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リーガルサービスジョイントセンター(弁護士活動領域拡大推進本部)

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(6)令和3年改正民法・不動産登記法と終活

1 はじめに

令和3年4月21日に民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)が成立しました。
これは、いわゆる所有者不明土地問題の解消に向けた施策ですが、所有者不明土地は相続をきっかけとして発生することが多いため、相続や終活に関しても影響が大きい改正です。
その重要部分の施行が、間もなく、令和5年4月1日に迫っています。
そこで、ここでは、相続や終活に関わる改正のうち、以下の3点を簡単に紹介します。
①相続登記が義務化されること
②相続人への遺贈の登記が単独申請できるようになること
③相続開始から10年で寄与分・特別受益を主張できなくなること

2 相続登記の義務化(令和6年4月1日より)

不動産を相続によって取得した場合には、相続人は、そのことを知った日から3年以内に相続登記をすることが義務付けられ(改正後不登法76条の2第1項)、正当な理由なく申請を怠ったときは過料に処せられます(同164条1項)。
そこで、自分の所有する不動産を相続人に引き継いでもらう場合には、相続登記を速やかに行うことが出来るように、不動産の情報をまとめておいたり、万一自分の親の名義のままになっている場合にはきちんと自分の名義に変えておくなどの対応が必要です。
なお、申請を簡単に、かつ漏れなく行うことが出来るように、相続人申告登記(同76条の3)、所有不動産記録証明制度(同119条の2)という新しい制度も導入されます(ただし、所有不動産記録証明制度の施行は令和8年4月までのどこかとなります)。

3 相続人への遺贈登記の単独申請(令和5年4月1日より)

ある相続人に特定の不動産を「相続させる」旨の遺言については、その相続人の単独申請で所有権移転登記をすることができます(不登法63条2項)。一方、ある相続人に特定の不動産を「遺贈する」遺言の場合には、これまでは、単独では登記できず、遺言執行者または他の共同相続人全員との共同申請が必要でした。この点が、「相続させる」遺言と遺贈との大きな違いの一つと言われていました。
今回の改正で、後者の場合でも、遺贈を受けた相続人による単独申請が可能となります(改正後不登法63条3項)。
ただし、相続人以外の第三者への遺贈の場合には、依然として単独登記はできません。その他にも、「遺贈」とする場合には注意をしなければならない点がいくつかありますので、具体的にどのような内容の遺言にするかは弁護士とよく相談しながら決めたほうがよいでしょう。

4 具体的相続分による遺産分割の期間制限(令和5年4月1日より)

これまで、相続人間で遺産分割を行う際には、寄与分や特別受益に基づく具体的相続分はいつでも主張することができました。しかし、今回の法改正で、原則として、相続開始から10年が経過すると寄与分や特別受益は考慮されなくなり、法定相続分に基づく遺産分割をすることになります(改正後民法904条の3)。
ずっと昔に亡くなった親の相続について遺産分割がなされないままとなっており、自分が元気なうちに何とかしておきたいと思っているものの、ずっと昔の寄与分や特別受益のことできょうだい間で揉めてしまって遺産分割がまとまらない...ということもあります。今回の法改正によって、昔の遺産分割についてはそうした点を捨象してシンプルに処理することができるようになりました。
例外は、10年経過前に家庭裁判所に遺産分割の請求をしたときや、10年の期間満了前6か月以内に遺産分割の請求をできないやむを得ない事由があるときです(同条)。また、明文の規定はありませんが、10年経過後も、相続人間の合意によって具体的相続分に基づく遺産分割をすることは当然できると考えられます。
改正法の施行(令和5年4月1日)以前に開始した相続についても、上記の期間制限が適用されます。もっとも、経過措置として、施行から5年間は猶予期間となり、この間は、たとえ相続開始から10年が経過していても具体的相続分による分割をすることができます(民法等の一部を改正する法律附則第3条)。

5 その他

その他に、民法では相隣関係や共有関係に関する規律も大きく変わります。「母の名義の実家をきょうだいとともに相続したけれど他の共有者と折り合いが悪くてうまく調整できない...」とか、「全然関わりがない遠い親族から見たことも聞いたこともない遠方の不動産の共有持分を相続してしまった...」などの事情があって、適切に管理することも処分することもできないまま手が付けられない状態になっている不動産を、より円滑に管理・処分することができる可能性があります。
また、いわゆる「負動産」については、相続人としては、相続を放棄するという選択肢も十分考えられるところですが、相続放棄した場合にも相続財産に対する一定の管理義務が規定されていました。今回、その範囲が「放棄の時に...現に占有」していたものに限られます(改正後民法940条1項)。さらに、民法等の一部を改正する法律と同時に成立した、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号・令和5年4月27日施行)により、たとえ相続を放棄していなくても、相続した不動産を手放すことができるようになる可能性もあります。
詳細は、東弁広報誌「LIBRA」2023年4月号、5月号に特集が掲載予定ですのでそちらに譲りますが、こうした不動産に関するトラブルや「負動産」を次の世代に引き継がず、きちんと解決しておくことも、大事な終活の一環です。

(小笠原友輔)

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