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「21世紀型の消費者政策の在り方について・中間報告」についての意見書

2003年(平成15年)3月24日
東京弁護士会
会 長 伊礼勇吉

はじめに

 内閣府国民生活局は、2002(平成14)年6月11日付で「21世紀型の消費者政策の在り方に関する検討について」を公表し、消費者保護基本法(昭和43年法78号)の改正を視野におき、消費者政策を全体的・総合的視点から見直しする必要があることを指摘した。これを受けて、国民生活審議会消費者政策部会は2002(平成14)年12月26日付で「21世紀型の消費者政策の在り方について-中間報告-」(以下、「中間報告」という)を公表した。
 当会としては、上記中間報告を踏まえ、下記のとおり意見を述べる。

第1 21世紀型消費者政策の検討の必要性について

1 消費者政策の理念について
(1) 中間報告は、消費者を従来のような保護の対象から「自立した主体」として位置付けるべきとしている。
しかし、消費者が「自立した主体」として位置付けられ、その権利が明確にされるべきことは当然としても、事業者と消費者との間の情報・交渉力・経済力等の格差は歴然として存在するのであり、消費者が「自立した主体」であるという位置付けのみが強調され「自己責任」の根拠としてのみ使われるということはあってはならない。また、中間報告は自立した消費者の行動が健全な市場の形成につながるとするが、健全な市場があって初めて消費者の権利の実現が図れるのであって、本末転倒である。
消費者政策の理念はあくまでも消費者の権利の保護ないし擁護でなければならず、それを実現するために法制度の整備が重要である。
(2) 消費者が「自立した主体」として能動的に行動するためには、「消費者の権利」が明確に打ち立てられる必要があり、消費者政策はその「消費者の権利」を擁護し実現する形でなされるべきである。
中間報告は6つの権利を挙げているが、更に、「公正な取引条件及び取引方法による消費者取引を行なう権利」、「消費者団体を組織し行動する権利」も挙げられるべきである。

2 行政、事業者の責務と消費者の役割について
中間報告は、行政および事業者については消費者政策の理念を実現する「責務」があるとするが、消費者については「役割」を果たす必要があるという表現に止めている。
これは、事業者と消費者との間の情報・交渉力・経済力等の格差が歴然としており、消費者は弱者として権利を擁護される立場であることを意識したものであり、間違っても消費者の合理的な行動を取るべき「役割」のみが強調され、消費者の自己責任負担の根拠になるようなことはあってはならない。

第3 消費者政策の展開について

1 消費者の安全確保
中間報告は、〈1〉 安全基準の整備、〈2〉リコール制度の強化、〈3〉 危害・欠陥情報の収集・公表等を改革の方向性として指摘しているが、これらについては評価できる。
但し、危害・欠陥情報の収集・公表については、事業者から行政への報告と行政から消費者への公表が記載されているだけであり、更に、事業者の消費者に対する公表義務などが盛り込まれるべきである。

2 消費者契約の適正化
(1) 中間報告は、消費者契約の適正化を重視し、〈1〉 事業者の情報提供義務、〈2〉 勧誘行為の適正化、〈3〉 競争政策との連携、〈4〉指定商品・指定役務性の在り方、〈5〉 消費者信用の適正化につき検討課題を指摘している。このことは評価すべきである。
これらの指摘の点について消費者契約法等の民事ルールや行政法規等の法整備を進め、実効性のある具体策が講じられるべきである。
(2) 当会としては、各種消費者契約被害や大規模悪徳商法における会員弁護士の取り組み等を踏まえ、上記検討課題等につき、特に下記を指摘しておきたい。
(イ) 勧誘行為の適正化だけでなく、契約条項自体を適正にすることも検討・重視されるべきである。
(ロ) 適用対象の指定制度(指定商品・指定役務・指定権利)につき、中間報告は在り方を早急に検討すべきであるというにとどまっているが、指定制度は廃止されるべきである。
(ハ) 消費者信用の適正化のために、消費者信用取引に関する統一的な法律(仮称「統一消費者信用法」)が早期に立法されるべきである。
同法では、消費者金融取引と販売信用取引を統一的対象として、その内容として、〈1〉 広告・勧誘規制、〈2〉 書面交付義務、〈3〉 クーリングオフ制度、〈4〉 契約条件規制、〈5〉 過剰与信規制、〈6〉 金利の引き下げや貸金業法43条の廃止、制限利率についての民事・刑事規制の統一、〈7〉抗弁権の接続の範囲の拡大、〈8〉カードに関する規制、〈9〉保証契約についての規制、などが盛り込まれるべきである。
(ニ) 消費者被害が多く発生している投機的取引(利殖取引)に関しては、不招請勧誘の禁止や適合性配慮義務を明記した法整備がなされるべきである。

