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第11回市民会議(2007年2月28日)

第11回市民会議議事録(PDF:108KB)

第11回東京弁護士会市民会議が2007年2月28日に行なわれた。今回のテーマは「弁護士大量増員時代の弁護士養成及び弁護士・弁護士会のあり方について」である。

  • 阿部一正委員(新日本製鐵株式会社知的財産部長)
    司法改革が始まった当初、経済界では弁護士の増加について議論した。その際にも、弁護士が増加した分だけの仕事があるのかという懸念はあった。一方で、当時は、株主代表訴訟、企業の経営者の責任、コンプライアンスの重要性がクローズアップされており、その担い手としての人材を企業がロースクールから求めようという議論になり、企業も弁護士の採用を真剣に考えていた。しかし、やがて、企業も従業員や研究者の削減という合理化を進めるようになり、法務部門だけが人員を増やすことはあり得なくなった。また、企業内弁護士の給与をどうするかという問題もあって、現実には企業が弁護士を採用することは難しい状況になっている。ロースクールについては、社会に出た後に法曹資格を持ち、もっと有効な仕事ができると考える人たちに門を広く開けるという意味で非常に意義があると思う。ただ、最近、社会人のロースクール合格者が激減しているようで心配だ。今後、弁護士が増加していく状況で、弁護士には一生懸命勉強して専門性をさらに高めてほしい。専門性が高まれば高まるほど、職域は広がると思う。また、今まで法的な問題としてとらえられていなかった問題にも取り組んでほしい。

  • 藤村和夫委員(筑波大学法科大学院教授)
    法曹の増加が話題になったとき、ほとんどが弁護士の増加に関する議論をして、弁護士にばかり目が向き、裁判官や検察官は一体どうなっているのだろうかということについては、あまり耳に入ってこなかった。裁判の迅速化を考えれば、弁護士よりもむしろ裁判官の増員の方がよほど重要だと思うが、この点があまり話題にならないことは大変不思議だ。法科大学院で学生と接している立場からすると、学生たちは、一生懸命勉強しているが、明るい未来が開けているという方向から、少しずつ暗いところを見るような目に変わってきていることを感じる。また、法科大学院を修了しても、試験に合格しない学生をどのようにフォローしていくかということも重要な問題として残る。今後、弁護士が増加し、個人や企業、自治体などさまざまなところから需要が出てくると思うが、そこでの、いわゆる需要と供給がマッチするかどうかは相当な時間をかけて見る必要があるのではないか。また、弁護士が増加する状況における弁護士会の役割について、弁護士会自身が模索しているようだが、せめて弁護士法1条が持っている精神だけは強く維持する姿勢を保ってほしい。

  • 長友貴樹委員(調布市長)
    法曹養成の変化はまだ緒についたところと感じる。長い間の議論があった上でこのような大きなシステムの変革に踏み切ったのだから、その功罪を見極めるには時間が必要だと思う。これからも、枝葉末節の議論に陥ることなく、法曹全体の社会貢献、役割が機能しているかどうかという点を見落とさないでほしい。二回試験の大量不合格者の発生という問題があるようだが、試験で拾えないというのであれば、法曹の対象から外されることに全然ためらう必要はないのではないか。ただ、日頃から、公務員試験などで筆記試験だけの人材採用の危うさは強く感じているが。これからの弁護士には、非常に目まぐるしく変容する社会の中にあって、さまざまな活動を通して、いろいろな貢献ができるように考えてほしい。例えば、私たち自治体としては、新しい地方自治体のあり方について、多くのことを弁護士に相談したいと考えている。また、市民の社会貢献をどう考えるのか、NPOやボランティア活動を法的側面からどう支えていくのかということも、試行錯誤でわからないことが多い。地方自治法自体も今変革期を迎えている。ともに勉強して考えてほしい。

  • 岡田ヒロミ委員(消費生活専門相談員)
    東京にいると、弁護士が少ないという感覚があまりないが、地方のセンター相談員からすると「東京は3つも弁護士会があるし、それぞれに消費者問題委員会がある。クレサラ相談もある」と羨ましがられる。地方には、本当に弁護士がいない。ましてや、消費者問題などは関心を持っている弁護士はいない。このことを考えると、弁護士は増えるべきだと思うが、修習期間が短くなり、事務所で昔のように勤務しながら、弁護士業務をすることができないとなると、本当に気の毒で、どこでどうやって力を付けていくのかと思う。この点は、若手弁護士本人のみならず、弁護士会も深刻に受け止めているのだろう。最近、東京三会では、消費者問題委員会に登録される弁護士が非常に増えていると聞くが、消費者相談として回したときに、全然消費者問題を知らない弁護士が出てこられると困る。今までは、法律問題であれば何でも引き受けて何とかこなせたのだろうが、これからはそうはいかない。専門性を付けてほしい。また、行政の現場からみると、弁護士は行政に関しての知識に欠けると思われる。これからは行政と手をつなぐ活動をしてほしい。弁護士にとってもよい効果を上げると思う。

  • 藤森研副議長(朝日新聞社編集委員)
    弁護士の負のイメージは「高い、遠い、遅い、威張っている」。市民の多くが、司法制度改革に特に異議を唱えなかったのは、法曹三者に任せても無理だ、弁護士を増やして競争させることでこうしたイメージを変えられるという思いがあったのではないか。「高い」のは価格のこと。「遠い」のは弁護士過疎や都市部でのアクセスの問題。「威張っている」のも言ってみれば競争原理。「遅い」のは、裁判官や検察官などの増員とのバランスが必要だが、法曹全体としては増やすことが前提になる。こうしたイメージを変えるために法曹の増加以外によい方法も考えつかない。法曹養成については、統一修習は意味があると思う。大きく言えば、三権分立の中で司法がチェックし、さらに在野の弁護士がチェックの役割を果たすが、自覚ある弁護士が減少すれば、社会全体のバランスが崩れてしまう。今のところ、司法界に進む人たちは、世の中の人のために役立とうという志がある。いろいろな経験を持った人が専門職として入れる司法試験という制度のよさがつぶされてはならない。また、これからの弁護士会には、大きな政府を目指してほしい。弁護士が人権擁護活動を行える場が必要だし、その場こそが弁護士会であると期待したい。

  • 紙谷雅子議長(学習院大学法学部教授)
    多くの法律家が養成されると、法律家の役割も変わっていく必要がある。紛争の場面で法律家が出てくるだけではなくて、もっと積極的に、こんなときにも法律家は役に立つということをアピールするのは弁護士会の役割であろう。法科大学院で教えている立場から言えば、社会人経験をして法科大学院に入ってくる人から学生たちが得る刺激というのは非常に大きいし、真剣にしたいことが明確であるという意味では、法律家になった後の貢献度が高いと思う。その意味で、法科大学院に入学する社会人が減少していることに危惧を感じる。多様な人材を採るためにも、例えば、模擬裁判をして、最終グループに残った人たちは、そこまでの準備などというレベルが高いとして、試験を免除するという仕組みはどうか。こうした仕組みは夢物語だと言われるが、試験の上手な人だけが受かってしまうことは不安である。今後の弁護士会のあり方について、弁護士の友人は、委員会活動で知り合った人たちと夜中まで議論することが一番楽しいと言う。弁護士会にはこうした議論の場をもっと提供してほしい。それこそが実は弁護士が社会的に役に立ち、同時に弁護士のレベル向上につながっていくのだろう。