ある避難所にて(西田 美樹)
『海で生き,海に暮らしたい被災者の気持ち』
─「相談したいことはあるけどね、相談しても無駄だと思うのよ。」
女性は問わず語りに話し始めた。原発10キロ圏内から避難してきたという。
─「この先どうなるかわからないからね、相談しても仕方のないことばかりで。家に帰りたい。家は地震で壊れているけど、今帰れば、修理して住めると思うの。でもこれが1年後2年後となれば、雨漏りもして、土台も腐って住めなくなると思うの。それで全壊と言ってくれるのかしら。」
「方向が見えないから、相談できないの。帰れるのか、帰れないのか。帰れないと言ってくれたらあきらめもつくけど、そんなことは誰も言わない。私もそんなことは聞きたくない。でも、生活があるから、仕事も探さなければならなくなるだろうし。そしたら息子なんか、ここで住むことになるのかしらね。」
「でも、浜通りの人間は、いくら言われても、海のそばにすみたいの。ずっと海で暮らしてきたんだからね。」
「一時帰宅があるっていうけど、持ち出したい物はたくさんある。鍋と包丁を持ってきたいの。主婦を40年もやってきて、なんで果物ナイフで料理しなければならないわけ?その情けなさ、弁護士さんにわかる?」
何を言われても、傾聴するしかなかった。私のできることは、この人たちの思いを受け止めることだけだと思った。
法律相談とは呼べないかもしれない。それでも、他人に話すことで、気持ちの整理がつくこともある。そう願って、ひたすら話を聞いた。避難2か月のやり場のない思い。私の存在は、彼女たちにとって、何かを変える、あるいは吹っ切るきっかけになっただろうか。
(弁護士・西田 美樹)