3 苦情処理・紛争解決
(1) 中間報告は、苦情処理・紛争解決が簡易・迅速・廉価に行なわれるべきであると指摘し、その体制の整備を提言している。このことは評価できる。
但し、下記の点が更に強調されなければならず、この点では中間報告は不十分である。
(2) 中間報告は、消費者トラブルが簡易・迅速・廉価に解決されるべきとし、そのためには「裁判制度が消費者にとってより活用しやすいものとなることが必要であり、この観点からの裁判制度の充実と裁判所へのアクセス向上が求められる」とする。
この関連で、今現在、もっとも問題となるのは「弁護士報酬の敗訴者負担制度」導入問題である。
同制度導入の可否については、現在、司法制度改革推進本部の司法アクセス検討会において議論がなされているが、同制度が導入されてしまうと消費者が訴訟を利用して権利を実現し被害の回復を行なうことは著しく困難になる。そもそも訴訟は双方に言い分のある場合に裁判所で解決を図ろうとする制度であるから、訴訟結果は明確ではないことが多い。のみならず、消費者と事業者との間には、情報の質・量及び交渉力、経済力等に格差が歴然として存在しており、このことは、訴訟においても、証拠開示制度等が不十分な現状においては変わることがないから、消費者が敗訴した場合に事業者の弁護士報酬を負担するリスクを負ってまで訴訟を提起することには萎縮せざるを得ない。よって、同制度が導入されれば、消費者は事業者から被害を受けても泣き寝入りをせざるをえなくなり、また立法の不備をただすために訴訟を提起して判例を積み重ね、よりよい立法に結実させるということもできなくなるのである。
このように両面的弁護士報酬敗訴者負担制度の導入は、消費者トラブルの救済において看過できない問題であり、中間報告においても当然強調されるべき論点であった。従って、今後、あるべき消費者政策が議論されるに際しては、両面的弁護士報酬敗訴者負担制度を導入すべきでないとして議論されるべきである。

(3) 中間報告は、仲裁につき、仲裁合意が当事者の訴権を失わせるという重大な効果を持ち、消費者側に不利なものとなることが懸念されるとして、その在り方につき別途検討を行なうとしている。
この点、消費者トラブルにおける仲裁につき、正確な理解を欠いたままでの仲裁合意は、事前合意でも、事後合意であっても、裁判を受ける権利を剥奪することになり、消費者の被害回復にとって大きなマイナスになることが懸念される。従って、消費者と事業者間の仲裁合意の効力については、消費者の正当な権利行使を擁護するための十分な特則が設けられるべきである。
同時に、仲裁機関は公平・中立のものでなければならず、仲裁条項の効果を認める前提として、仲裁機関の設立・運営の適切な基準を設けるべきである。いやしくも事業者主導の機関であってはならない。

第4 消費者政策の実効性確保について

1 行政の推進体制
消費者の権利擁護を根幹とする消費者行政を実現するためには、国は消費者行政の担当部局を産業育成省庁から分離独立させ、統合させるべきである。
地方においても、市町村での消費生活センターの設置だけでなく、都道府県における同センターの一層の拡充が求められるし、また、国民生活センターの機能強化なども急がれるのであって、中間報告の方向は評価できる。

以上