2003(平成15)年10月10日 東京弁護士会 会長 田中敏夫
第一 はじめに |
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ドメスティック・バイオレンス(以下「DV」という)は、男女間の不平等な力関係の存在を容認してきた社会構造に起因する深刻な「社会問題」であり、女性に対する重大な人権侵害ないし性差別である。従前、DVは、一般的には「夫婦げんか」と扱われ、警察や調停委員、弁護士など司法関係者による言動によって、被害者である女性にさらに深い精神的苦痛を負わせることが少なくなかった。被害者自身も、世間体を考えて、多くを語ろうとはしなかったため、DVの実態は潜在化していた。
ところが、1993年12月、国連による「女性に対する暴力撤廃宣言」の採択を契機に、日本でも、1996年に総理府の男女共同参画審議会が「男女共同参画2000年プラン」を発表して女性に対するあらゆる暴力の根絶を重要目標に掲げるなど、女性に対する暴力が人権侵害であることが認識され始めた。そして、次第にDVが社会問題として語られるようになり、2001年4月13日、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(「DV防止法」)が成立し、同年10月13日に施行された。
DV防止法は、DVに対して迅速に対応できる保護命令制度を創設し、従来から事実上被害者の保護を行ってきた一部の婦人相談所に被害者の保護を行う法的根拠を与えるなど、画期的な法律であり、DVの被害者に対する救済の充実に向けて大きな一歩を踏み出したものと評価することができる。しかしながら、同時に、当会が指摘する後述のような問題点も含めて、様々な問題点も学者や実務家から指摘されている。当会では、DVが社会問題視されはじめた1998年からDVに関する調査・研究をし、シンポジウムの開催や相談対応マニュアルの出版をもって、調査・研究の成果を発表してきたが、今般予定されているDV防止法の見直しにあたり、被害者の保護がより充実したものになるよう、以下のとおり意見を述べる。
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第二 総 論 |
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DV防止法第1条(定義)は、同法にいう「配偶者からの暴力」とは、「配偶者(省略)からの身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう」と定めている。この規定からも明らかなように、同法の保護法益は、被害者の生命又は身体の安全である。
しかしながら、現実には、DVの被害は、殴る蹴る等の身体的暴力に限らない。電話や電子メール等で「殺してやる」と告げられたり、被害者のプライバシーや写真を公表するとして名誉や自由への危害を告知され、あるいは被害者が大切にしている財産への危害を告知されるなど、その被害の実態はさまざまである。こうした加害者の言動は、被害者に甚大な精神的苦痛を与えるものであり、被害者は、加害者に対する恐怖感を抱いて外出ができなくなって行動の自由を制限されたり、時にはPTSD(心的外傷後ストレス障害)を引き起こし、身体的変調が顕れることもある。また、他の人に迷惑をかけることに耐えきれず、加害者のもとに戻らざるをえなくなることもある。従って、このような加害者の言動も、身体的暴力と同様、被害者の人間としての尊厳を蹂躙する精神的暴力として、DV防止法の規制対象にすべきであるし、むしろ、このような精神的暴力からの実効性ある救済策がなければ、同法前文が高く掲げている「人権の擁護と男女平等」ひいては憲法が保障する個人の尊重(憲法第13条)ないし両性の平等(憲法24条)は実現し得ない。
また、同法施行以降、DVが絡む痛ましい殺人事件が相次いで発生している。2002年には、横浜市でDVの被害者の両親と連れ子が殺害された事件、福岡県でDVの被害者の姪が人質にされた上で殺害された事件が発生した。さらに、本年7月には、DV防止法による接近禁止命令を受けていた夫が妻の居場所を聞き出そうとして口論になった被害者の知人を殺害した事件が発生した。これらの事件では、DVの直接的な被害者以外の家族らが殺人事件の被害者になったのであり、同法において創設された裁判所による保護命令によってDVの直接的な被害者を保護するだけではDVに対する救済としては不十分である現実が露呈したのである。
このようなDVの実態に鑑み、DV防止法がDVに対する真の救済たりうるためには、同法が被害者及びその家族らの生命・身体の安全や自由をも保護するものであると捉え、その趣旨のもとで、同法を改正した上で柔軟に解釈・運用していく必要があるとともに、被害者を保護すべき施設の充実や、DVを繰り返さないための加害者更生プログラムの受講についても明文化すべきである。
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第三 各 論 |
一 「暴力」の定義 |
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- <意見>
