の刑事司法制度は残念ながら合格点にはなっていない。死刑のように重大で間違ったら取り返しがつかない事件こそ、市民が裁判官の横に座ってチェックするべきである。
    判決後の裁判員の記者会見では、半分くらいの裁判員が記者会見に応じてくれ、多くの方は達成感を感じており、経験の伝承という意味で良いことだ。ただ、会見に裁判所の職員が立ち会って、裁判員が感想を述べている途中で「それは守秘義務違反です」と制止するのはいかがなものかと思う。
  • 紙谷議長
    陪審の場合は評議に入る前に説示で事実認定のしかたなど細かく説明をし、場合によっては長文の説明を渡している。変な説明をしていれば上訴の理由になる。裁判官が裁判員にどういう説明をしたのかは重要な問題で、みんなが知るべき情報だと思う。
  • 長友貴樹委員(調布市長)
    知見の乏しい素人が関わるようになって、重大な人の人生を左右する決定をすることの懊悩の深さについて、裁判員の心理的負担の軽減について制度構築のときにどのような議論があったのかがよくわからない。
  • 後藤委員
    裁判員の心理的負担を重視した制度にはなっていないし、あまり議論はしていなかったと思う。
  • 濱田副会長
    裁判員裁判になって、プロの裁判官たちも刑事裁判の原則を守らなければならなくなった。「疑わしきは被告人の利益に」という説明をしなければならないし、説明をした以上は守らなければならなくなった。鹿児島の事件もプロの裁判官だけだったら有罪になったかもしれない。千葉県の覚せい剤密輸の事件も無罪になっている。
  • 古西委員
    無罪判決の後での記者会見で、ある裁判員が「今までこの程度の証拠で有罪にしてきたのか」と述べていた。今までプロ同士が馴れ合いでやってきた世界を、そして評議の秘密ということで外部には伝わらなかった世界を国民が見てしまったということだ。
  • 若旅会長
    死刑判決をする場合は全員一致を原則にするべきだとする意見について、 みなさんのご意見をうかがいたい。
  • 紙谷議長
    裁判員の1人でもこの人はやっていないかもしれないと思っている人を生贄のように死刑にして溜飲をさげるようなことになってはいけない。
  • 古西委員
    全員一致にすべきだ。最高裁では、死刑にする事件は全員一致になるまで評議することが慣例になっている。下級審で全員一致まで出来ない理由はない。
  • 阿部一正委員(㈱日鉄技術情報センター代表取締役社長)
    裁判員の中に価値観のおかしい人が入るようなリスクをどこかで合理的に排除できる「しかけ」がないと心配である。
  • 濱田副会長
    陪審制で全員一致制を取っているところで昔から批判があって、1人の変わり者のせいで有罪にできない、12人枠のところを11人とか10人の特別多数決でも良いという州もある。
  • 紙谷議長
    アメリカでは、質問で主義として死刑反対という人は忌避できる。裁判員制度の場合、私は死刑反対だと言って裁判員を免れるために悪用される心配もある。
  • 濱田副会長
    3年後検証というのは本来今から始めておくべきで、裁判所が今の段階で検証機関を作って、守秘義務違反にならないようにして1件1件評議の結果の報告を求めるようにするべきだと思う。

検察官の起訴独占

  • 濱田副会長
    検察審査会は、裁判員制度導入と同時に制度が変わった。検察審査会に起訴の適・不適も審査させてはどうかとの意見や、検察審査会に起訴議決権を与えたことへの批判がある。
  • 古西委員
    なぜこの制度ができたかというと、検察があまりに恣意的に起訴・不起訴を決めてきたことにある。
  • 濱田副会長
    これまでは検察官が有罪の確信をもって起訴していたが、今回のような起訴が強制されるとすると、起訴にダブルスタンダードができるのではないか。
  • 古西委員
    現状でもダブルスタンダードなのだ。福岡で飲酒ひき逃げの容疑者をいったん不起訴にしたが、被害者が検察審査会に申し立てた途端に再捜査して起訴されたことがあった。むしろ、検察審査会のフィルターにかかることで基準が統一されるのではないか。
  • 阿部委員
    これも市民が司法に参加する流れの中での一つの話であり、納得性を担保するための一つの試練だと思う。
  • 長友委員
    起訴に持ち込まれて有罪になった事案もあると聞くので、制度の存立意義がないとはいえない。ただ、恣意的、情緒的な感覚がしてならない。それを払拭するためにも、審議の過程はできるだけ明らかにしてもらいたい。