東京弁護士会

多数被害者のための犯罪被害財産返還制度を求める意見書

2005(平成17)年6月7日

東京弁護士会
会長 柳瀬 康治
第1 意見の趣旨
犯罪被害財産を多数の被害者に公平かつ迅速に返還するための、適正な手続を新たに設けるべきである。
第2 意見の理由
1 現行法制度の欠陥
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下、「犯罪収益規制法」という)第13条2項、16条1項但書は、犯罪収益等が犯罪被害財産(「犯罪行為によりその被害を受けた者から得た財産または当該財産の保有若しくは処分に基づき得た財産」をいう)の没収及び追徴を禁止している。その趣旨は、被害者の原状回復を優先させて被害者保護を図ることにある、という。*1
*1 三浦・松並・八澤・加藤「組織犯罪対策関連三法の解説」(新法解説叢書16)144頁
しかし「被害者の原状回復を優先する」と言っても、そのための制度的な手当てはなされていない。現行法では、一人一人の被害者が、自分で犯罪行為者に対し、民事訴訟を提起するしかない。
だが、「ヤミ金融」「振り込め詐欺」のように、広く市民社会を標的とする組織犯罪の場合、被害者が自分で犯罪行為者に対して民事訴訟を提起するのは極めて困難である。すなわち、(1)もともと「背後の大物」との接点がないため、自分が当該事件の被害者であることさえ知らない*2*3。知ったとしても、(2)報復を恐れて提訴に踏み切れない。踏み切ったとしても、(3)犯罪組織の実態を解明し証拠を収集するような手段はなく、刑事記録の閲覧・謄写に依存せざるを得ない。そうすると費用がかかるので、(4)自分の被害額と照らし合わせて「費用対効果」を考えれば躊躇せざるをえない。費用を厭わず提訴するなら、(5)多数の被害者が同じ手続をそれぞれに行うことになるから、社会的にはきわめて非効率的である。
*2 山口組五菱会によるヤミ金融事件では、「ヤミ金の帝王」と呼ばれた統括経営者は配下に数百店舗をおさめ、数万人もの被害者から数千億円もの金銭を違法に取り立てさせていたと言う。しかし被害者は、末端のヤミ金融店舗を知っていても、それが「帝王」系列の店舗であるかどうかは知らされていない。公訴提起の対象とされた被害案件はほんの一握りである。従って、数万人もの被害者は、今でも自分が五菱会ヤミ金融事件の被害者かどうか知らない。そもそも訴訟を起こすかどうかを選択する以前の状態に置かれているのである。
*3 さらに「振り込め詐欺」事件の場合、事態はいっそう深刻になると思われる。ヤミ金融事件の被害者は、末端店舗の店名ぐらいは覚えているから、後になって自分と事件との接点を見出す手がかりになる。しかし「振り込め詐欺」事件では、例えば「息子の名前を騙って電話してきたあの男」という記憶の残り方でしかない。振込先口座が手がかりとなるが、銀行は口座名義人の情報を教えてくれないし、犯人が検挙されても口座情報が公表されるわけではない。公訴提起の対象とされた一握りの被害案件を除いて、せっかく犯人が検挙されても、圧倒的多数の被害者は、自分がその被害者だと知らないままに放置されることが懸念される。
このように、犯罪組織が多数の被害者から莫大な犯罪収益を得ている事件には、被害者が一般的な民事訴訟によって被害回復を図ることを著しく困難にさせる構図がある。被害回復がなされず、そして没収・追徴も許されないとすれば、莫大な犯罪収益が犯罪組織の手許に戻ってしまう。「犯罪被害の回復もできず、犯罪収益の剥奪もできない」ことは、現行法制度の欠陥であると言わざるを得ない。

2 違法収益剥奪と平等な被害回復のための試み
被害者が多数で個別的権利行使が困難な消費者被害事件において、当会会員を含む多くの弁護士らは、破産管財人あるいは被害対策弁護団などの立場で、破産手続を通じて、違法収益の吐き出し及び平等な被害回復を図ろうと努めてきた。豊田商事事件、KKC事件、和牛預託商法事件、法の華福永法源天声・足裏診断商法事件、八葉物流事件、ジー・オーグループ事件など、その例は枚挙にいとまがない。
だが破産手続は、支払不能や債務超過を手続開始原因としており、把握された犯罪被害財産だけでなく、犯人のすべての積極財産を超える被害が存在することを証明しなければならない。支払不能や債務超過になければ、そこに犯罪被害財産があっても、破産手続は開始できない。破産手続は、犯罪収益の剥奪・犯罪被害財産の返還に特化された制度ではないから、きわめて「重たい」手続なのである。

3 まとめ
以上のとおり、個別の民事訴訟や破産手続だけで犯罪被害財産の集団的回復を図ることは限界があるから、犯罪被害財産を多数の被害者に対し、公平・簡易迅速に返還するための適正な手続を、新たに設けるべきである。それは例えば、以下のような方法が考えられる。
ア 犯罪被害財産をいったん没収したうえで被害者に分配する方法。
イ 犯罪被害財産を基金に入れ、基金が被害者に分配するという方法。
ウ 新たに設置する独立行政委員会が犯罪被害財産の確保・分配を行うという方法。
エ 裁判所が犯罪被害財産の分配手続の開始を命じ、財産管理人(弁護士)を選任して、被害者の掘り起こし、届出債権の調査・換価・配当手続を行わせる、という方法。
以上
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