- 「暴力」の定義に、有形力の行使に至らない精神的暴力を含めるべきである。
- <改正条項案>
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(定義)
第1条第1項
この法律において「配偶者からの暴力」とは、配偶者からの身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及び被害者又はその親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫することをいう。
※ なお、「配偶者」の定義については、後述四(1)参照。
- <理由>
- 1 有形力の行使に至らない精神的暴力による被害も深刻であり、また、身体的な被害がない場合であっても、将来身体的被害に至ることが十分予想されるケースもありうる。
また、精神的暴力であっても、例えば、加害者の言動や所作等によって、被害者が監禁状態に陥ったり、行動の自由が極めて制限されたりするのであって、そのような場合にも被害者を保護すべき必要がある。
例えば、多くの場合、加害者は被害者を自分の元に取り戻そうとしてさまざまの手段を行使する。暴力をふるうための直接の接近はなくても、被害者やその家族に、電話やその他の通信手段を通して「戻ってこなければ殺してやる」と述べたり、刃物を送付するなど、被害者自身や被害者の家族の生命・身体に対する危害を告知し、あるいは被害者のプライバシーや写真を公表するとして名誉や自由への危害を告知したり、被害者が大切にしている財産への危害を告知したりするなどして脅迫することがあり、このような場合、往々にして被害者は加害者のもとに戻らざるを得ない状況に追い込まれる。また、無言電話であっても嫌がらせと思えるように頻繁になされるときは、被害者は、加害者が被害者に執着心を抱いて見張っていると受け止め、再び暴力を受けるとの恐怖感を強く抱き、脅迫されているのと同様の状況となる。これらの結果、被害者は外出が出来なくなったり、時にはPTSDなどの症状に陥ったり、また他の人に迷惑をかけることに耐えきれず、加害者のもとに戻らざるをえなくなることもある。かかる状況を考慮すれば、単に生命、身体のみならず、自由をも保護法益とすることが望ましいのであって、保護命令の対象となる「暴力」の範囲を広げる必要性が十分認められる。
2 しかし、他方、精神的暴力の概念が極めて曖昧であることから、これを明確に定義する必要がある。
そこで、刑法の脅迫罪(刑法第222条)にあたる「脅迫」を「暴力」の定義に含ませれば、外延の不明確さは一応取り除かれるとともに、前述のような精神的暴力も一部取り込むことができる。
3 なお、「保護命令」は、加害者の居住・移転の自由、財産権を一定の範囲で制
約するとともに、保護命令違反には刑事罰を課すのであって、居住・移転の自由、財産権等との調整を十分に図る必要がある。
しかし、脅迫罪はそもそも刑法犯であり、脅迫罪の「脅迫」にあたる事実があった場合に被害者を保護すべき必要があることは当然であって、むしろ、かかる措置を講じることが、「配偶者に対する暴力は犯罪となる行為であるにもかかわらず、被害者の救済が必ずしも十分に行われてこなかった」と宣言する前文の趣旨に合致する。
また、「脅迫」を「暴力」に含ませるのであれば、「配偶者に対する暴力は犯罪となる行為である」とする前文を何ら修正する必要がない。
一方、「脅迫」を「暴力」とは別に定義することも可能かとも考えられるが、法は前文にて、暴力の防止、根絶を表明しており、「暴力」に含ませることが前文と整合する。
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二 保護命令の要件・内容 |
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- <意見>
- 1 保護命令の要件として、生命・身体と並び「自由に対する重大な危害を受けるおそれが大きいとき」も保護命令が認められるべきであり、また、接近禁止命令の内容として、脅迫行為等の手段となる「架電・電子メール・ファックスもしくは文書その他の物の送付」も禁止できるようにすべきである。
2 現行の退去命令の期間である発効後2週間は短すぎるので、発効後1ヶ月にすべきであり、また、事案によって弾力的な退去命令も出せるようにするべきである。
3 退去命令と共に、その住居の付近のはいかい禁止を命じるべきである。
- <改正条項案>
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(保護命令)
第10条第1項
被害者が更なる配偶者からの暴力によりその生命、身体又は自由に重大な危害を受けるおそれが大きいときは、裁判所は、被害者の申立てにより、その生命、身体又は自由に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者に対し、次の各号に掲げる事項を命ずるものとする。ただし、第2号に掲げる事項については、申立ての時において被害者及び当該配偶者が生活の本拠を共にする場合に限る。
1一 命令の効力が生じた日から起算して6月間、被害者の住居(当該配偶者と共
