東京弁護士会

第21回市民会議(2010年7月27日)

第21回東京弁護士会市民会議が2010年7月27日に行なわれた。今回は「弁護士人口」、「提訴手数料の低額化、無料化」、「司法修習費用給費制維持問題」について、ご意見をいただいた。但し、発言は要約している。

弁護士人口について

  • 若旅一夫会長
    日弁連会長選挙の最大の争点が人口問題であった。「減らして欲しい」という地方会の声が強く、「当面1500名程度に」という候補が当選した。急激な増員による歪みの是正が課題になっている。
    解決の鍵は2つである。①【あるべき社会の選択】欧米型の社会を目指すのか。それとも、質を確保しながら適正人口を模索するのか。②【世論の支持】既得権の保持では世論の支持は得られない。支持を得られるにはどうするべきか。資料はあえて用意しなかった。みなさんの生の声をお聞きしたい。
  • 阿部一正委員(㈱日鉄技術情報センター代表取締役社長)
    「就職先が決まらない」とはどういう意味か。司法試験に受からなかった人は、考慮外ということか。
  • 若旅会長
    「弁護士登録して即独している者」という意味である。ただし、学者になる者、インハウスロイヤーは除く。
  • 古西洋委員(朝日新聞紙面審議会事務局長)
    弁護士人口だけを論じても、実のある議論にはならない。「司法改革」という枠組みでの議論が必要である。司法は誰のためにあるのか。「法律家のためではなく、ユーザーのためにあるべき」というのが出発点だ。
    司法改革が論じられた当時、硬直化していた裁判所への批判があった。また、国民は、弁護士に対し「敷居が高い」「近寄りがたい」というイメージをもっていた。「2割司法」と揶揄されていた。極論すれば、法的紛争に直面した市民は、泣き寝入りするか、反社会的勢力を頼るかの二者択一であった。司法過疎の問題が強く意識されていた。弁護士が「いない」、裁判所が「遠い」、弁護士費用が「高い」。先進国との比較において、弁護士が「少ない」。
    弁護士会は法曹人口増加ペースの減員を主張するが、現在、司法過疎は解消したのか。刑事弁護に十分は人員が揃ったのか。セーフティネットからこぼれ落ちた人を救えたのか。今になって「ちゃぶ台をひっくり返す」のは、主権者の立場からすると、いかがなものか。弁護士も、競争にさらされるべきだ。
    朝日新聞で報じられた「日比谷公園でおにぎりを食べる新人弁護士」の写真はインパクトがあったが、司法改革は、そういう人が出てくることも前提となっていた。オンザジョブ・トレーニングの問題は、別途、検討されるべき。人口抑制論が世論の支持を得るのは難しい。
    2つの不安がある。①【弁護士の自治の見直し】そもそも弁護士会には監督官庁がない。業界の利益だけを声高に叫んで司法改革の「ちゃぶ台をひっくり返す」となると、弁護士会はたんなる業界団体にすぎないことになる。②【外弁問題の再燃】外国人弁護士の完全自由化の声が出て来かねない。
  • 若旅会長
    ①について、宇都宮会長の当選直後の新聞各紙の論評は、会長公約に対し批判的であった。しかし、1500人論は、減員論ではない。「急増」から「漸増」へということ。弁護士人口5万人を目指すことに変更はなく、急増から漸増にペースダウンし、5万人になる時期が数年後にズレるだけである。②については、同感である。
  • 長友貴樹委員(調布市長)
    ふつうの市民が理解するためには、「例示」が必要である。アメリカ、ドイツ、フランスと同列には扱えない。訴訟が増えることが、市民にとって「よい社会」になることなのか。市民は「権利擁護」と肯定的に判断するのではないだろうか。いわゆる就職問題が発生しているとすれば、弁護士は職として成立しえない。質の低下のおそれがある。社会はどうあるべきかを固めた上で、弁護士会は減員論を主張されてはどうか。後から改善できることは、後から改善すれば足りる。
  • 阿部委員
    「競争の激しい社会が到来した。規制緩和の時代であるから、事後において、合理的な解決のためには優秀な弁護士がたくさん必要とされている。現実の問題だから、性急な増員に不都合が出てきたからスローダウンするというスタンスに、私も反対はしない。
    しかし別の観点から考えると、司法試験のありかたが問題である。「一定能力があるものは一律合格させる」でよいのではないか。法科大学院の学生の話を聞くと、悲壮感が漂っている。東大や京大の法科大学院は定員を減じているが、その必要はあるのか。一定の能力がある者には資格を与えた上で、法曹以外の「別の道を選べる」フレキシブルな制度のほうがよい。
  • 若旅会長
    法曹養成制度については、中長期的な改革が必要である。質とレベルを確保するために、ある程度厳格に資格を認定し、その結果として人数を絞ってキチンをした養成システムをつくる必要がある。
  • 長友委員
    どんな世界であっても「食べられるひと」と「食べられないひと」がいるのは当然である。「食べられない弁護士がいること」が、市民にとってなぜ弊害なのか。減員論が「エゴではない」ことを示す必要がある。素朴な疑問として、私としては、数年で、いきなり「もう足りている」と方向転換することについての説明が欲しい。
  • 若旅会長
    弁護士会が3000人を受け入れたときには、法曹一元への期待が強かったが、その問題が置き去りになってしまった。
  • 紙谷雅子議長(学習院大学法学部教授)
    訴訟までしなくて済めば、裁判官はそれほど増えなくても良いのか。
  • 古西委員
    裁判官は「裁判官とはこういうもの」と考えがちで、世界が狭い。私は、弁護士任官に期待する。なぜ弁護士任官の希望者が少ないのだろうか。「転勤がイヤ」などが理由なのか。
  • 紙谷議長
    「質と量」の問題について疑問がある。むしろ、「量が増えると、質が上がる」のではないか。本当に、質は試験でチェックできるのか。合格者を増やしたからこそ、ゼロワンが解消されたことは、司法改革の大きな功績である。ふつうに考えれば、弁護士はもっと必要なのではないか。
    1500人論について。法科大学院生の立場からすれば、「入学時の予想(2010年には3000人)と合格者数(2010年に2000人)の間にこんなに差があると、話が違う」となるのではないか。弁護士が弁護士として仕事をすることを目指すとすると、隣接業との関係をどうするのか。弁護士と司法書士の人数は反比例し、弁護士が本来担っても不思議ではないが、しない仕事を司法書士がしているのではないか。イギリスやアメリカでは、法廷に立つ弁護士は1割と聞いている。日本でも弁護士の数を考えるにあたり参考になるのではないか。
  • 若旅会長
    弁護士会は、犠牲を払って司法改革を進めてきた。例えば採算がとれない事件を「委託事業」として身銭を切って取り組んでいる。日弁連の全予算60億円の約4分の1の15億円を支出している。弁護士会の社会的貢献の事実をもっと知っていただきたい。

