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リーガルサービスジョイントセンター(弁護士活動領域拡大推進本部)

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(5)商事信託と民事信託

「商事信託」って何?

相続対策や認知症対策の方法として信託が注目され、本委員会のブログでも、「家族信託」を紹介しました。
また、最近では、信託銀行でも、認知症になった本人の生活のために指定した家族が出金できるような商品(家族信託系サービス)などが提供されるようになってきました。そして、金融機関などが提供する商品には「家族信託」といった名前を使用するものがあります。
ただ、信託銀行などが提供する「家族信託」のサービスはその多くが「商事信託」と呼ばれるもので、「民事信託」とは様々な点で違いがあります。
そこで、以下で「商事信託」と「民事信託」の違いやメリット・デメリットについて考えてみたいと思います。

「商事信託」と「民事信託」の違い

(1)受託者の違い
「商事信託」と「民事信託」の定義については学者によって違いもありますが、一般的に、以下のような理解がされています。
まず、信託の受託者が「業」として不特定多数の者を対象に引き受ける信託を「商事信託」といいます。
商事信託を行う受託者になるためには、信託法のほかに、「信託業法」または「金融機関の信託業務の兼営等に関する法律」(兼営法)の適用を受け、これらの法令による免許・認可が必要となります。また、商事信託には「管理型信託」と「運用型信託」などといった種別があり、それぞれについて受託者の権限の範囲が異なります。
これに対し、受託者が特定の者を対象に営利を目的とせずに引き受ける信託を「民事信託」といいます。民事信託は、自己信託や限定責任信託など多岐にわたりますが、家族・親族(あるいは家族で設立した一般社団法人等)を受託者とする信託は「家族信託」(Family Trust)と呼ばれています。
このように、「商事信託」と「民事信託」は、受託者が信託を営利目的で反復継続して行うか否かで区別され、「受託者」が信託銀行や信託会社といった専門家なのか、(家族信託では)信頼できる家族・親族なのかという点で大きな違いがあります。

(2)信託できる財産の違い
商事信託の対象となる財産は、信託銀行の場合には主に(一定額金額以上の)金銭です。信託会社によっては金融資産のほかに賃貸住宅などの収益不動産も対象としています。しかし、商事信託の信託で、一般的に、自宅不動産や非上場株式などは対象とされていません。
これに対し、民事信託では信託の対象となる財産について原則として制限はなく、自宅不動産や非上場株式も信託できます。また、受託者の権限も、信頼関係のある人が行うことから、権限の範囲が広く、信託契約の中で設定することになります。
このように、民事信託(家族信託)では信頼できる家族や親族に資産の管理や運用を任せることが前提となりますので、身近に頼れそうな家族がいない場合や家族が受託者になりたがらない場合(例えば、子供が会社員のため、信託財産となる賃貸アパートの管理経営ができない場合)などでは、信託は難しいことになります。

「商事信託」と「民事信託」のメリット・デメリット

商事信託の場合には、受託者が免許・認可を受けた者(専門家)で、監督官庁の監督下に置かれるため、使い込み等の心配がなく安心した長期の資産管理が実現できる、あるいは資産管理の負担を軽減できるという点にメリットがあると考えられます。
しかし、プロに任せるため、商事信託の場合には信託報酬がかかります。また、例えば、先祖から受け継いできた不動産を渡す人を決めておきたい、あるいは認知症になった場合に備えて資産管理の体制を整えておきたいなど、人によって異なる信託の利用への柔軟性に欠ける部分があります。
これに対し、民事信託(家族信託)の場合には、障害のある子どもの支援や事業承継への活用など、終活での活用例も多数あり、委任者の目的や信託財産に応じて柔軟に対応できる点でメリットがあると考えられます。
しかし、民事信託(家族信託)の場合には、受託者による使い込みの危険性があるほか、制度として税務上、法律上の整備や解釈が定まっていない部分があるという点では問題があります。
以上のように、商事信託、民事信託(家族信託)ともにメリット、デメリットがあり、信託を利用する目的や信託財産などによって選択肢が異なってきます。
また、信託は財産管理のための制度で、受託者に身上監護権はありません。そのため、相続対策や認知症対策といった利用目的に応じて、任意後見や遺言など、ほかの制度との組み合わせも必要となってきます。
民事信託(家族信託)に関心はあるけれど、疑問や不安があるなら、信託の経験が豊富な弁護士などの専門家にご相談いただけるとよいと思います。                               (菅野典浩)

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