に生活の本拠としている住居を除く。以下この号において同じ。)その他の場所において被害者の身辺につきまとい、又は被害者の住居、勤務先その他その通常所在する場所の付近をはいかいすることを禁止すること。
二 命令の効力が生じた日から起算して6月間、被害者に対し架電・電子メー
ル・ファックス又は文書その他の物を送付することを禁止すること。
2一 命令の効力が生じた日から起算して1月間、被害者と共に生活の本拠として
いる住居から退去し、この間その住居の付近をはいかいすることを禁止すること。
二 被害者が居住を継続すべき特段の理由があるため、命令の効力が生じた日ら起算して6月間、被害者と共に生活の本拠としている住居から退去し、この間その住居の付近をはいかいすることを禁止すること。
※ なお、保護命令の対象の拡大については後述四(2)参照。
- <1についての理由>
- 現行法における保護命令である6ヶ月の接近禁止命令と2週間の退去命令の要件は、「生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいとき」となっていて、身体的暴力のみを対象としており、そのため、接近禁止命令では、直接の接近であるつきまといやはいかいを禁止するにとどまっている。
しかし、配偶者暴力において被害の実態はさまざまであり、多くの場合加害配偶者は被害者を自分のもとに取り戻そうとしてさまざまの手段を行使するのであって、その態様は、第1条第1項に関する意見の理由中に挙げたとおりである。
保護命令の目的は、加害者が直接に接近して暴力をふるわなければ足りるというものではなく、暴力の危険から被害者を保護するために夫婦を分離させるところにある。加害者が接近してこなくても、被害者が脅迫されて加害者の元に戻らざるをえないのでは分離の目的が達成されないのであり、この意味で被害者の自由が確保されなければならない。
保護命令は、直接の暴力を禁止するという狭い枠組みにとらわれず、被害者を暴力のおそれからも開放するものであるべきである。
よって、加害者の脅迫行為により被害者の自由に対し重大な危害をうけるおそれが大きいときにも保護命令が出せるよう要件を拡大し、それにあわせて架電やメール等の間接的な接近禁止命令が出せるように改正すべきである。
- <2についての理由>
- 1 現行法上退去命令が定められている実質的な趣旨は、夫婦が共に生活の本拠としていた住居から被害者が他所に転居するにあたって身の廻り品や荷物を持ち出す際の安全確保にあるが、退去命令の効力期間である2週間は相手方への送達又は言渡しにより始まるので、申立人は、その時期を必ずしも正確に確認しておらず、また、異なる環境での生活の準備や種々の手続に追われ、いざ荷物の搬出となったときには2週間が過ぎていることがある。この退去命令については1回限りとなっているので、せめて1ヶ月に期間を延長すべきである。
2 現行の退去命令は、1で述べたように、被害者が荷物を搬出するためのもので、
その後は加害者が住居に残ることが前提になっている。住居の権利関係はその後の離婚手続のなかで決められることになるが、それまでの間、加害者の不利益は最小限に止められているため、退去命令は比較的迅速に定型的に発令されてきたものであり、この利点は極めて大きい。
ただ、生活力のない被害者が住居を出て加害者が残ること自体の当否は別としても、最近では夫婦共有の住居も増え、ときには被害者所有の住居もあり、最終離婚の段階で被害者に居住が認められることが確実と思われるケースもある。また、家族のメンバーの病気や就学状況などにより、被害者と子どもが居住を継続する特段の必要があり、一旦居住が途切れるとその後生活上回復しがたい不利益を受けることが明らかな場合などもありうる。これらのような場合には、加害者に6ヶ月の間退去を命じる退去命令を別途創設すべきである。
また、この2番目の退去命令については、後述三の再度の申立てを可能とすべきである。
- <3についての理由>
- 退去命令が出ても、加害者が当該住居の付近をはいかいしているのでは、被害者としては暴力のおそれから当該住居に出入りするのがためらわれるので、退去命令の効果が減殺される。また、新しい転居先への移転の後をつけられるなどの被害拡大になるおそれがある。なお、接近禁止命令では夫婦の生活の本拠である住居が除外されているので、接近禁止命令と退去命令が同時に発令されていても、退去命令のなかで当該住居付近のはいかい禁止を命じる必要がある。
※ なお、現行法の接近禁止命令の期間(6ヶ月)については、後述三参照。
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三 再度の申立て |
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- <意見>
- 1 再度の申立てにあたり、公正証書の添付を不要とすべきである。
2 退去命令についても、再度の申立てを認めるべきである。
3 保護命令期間満了前に再度の申立てを行うことができることについて、明文化
すべきである。
- <改正条項案>
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(保護命令の再度の申立て)
第18条第1項
