東京弁護士会

消費者団体訴訟制度に関する意見書

2005(平成17)年7月7日
東京弁護士会
会 長 柳瀬 康治

第1 はじめに

 当会は、平成17年6月23日付けの国民生活審議会消費者政策部会において承認された「消費者団体訴訟制度の在り方について」(以下、単に「報告書」という。)について、以下のとおり意見を述べ、消費者被害の発生・拡大防止に実効性ある消費者団体訴訟制度が早期かつ確実に立法化されるよう、要望する。

第2 意見の趣旨

1 差止めの対象について
(1) 差止めの対象とすべき実体法には、民法96条(詐欺、強迫)、民法90条(公序良俗)、民法1条2項(信義則)、借地借家法の契約条項に関する強行規定(16条、21条、 30条、37条)を加えるべきである。
(2) 差止めの対象とすべき事業者の行為につき、「消費者『全体』に対して影響を及ぼす可能性がある」ことは、ことさらに要件とすべきでない。
(3) 不当な契約条項の使用「推奨行為」についても、差止めの対象とすべきである。

2 適格消費者団体の要件について
適格消費者団体の要件については、不当な訴権濫用の防止という本来の趣旨を超えて、必要以上に厳格な要件を課すべきではない。
(1) (1)不特定または多数の消費者利益の擁護を定款上または事実上の目的とし、(2)過去に1年以上の継続的活動実績を有し、(3)100名以上の構成員を有することを要件とすれば足りる。
(2) 団体の独立性に関しては、営利事業者からの独立性のみが確保されれば足り、非 営利事業者(NPO法人、消費者団体、弁護士等)からの影響力排除までは不要である。
(3) 適格団体に対する事後的担保措置については、その自立性及び団体訴訟制度の活用を阻害しないよう、必要最小限のものにとどめるべきである。

3 訴訟手続きの在り方について
「報告書」が、既判力の範囲、同時複数提訴の可否につき、特段の措置を不要としている点は、賛成である。
しかし、以下の点については、反対であり、改めるべきである。
(1) 裁判管轄には、被告の本店所在地のみに限定することなく、差止めの対象となる行為が行われ、行われるおそれがある地も含めるべきである。
(2) 紛争の蒸し返しや同時複数提訴による事業者の過重な負担の懸念等を理由として、訴えの提起を認めない仕組みを導入することは、慎重な検討が必要であり、安易に導入すべきではない。
(3) 事業者との事前交渉につき、通知を義務化することは、反対である。
(4) 濫訴防止を理由とする訴えの提起自体を認めない制度は、慎重な検討が必要であり、安易に導入すべきではない。

4 制度の実効性を高めるための方策
行政が以下のような環境整備を積極的に行う必要がある。
(1) 国民生活センターや地方自治体の消費生活センターが、訴訟提起に必要な相談情報等を適格消費者団体に提供するシステムを、法令で定めるべきである。
(2) 消費者被害の発生・拡大防止に資するために、差止判決等の裁判所から国民生活センターへの情報提供制度を設けるべきである。
(3) 適格消費者団体が弁護士などの専門スタッフを確保でき、専門家の紹介を受けられるような体制を確保すべきである。
(4) 適格消費者団体に一定の要件のもとに補助金を支給すべきである。
(5) 適格消費者団体の行う訴訟を、民事法律扶助、消費者保護条例に基づく訴訟援助の対象とすべきである。

5 損害賠償請求等について
少額多数被害の救済及び違法行為の抑止という目的を達成するために、損害賠償請求や不当な利益の吐き出しの両面から、引き続き、緊急に検討すべきである。

6 特商法・独禁法ならびに景表法についても、早急に、消費者団体訴訟制度の導入を検討すること

第3 意見の理由

1 基本的視点
近年、少額多数被害を特徴とする消費者被害が著しく増大しているが、我が国の司法制度の現状では、消費者個人が少額の被害回復を求めて訴えを提起することは、決して、容易ではない。
そのため、消費者の泣き寝入りを強いることになり、それがかえって、事業者の不当な行為を助長し、被害が拡大する傾向にある。
かかる現状をふまえて、平成12年4月、消費者契約法制定に際し、衆参両院はその附帯決議において、紛争の最終的な解決手段である裁判制度が消費者にとって利用しやすいものとなるよう、団体訴権について検討すべきであるものとし、司法制度改革推進計画(平成14年3月閣議決定)においても、団体訴権の導入を検討すべきであるとした。
当会は、「報告書」について、以下のとおり意見を述べ、消費者被害の発生・拡大防止に実効性ある消費者団体訴訟制度が早期かつ確実に立法化されるよう、要望する。

