- 国際業務推進部会
- 新着情報
- 弁護士お試し制度
- 自治体連携センター
- 終活コラム
- (15)「住まいの終活」空き家発生防止のために
- (14)終活の開始時期と思い立ったときにだれに(どこに)相談すべきか?
- (13)相続土地国庫帰属制度について
- (12)任意後見契約等 2
- (11)祭祀承継者
- (10)遺言でできること
- (9)高齢者の賃貸借契約と死後事務委任
- (8)終活って何をすればいいの?
- (7)エンディングノートで出来ること、出来ないこと ─エンディングノートの法的効力─
- (6)令和3年改正民法・不動産登記法と終活
- (5)商事信託と民事信託
- (4)任意後見契約等
- (3)遺言
- (2)死後事務委任
- (1)認知症に備えた資産活用(家族信託)
- 弁護士による終活支援
(9)高齢者の賃貸借契約と死後事務委任
1 はじめに
単身の高齢者の方が民間の賃貸住宅に住もうとする場合、入居のハードルは若年者の場合よりも高くなることが多いです。
賃料を支払えるだけの安定収入があるかどうか等の審査はもちろんですが、万一の場合に、孤独死により事故物件となってしまったり、賃貸借契約の解約や明渡しの手続きをとってくれる方がおらず、いつまでも部屋を次の人に貸せないというリスクがあるのではないかと懸念されてしまうからです。
もっとも、このうち、最後のリスクについては、死後事務委任契約を活用する方法によって解消できる可能性があります。
2 オーナーにとってのリスク(解約と残置物処理)
賃貸の入居者が亡くなられた場合、賃貸借契約は当然には終了せず、相続人が賃借人の地位を引き継ぎます。部屋の中の残置物の所有権についても同様に相続人が承継します。
そのため、賃貸のオーナー(大家)は、勝手に部屋を開けて残置物を処分するようなことはできません。
オーナーとしては、相続人を相手として、賃貸借契約の解約と明渡しの手続きを行ってもらうことになります。しかし、相続人の有無や所在を探すのは容易ではなく、時間や費用がかかります。さらに、相続人が判明しても相続人に対応を拒否されたり、そもそも相続人が存在しないケースもあります。相続人が存在しない場合には、家庭裁判所に、相続財産清算人の選任申立をする必要が生じ、明渡しを実現するまでにはさらにコストを要することになります。
3 死後事務委任契約の活用とモデル契約条項
こうしたリスクを防ぐために、賃貸借契約の締結と同時に、入居する高齢者と第三者との間で、賃貸借契約の解約や残置物の処分に関する権限を委任する死後事務委任契約を締結するという方法があります。
国土交通省は、このような死後事務委任契約に関するモデル契約条項を公開しています。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000101.html
このモデル契約条項のような死後事務委任契約を上手に活用することで、賃貸オーナーにとっての不安を払拭するとともに、単身の高齢者にとって安心して居住できる住まいを確保できる可能性があります。
4 注意点
もっとも、こうした死後事務委任契約を活用するには、いくつか注意点があります。
まず、単身高齢者の方の賃貸借に限らず、どのような場合でも上記のような死後事務委任契約を利用して良いかどうかです。このような方法は、入居者が亡くなった後の契約関係や残置物の処理についての懸念を払拭することが目的である一方、入居者(の相続人)にとっては財産に対する権限の一部を制約するものとなります。そのため、上記のモデル契約条項の解説では、そうした懸念がないようなケース(例えば、個人の保証人がついているような場合)で使用することは、場合によっては、「民法第90条や消費者契約法第10条に違反して無効となる可能性がある(最終的には個別の事案における具体的な事情を踏まえて裁判所において判断される。)」と書かれています。
また、次に、誰が死後事務委任契約の受任者になるかについてですが、賃貸のオーナーは基本的に受任者となれません。オーナーと入居者は利益相反の関係にあるからです。モデル契約条項の解説では、入居者の推定相続人のいずれかが受任者となることが適切であり、それが困難である場合には居住支援法人又は管理業者等の第三者が受任者となることが適切であるとされています。ただし、管理業者が受任者となる場合には、オーナーの利益を優先することなく入居者又はその相続人の利益のために誠実に事務を遂行する必要があることに注意が必要です。
その他、死後事務委任契約の内容として具体的に何をどのように定めておくべきかや、賃貸借契約書そのものについてもどのような処理をしておくべきかなど、実際に活用する場面ではほかにも様々検討すべきことがあります。具体的な事案については弁護士にご相談ください。
(小笠原友輔)