保護命令が発せられた場合には、当該保護命令の申立ての理由となった配偶者からの暴力と同一の事実を理由とする再度の申立ては、第10条第1項第1号及び第2号二に掲げる事項に係る保護命令に限り、することができる。
同条第2項(削除)
同条第3項(新設)
前項の再度の申立ては、前に発せられた保護命令の期間満了の10日前からこれを行うことができる。
- <1についての理由>
- 現行法では、保護命令が発せられた後、当初の申立てと同一の事実を理由とする再度の申立てをするためには、・「更なる配偶者からの暴力により生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きいと認めるに足りる事情」があること、・・に関する公正証書の添付が必要であり、当初の申立てと同様に、書面による申立てをし、審尋の手続を経ることになる。しかし、これでは迅速に被害者を保護することはできない。特に、・の公正証書の添付は、その作成に時間も労力もかかり、一刻も早く再度の保護命令の発令を希望する被害者にとって負担が大きい手続要件である。そこで、迅速に被害者を保護するためにも、現行法の再度の申立てにあたっては、公正証書の添付を不要とすべきである。
また、現行法では、接近禁止命令の有効期間は6か月であるところ、その間に離婚等の手続が終わらないことのほうが多いのが通常であることに鑑みれば、保護命令の期間を延長する必要性は高い。従って、再度の申立ての制度によって、実質的に保護命令の期間の延長と同様の効果が得られるような柔軟な運用が望まれる。なお、申立人の請求どおりに再度の申立てが認められた場合、加害者である相手方に不服があるならば、即時抗告(16条1項)によって対応させることとすれば、相手方の手続的保障にも配慮することができる。
- <2についての理由>
- 現行法では、再度の申立てができるのは接近禁止命令に限られ、退去命令については認めていない。しかし、前述二のように、最終的には加害者が住居から退去して被害者に居住が認められることが確実と思われる場合や、被害者と子どもが居住を継続する特段の必要があり、一旦居住が途切れるとその後生活上回復しがたい非常な不利益を受けることが明らかな場合に出されるべき退去命令(第10条1項二)については、その趣旨を没却しないように、再度の申立てを可能にすることによって、被害者と子どもの継続的な居住を確保すべきである。
- <3についての理由>
- 保護命令期間満了前に再度の申立てができるかどうかについては、明文規定がないので、この点を明確にすべきである。例えば、相手方が、期間満了後直ちに申立人に対して暴力を振るうことを表明している場合には、以前発せられた保護命令の期間満了直後に新たな保護命令を発する必要性があるから、保護期間満了前にも、再度の申立てができるようにすべきである。一方で、期間満了までまだ時間がある場合には、相手方からの暴力の危険がなくなるなど事情が変更することもあるので、期間満了後直ちに保護命令が発令されるのに必要な審理の時間を勘案して、およそ10日間前から再度の申立てができるとするのが妥当である。この点、「期間満了日から遡って起算して審理に必要な期間だけ前倒しした時期以降であれば、再度の申立てができるものと思われる。」との意見がある(深見敏正・森崎英二・後藤眞知子「DV防止法の適正な運用を目指して」判例タイムズ1086号48頁)。
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四 保護命令の対象の拡大 |
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(1) 元配偶者への拡大 |
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- <意見>
- 現行法において、保護命令は、既に婚姻関係を解消している場合には申立てができない。しかし、現行法でも「被害者」には含まれているところの「配偶者からの暴力を受けた後婚姻関係を解消した者であって、当該配偶者であった者から引き続き生命又は身体に危害を受けるおそれがある者」については、支援センターの相談や一時保護のみならず、保護命令申立てをもできるようにすべきである。
- <改正条項>
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(定義)
第1条第1項
この法律において「配偶者からの暴力」とは、配偶者からの身体に対する不法な攻撃であって(以下省略)
※ 現行法第1条第1項「配偶者」の定義から括弧書を削除する。なお、「暴力」の定義については、前述一参照。
同条第2項(新設)
この法律において「配偶者」とは、婚姻の届出をした者、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者及び婚姻関係(事実上の婚姻関係も含む。以下同じ。)継続中に被害者に暴力を加え、婚姻関係を解消後も引き続き被害者の生命又は身体に危害を加えるおそれがある者をいう。
同条第3項(旧第2項)
この法律において「被害者」とは、配偶者からの暴力を受けた者をいう。
※ 現行法第1条第2項「被害者」の定義から括弧書を削除する。
- <理由>