2 差止めの対象とすべき事業者の行為について
(1) 差止めの対象とすべき実体法
(1)差止めの対象とすべき実体法につき、消費者契約法を基本とすることは賛成である。
(2)本来、消費者保護に資する法令違反行為を広く対象とすべきものであるが、少なくとも、民法96条(詐欺、強迫)、民法90条(公序良俗)、民法1条2項(信義則)、借地借家法の契約条項に関する強行規定(16条、21条、30条、37条)は対象に加えるべきである。
そもそも、違法性がより強いと考えられる民法上の詐欺・強迫の要件に該当する場合や公序良俗に違反する場合であっても、消費者契約法の不実告知等の要件に該当しなければ差止めを認めないというのでは、本末転倒である。
この点、「報告書」は、消費者契約法以外の民商法の規定まで盛り込むかどうかにつき、「これらの規定を本制度の対象とするかどうかは、その規定(要件)の具体性・明確性をふまえ、慎重に検討する必要がある」と消極的な態度を示している。
しかしながら、民法は消費者契約法の一般法であり、詐欺・強迫については要件の明確性を欠くものではなく、公序良俗違反の行為や、消費者契約法10条では差止の対象にならない民法1条2項(信義則)違反の行為についても、消費者契約法との比較において、要件は、自ずと、具体化・明確化されるものと考えられ、差止めの対象から外す理由は見当たらない。
また、借地借家法は、広い意味での民法であり、同法の契約条項に関する強行規定につき、差止めの対象とすべきは当然である。
(2) 差止めの対象とすべき事業者の行為についての基本的考え方
(1)「報告書」は、消費者団体訴訟制度は「消費者『全体』の利益を擁護するため」一定の消費者団体に差止請求権を認める制度である以上、差止めが認められるのは、「事業者の不当行為が、消費者『全体』の利益に影響を及ぼす可能性がある場合」であるとする。
(2)しかしながら、本制度は、消費者被害の発生・拡大防止を企図して創設される制度であり、「消費者『全体』に対して影響を及ぼす可能性がある」ことを要件とすることは、制度運用の実効性、柔軟性を奪うことになりかねず、賛成できない。
『全体』性をことさらに強調にするとなると、被害拡大防止の必要性があるにもかかわらず、未だ1回限りの不当勧誘行為や、不当な契約条項が少数の限られた範囲でしか用いられていない場合等に、差止が認められないことになりかねず、被害の拡大を見なければ本制度を行使できないというのでは、極めて不合理な結果を招くことは明らかである。
消費者の『全体』性をことさらに強調して、被害救済に遅れをとることなど、断じて、あってはならない。
(3) 具体的に差止請求の対象とすべき行為について
不当な契約条項の使用ならびに不当な勧誘行為につき、差止めの対象とすることは賛成である。
それに加えて、不当な契約条項の使用「推奨行為」についても、差止めの対象に含めるべきである。
「報告書」は、「推奨行為」は、主体や推奨の程度がさまざまであることに加え、その取り扱い如何によっては事業者団体による自主的なルール作り等への萎縮効果をもたらすおそれがあること、推奨された不当な契約条項を使用する事業者に対して差止請求をすることが可能であることをもって、慎重に検討すべきと消極的な態度を示している。
しかしながら、消費者団体訴訟制度は、消費者被害の発生・拡大防止をはかるために、導入されるものである。推奨された不当な契約条項を実際に使用した段階で差し止めれば足りるなどというのは、本制度の制度趣旨に真っ向から対立するものであり、到底、首肯しうるものではない。
また、事業者団体への萎縮効果という側面については、事業者団体による不当な契約条項の差止めを求めるだけであるから、事業者団体の自主的なルール作りへの萎縮効果をもたらすものとは考えられない。
現に、使用推奨行為の差止は、ドイツ、フランス、イギリス等、諸外国で広く取り入れられており、その必要性は既に実証済みであるし、「報告書」が懸念するような事態は、寡聞にして見いだし得ない。

