東京弁護士会

第27回市民会議(2012年8月2日)

第27回東京弁護士会市民会議が2012年8月2日行なわれた。今回は、「市民の司法アクセスの拡充に向けて」という議題のもと、以下2つのテーマでご意見をいただいた。

自治体法律相談事業と弁護士会
-弁護士会の取り組みと自治体や市民からの要望

安藤建治法律相談センター運営委員会委員長の説明に続き、意見交換がなされた。

  • 岡田ヒロミ委員(消費生活専門相談員)
    地区法曹会は、時代に合わなくなっているのではないか。弁護士が高齢化して通信関係等に対応できないという話も聞く。
    自治体の法律相談は、なかなか予約をとれないところが多い。最初の受付段階で職員が自分の判断でふるいにかけてしまうことがある。だから、弁護士に相談に行ったのに、弁護士にたどりつけない人がいる。そういう苦情が来ることがある。
  • 後藤弘子委員(千葉大学法科大学院教授)
    自治体の法律相談では相談担当者が直受けできないところが多いとすると、せっかく無料法律相談でそこまで来たのに、弁護士に依頼するためにまた次の相談所にいかなければならないのは利用者にとって大変。カルテを次の医者に引き継ぐように、法律相談カードを引き継ぐのならまだわかるが、もう一回初めから全部を話すのは大変なことだと思う。
  • 紙谷雅子議長(学習院大学法学部教授)
    後藤先生の言ったカルテの問題は、本人に渡すのであれば、個人情報の問題ではない。なぜ自治体から本人に法律相談カードを渡せないのかという疑問は当然だ。 岡田;もっと利用者のためを考えて、地区法曹と弁護士会が連携すべき。
  • 長友貴樹委員(調布市長)
    調布市では、これまで平日週2日の無料法律相談をしていたが、今年度から土曜日も始めた。年度ごとの相談件数が、ここ3年間は1500件くらいで推移している。相談分野は、相続、夫婦関係、不動産関係、金銭貸借の順で多い。常に予約が満杯になる状況で、ニーズは極めて高い。市民のアンケートではまずまずの満足度になっている。
    離婚の相談は、2009年度以降、かなり減っている。不況の影響で離婚後の生活が困難になったことに起因しているのではないか。その他、近隣の騒音など、以前であれば地域のコミュニティで解決していたような相談もきている。無料相談ということで、そのような相談も来やすいのかもしれない。
    まったく法曹に接したことがない市民からすると、何をどうしていいのかがわからないし、普通の法律事務所では弁護士費用がわからないという敷居の高さがある。また、法律相談をすると、弁護士に依頼することになって、裁判になるんだという強迫観念のようなものを持っている市民が多い。わずか30分であっても、無料で弁護士に相談ができて、安堵感につながっていることは間違いない。常々気に病んでいたことを聞いてもらえた、アドバイスをもらって道が開けたような気がするということで、満足をしている方が多い。
    相談後も継続的に弁護士に話したい人に対しては、調布市は、営業活動に直接つながらないようにするために、弁護士会の法律相談センターや法テラスを紹介する方策をとっている。
  • 紙谷議長
    相談する側からすれば、何回も同じ話をするのは負担が大きいので、できればたらい回しはして欲しくない。ただ、これから弁護士の数が増えていくと、安易な案件だけを引き受けようとする事件あさりと相談者が受けとる場面が増えてくるのではないかという心配があるので、法律相談の実施の際に注意は必要である。

資力の乏しい方への法的支援制度
-法テラスの利用状況と改善策

渕上玲子会員、太田晃弘会員の説明に続き、意見交換がなされた。

  • 津山昭英委員(朝日新聞社ジャーナリスト学校校長)
    法テラスの利用件数が年間28万件しかないというのは、一桁少ない気がする。法律扶助協会の時代と比べても減っている。要件が厳しすぎるのではないか。年収200万円以下の人が1000万人いると言われる時代なので、もっと多く利用されていいはず。
    司法ソーシャルワーカーは、自治体が弁護士を採用すればいいのではないか。明石市などで弁護士が採用されてきている。
  • 長友委員
    自治体としては弁護士の採用に関心は持っているが、予算の問題もあり、実施するのは大変。ぜひ今後の展開を注視したい。市の職員だけでは限界があるので、地域包括センターや成年後見センター等がうまく連携をとれるといい。実例に即したアドバイスは、世の中を変革するときの参考になるので、現場で弁護士が感じたことを投げかけて頂くといい。
  • 紙谷議長
    法律を知らない人は、法律問題に直面しても、それが法律問題だとなかなか思わないことがある。弁護士へのアクセス障害を解消するためには、法教育が今後さらに重要になると思う。社会福祉士の話を聞いても、法律で解決できることなのに、法律で解決せずに、善意でやっていることがある。法制度は、同じような問題を抱えた人には同じような解決をしたいという前提がある。どうすればそれが法律問題だということを広く伝えることができるのか。弁護士の人数が増えれば増えるほど、弁護士会の力が必要になると思う。
  • 岡田委員
    仲間の情報提供者によると、2010年に生活保護受給者については法テラスへの償還が不要になってから、1人で何件も持ち込むケースが出てきた。生活保護受給者で本当に困っている方に対しては、税金を使っても救済しなければいけないと思うが、濫用的な事例に対しては、回数制限をとるとか、問題によって切るようにすべきではないか。
  • 長友委員
    法テラスの巡回法律相談を市役所でもやっていただいて、助かっている。法テラスのPRにも役立っていると思う。ぜひ回数や開催場所を拡大して頂きたい。その際には、資力のない人の便宜を考えて、生活保護費の支給日に巡回相談をやって欲しい。
  • 紙谷議長
    地区法曹会と法テラスの巡回相談を組み合わせてもいいのではないか。利用する側としては、相談するのは弁護士というだけで、その弁護士がどこから派遣されたのかはわからない。統合した方がいいようであれば、従来の経緯を棚上げして統合してでも、弁護士の敷居を低くして欲しい。

市民会議終了後、阿部委員から以下のようなコメントをいただいた。

  • 阿部一正委員(日鉄住金総研株式会社代表取締役社長)
    本日の説明は大変興味深く、深刻にお聞きした。家族の中の誰かが職を失い、また誰かが知的障害を持ち、うつ病にかかっている等の輻輳する原因で生活がにっちもさっちもいかないという状況が、現実にたくさんある。あるいは、家の中のごみを処理しないで長期間放置している事例も多い。私自身もアルコール中毒患者が社会的問題を起こさないように食事等の世話をする団体で少しお手伝いをしたことがある。
    これらの問題は、放置すれば市民生活の安寧が侵されることになる。本来は国や地方自治体が対応すべき問題かと思うが、最終的には、法的観点からきちんと対応しないと解決できない。日本は、このような問題に対処する制度が全く不十分。制度が不十分な中で弁護士が善意で対応しても、限界がある。国や各自治体が積極的にこのような問題に対応する体制を少しずつ作り上げていくことを急ぐべき。そして、弁護士はこのような自治体の体制づくりを奨励し、実行に積極的に協力し関与していく、ということが望まれる。