- 1 婚姻関係を解消したとはいえ、元配偶者との関係は、単なる男女関係とは異なり、配偶者に準じた特別な関係であるということができ、保護命令の原因となる暴力が生まれる土壌が共通する面がある。
2 また、元配偶者とはいっても、保護命令申立てと同時期に離婚する場合があり、愛憎関係等や事情に差がない場合もある。
3 婚姻の届出をしていない事実婚夫婦の場合、暴力から逃れて別居すると婚姻関係にあるといえるかどうか曖昧になるが、引き続き危害を受けるおそれがあれば保護の必要性があるのであり、内縁関係継続の判断を厳密にする必要はない。
4 離婚後の年数に関係なく、全ての「元配偶者」とすると範囲が拡大するが、「婚姻関係継続中に被害者に暴力を加え、婚姻関係を解消後も引き続き被害者の生命又は身体に危害を加えるおそれがある者」とすることにより、保護命令が現に必要な元配偶者に限定されることになる。
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(2)子どもへの拡大 |
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- <意見>
- 保護の対象が被害者のみであることによる問題点がかねてから指摘されてきたが、本年7月、ついに、接近禁止命令を受けた夫が妻に会うために知人を殺害する事件が発生した。保護の対象を配偶者以外にも拡大する必要性は緊急を要するものである。そこで、一定の要件のもと、保護の対象を被害者の子、親族その他被害者と一定の関係がある者に拡大すべきである。
- <改正条項>
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※ 第10条に以下のような第2項、第3項を加える。
第10条第2項(新設)
前項第1号に掲げる事項については、被害者の保護のため必要と認められる事情がある場合は、申立てにより、被害者の子、親族その他被害者と一定の関係がある者に対して命ずることができる。但し、被害者の子を除く親族その他被害者と一定の関係がある者に対して命ずる場合は、その者の生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが著しく大きい場合に限る。
同条3項(新設)
前項の規定により子についての適用が認められた場合であっても、子の福祉のために特段の事情があるとして面接交渉権を家庭裁判所が認めた場合はこの限りではない。
- <理由>
- 1 被害者に未成年の子どもがある場合、被害者は、子どもを連れて避難するのが通常であるが、加害者が自由に子どもへの接近ができるとすると、子どもの学校で待ち伏せなどし、被害者の居所を聞き出される危険性がある。
2 加害者が、子どもに対しては暴力をふるわない場合でも、母親が暴力を振るわ
れるのを目撃していると、子ども自身も心に大きな傷を負い、成長に大きな影響を及ぼす。そのような場合、子どもも加害者を怖がっていることが多い。
3 成人して独立した子どもがいる場合、加害者は、被害者を探し求めて、子ども
の家に押し掛けたり、乱暴な行動をとることも多い。そのような場合、子どもの家庭も大きな被害を受け、被害者自身がいたたまれなくなってしまう。
被害者の援護をしてきたのが親族や友人等であった場合、加害者はそのような援護者を逆恨みしたり、居場所を聞き出そうとして押し掛けることがある。被害者は、人に迷惑をかけられないという意識から、保護環境から自ら離脱せざるを得なくなる。
4 上記のような規定の仕方をすることにより、裁判所は、当該事件の事情に即し
て適用の対象を具体的に判断することができ、対象を制限したことで最も危険な者が保護対象からはずれる不都合を回避することができる。一方、裁判所の厳格な判断を求めることで、必要以上に範囲が拡大することを防ぐことができる。
5 子どもの年齢が低い場合、加害者に面接交渉権が認められると、子ども自身も
傷つくだけでなく、被害者が立ち会わざるを得なくなるが、DV防止法にこのような条文を置くことで、面接交渉をさせない具体的根拠条文となりうる。
一方、子どもが有する親との面接交渉権を他の親が一方的に制限する結果となり、子の福祉を害する場合も考慮せざるを得ない。子の福祉については、調査官など専門家の揃っている家庭裁判所の判断が優先すべきであるが、子どもに対しても接近禁止命令が出せれば、面接交渉権を家庭裁判所が判断する際の重要な要素として意味がある。
6 子どもが未成年の場合、子ども自身も申立権者とすると、共同親権の問題があ
り、また、友人等にまで保護対象を拡げた場合、個々に申立権を認めるのでは、余りにも拡がり過ぎ、加害者の人権を侵害する危険性もある。そのために、申立権者は被害者に限るが、保護の対象を裁判官の裁量で拡大できる規定の仕方により、加害者の人権に配慮しながら被害者の保護を実質的なものにすることができる。
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五 一時保護施設(シェルター)に関する問題 |
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- <意見>