提訴手数料の低額化、定額化について

  • 若旅会長
    弁護士会は、市民がもっと裁判を利用しやすいようにとの趣旨で、提訴手数料(印紙代)の低額化、定額化を実現しようとしている。日本では、例えば100万円の請求をする場合1万円、1000万円の請求で5万円、1億円の請求で32万円の手数料がかかる。フランスでは、憲法上の「裁判を受ける権利」を保障するとの根拠で無料である。諸外国では1万円程度が多く、極めて安い。利用しやすい裁判との視点からご意見をお願いしたい。
  • 紙谷議長
    訴額によって印紙代が変わるのは、不思議な話である。訴額によって訴訟が難しくなるわけではない。提訴手数料の性格は、利用料なのか、それとも受益者負担なのか。「一定額」でよいと考える。裁判を受ける権利の実現のためには、むしろ「無料」であってしかるべき。「無料」の実現の見込みはあるのか。
  • 若旅会長
    今まで「提訴手数料を支払う」のが当たり前だと思ってきた。「無料」は考えてもいなかった。
  • 阿部委員
    提訴手数料は「訴訟費用」に含まれるのだから、理屈の上では提訴手数料は敗訴者負担となるのでは。敗訴者が負担するのであれば、不当な訴訟を抑止するという観点から、ある程度高額でもよいかもしれない。
    株主代表訴訟の低額化で企業は酷い目にあってきた。弁護士会は、仕事を増やすためにこの問題に取り組んでいるわけではないと思うので、誤解を生まないためにも、説明の仕方がきわめて重要である。

司法修習費用給費制維持問題

  • 紙谷議長
    この問題でまず申し上げるべきは、「弁護士会は、広報が下手である。」ということ。当番弁護士制度等、弁護士会が身銭を切ってやっている事業がある。また、足利事件は、どう考えても、取り組んだ弁護士が「持ち出し」であったはず。こういった公益活動に励むのは、弁護士が給費制を「恩義を感じている」からではないか。
  • 阿部委員
    司法試験の位置づけが従来どおりであるのなら、給費制は必要であるし、資格試験ということにするのなら、給費制は不要である。
  • 紙谷議長
    貸与制に変更すると、司法試験合格の地位は、教員免許と同じ資格はあるが、活用する人は多くないことになるのではないか。また、奨学金や肩代わりの支給といった形での大きな事務所の青田刈りの問題が顕在化するのではないか。
  • 古西委員
    給費制維持の運動が業界の既得権益の主張に見えてしまうようではダメだ。現在の給費制に、「2回試験に落ちたら返す」といった修正を行う必要がある。なお、修習生のアルバイトが禁止されていることは、一般に知られていない。修習生の実態のPRが必要である。実務修習は移動を伴うので、通常のアパートを借りるのは、到底無理である。しかたなくウイークリーマンションに高い家賃を払って住んでいる者もいる。
  • 長友委員
    優位な人材を育てるためには、お金は必要である。給費制の必要性の十分な説明ができれば、給費制の存続に傾くのではないか