- 国及び地方公共団体が被害者及びその同伴する家族の一時保護施設(シェルター)の拡充・援助をすることについて、明文化すべきである。
- <改正条項>
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第25条の2第1項(新設)
国及び地方公共団体は、被害者及びその同伴する家族の一時保護施設を拡充しなければならない。
同条第2項(新設)
国及び地方公共団体は、被害者及びその同伴する家族の一時保護施設を行う民間の団体に対し、必要な援助を行うものとする。
- <理由>
- 1 DVの被害者を真に救済するためには、シェルターの拡充が急務である。しかしながら、シェルターの現状として、数の不足(1996年に民間のシェルターが満室で入室できなかった女性が、夫に暴力を振るわれて死亡に至った事件が発生した。この事件はシェルターの絶対的な不足を物語るものと言えよう)、その前提として財政難等の問題点がある。逆に言えば、財政支援の必要性、設置(ハード面)や専従職員(ソフト面)の拡充の必要性、各種機関との連携の強化の必要性、運用の強化の必要性(例えば、子ども連れの場合、年齢や性別による制限があるなど)があることは明白である。他方で、法治行政下にあって、まず法定されなければ、国及び地方自治体によるシェルターの設置や民間シェルターに対する財政支援等といった被害者保護の措置は具体的に講じられようがない。したがって、法定の必要性は十分に存する。
2 他方、現行法下の他の規定、例えば、第2条(国及び地方自治体の被害者保護
の責任について)は、国及び地方自治体の責任の総論的な規定にすぎない。そこで、国及び地方自治体の責任の「具体的な」内容として、シェルターを設置・拡充すべき旨及び民間シェルターに対する援助をすべき旨を明確にする規定を置くべきである。
3 なお、現状に鑑みると、「シェルターはそもそもやむにやまれぬ状況から設置
してきたものであって、被害に遭った女性が自宅から逃げることを前提とするのは不合理である」といった見解は、現実を看過しているものといわざるをえない。
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六 加害者対策 |
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(1)教育・啓発について |
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- <意見>
- DV防止に関する教育及び啓発を国及び公共団体の義務として定めるとともに、義務教育段階から、DV防止に関する教育を必修とすべきである。
- <改正条項案>
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(教育及び啓発)
第24条
国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力の防止に関する国民の理解を深めるための教育及び啓発に努めなければならない。義務教育諸学校においては、配偶者からの暴力の防止に関する教育を必修とする。
- <理由>
- 加害者は、意識的であれ無意識的であれ、男性が女性に優越するという男性優位の考え方を持ち、女性を支配し服従させるのが当然と考える傾向にある。DVを防止し、被害者を保護するためにはDV防止に関する教育、啓発を国及び公共団体の義務と定めるとともに、上記のような男性優位の考えが刷り込まれる前の義務教育段階から、子どもたちに、男女は平等であり、優劣の関係にないこと、DVは人権侵害であり犯罪であることを子どもたちに正しく理解させる必要がある。
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(2)罰則について |
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- <意見>
- 保護命令に違反した者が刑の執行を猶予された場合は、必要的に保護観察に付されるべきである。
なお、今後の課題として、保護観察中、加害者に何らかの更生プログラムを受講させる制度を創設することが望まれる。
- <改正条項案>
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(第6章 罰則及び加害者更生プログラム)
第29条2項(新設)
前項の執行を猶予された場合においては、猶予の期間中保護観察に付す。
- <理由>
- 保護命令違反で刑の言渡しを受けても執行が猶予されれば、加害者は自由を拘束されないから、被害者の安全を確保する措置が必要となる。また、加害者は執行猶予を無罪判決に準じたものとしか捉えないおそれがあり、執行猶予付き有罪判決のみによっては加害者の反省、改善は必ずしも期待できない。そこで、保護命令違反であるが刑の執行を猶予された場合は、必要的に保護観察を付し、被害者の安全を確保するとともに、加害者の改善、矯正を図る必要がある。
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以上 |
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