3 適格消費者団体の要件の在り方について
「報告書」によれば、適格消費者団体の要件として、(1)法人格を有していること、(2)定款等における団体の目的に消費者全体の利益擁護が掲げられていること、(3)相当期間継続的に活動が行われている必要があること、(4)事業者からの独立性がはかられていること、(5)一定の組織運営体制、人的基盤、財政基盤を有すること、(6)反社会的存在の排除が示されている。
当会としては、消費者団体が本制度を有効に活用できなければならず、不当な訴権濫用の防止という趣旨を超えて、必要以上に厳格な要件を課すべきではないとの観点から、以下のとおり、意見を述べる。
(1) 団体の目的
「報告書」では、「消費者利益の擁護」が「団体の定款等」に掲げられていることを要求している。
しかしながら、定款に「消費者利益の擁護」を目的とすることが掲げられていなくとも、団体の活動の実態が消費者利益の擁護を目的としていれば足りるとすべきである。
たとえば、「報告書」では、「団体の構成員の相互扶助を目的とする法人は適格消費者団体の対象から除外すべきである」として、生活協同組合が除かれる結果となってしまっている。
団体構成員の相互扶助とは言っても、我が国における生協構成員の人数は、2000万人余という全人口の2割程度にものぼる。そのため、事実上は一般消費者の利益を代表していることは否定できないところであり、歴史的にも消費者問題に対する取組みについて、多大な貢献をしてきた実績のある組織である(灯油訴訟、食品添加物問題への取り組み等)。
(2) 団体の活動実績
「報告書」では、適格団体の要件として、主たる活動が継続的に行われていることが必要とされている。
これは、訴訟提起だけを目的としてその間だけ団体の外形だけを作出するような濫用事例を想定しての要件と考えられる。
この要件に関しては、新しい消費者団体を本制度の利用から除外しないため、「相当期間」を必要以上に長期に設定すべきではない。
1年程度の活動実績を要求すれば、必要・十分である。
(3) 団体の規模要件ならびに人的基盤・財政基盤・組織運営体制等
「報告書」によれば、団体の構成員数よりも、むしろ「人材の確保、情報収集、分析体制、独自の事務局といった体制面」、「当該団体の行っている事業活動の内容(受益範囲や規模等)」等が「重要な指標となる」として、団体が訴権を適確に行使するに足るだけの、(1)組織運営体制(理事会、情報収集体制、検討部門、独自の事務局、情報管理、情報開示、内部監査の措置等)、(2)人的基盤(消費生活相談員、弁護士、司法書士等)、(3)財政基盤(活動に要する支出見込みの算定、それに見合う確実な収入の見通しによる健全な財政運営)、が要求されるとしている。
しかしながら、我が国における既存の消費者団体の実態を踏まえる限りは、初めから多くを求め過ぎており、同制度の活用を著しく阻害する過大な要求となりかねない。このような実態から乖離した要件を設定するのではなく、たとえばドイツの制度などでみられるように、構成員の人数要件のみを求めれば足りる。
構成員の人数については、構成員の総数が100名以上であることをもって足りる(日弁連2005年3月18日付け「あるべき消費者団体訴訟制度に関する意見書」同旨)。
(4) 事業者からの独立性
「報告書」は、「当該団体が特定の事業者や事業者団体等の影響下にある場合、事業者の不当な行為に対して十分な対応を期待し得ない、競合する事業者に対する不当な訴えが提起されるおそれがある」として、事業者等からの独立性を要件にすべきとしている。
しかしながら、非営利事業者(NPO法人、消費者団体、弁護士等)の場合には、かかる弊害が生じることは、ほとんど想定できないことから、非営利事業者まで排除する必要はないと考えられる。
(5) 事後的担保措置等
「報告書」は、(1)一定の有効期間経過の後に当初の審査基準を再審査することによる更新制を設け、(2)事業報告書の提出や報告徴収、立入検査、改善命令、適格団体の資格取消等の措置を執ることができるものとし、(3)事業活動や活動資金について情報公開・開示を行い、その裏付けとなる帳簿の備え付けを義務付け、虚偽記載についてはペナルティ措置を設けること等を提案している。
しかし、(1)を除くこれらの担保措置は、「報告書」がいう差止請求制度を前提とする限りは、通常のNPO法人程度以上の厳しい監督に服する合理的必要性に乏しく、また、適格消費者団体における活発な活動を阻害する危険があるので、設けられるべきではない。
さらに、「報告書」は、適格消費者団体の責務規定・行為規範を法令等に明らかにするとともに、個々の団体において、事業規定等、明文の規定を策定すべきであるとしているが、これらはいずれも、適格消費者団体の自主性にゆだねられるものであり、法令によって規制することは、適格消費者団体の自立性を害し、本制度の活用を阻害するものであり、不要である。

4 訴訟手続の在り方について
(1) 管轄について
裁判管轄を、事業者の普通裁判籍に限定することは、反対である。
差止め請求の対象は、不当約款や不当な勧誘行為の差止めであり、これらの差止め が抽象的に行われることはほとんど考えられず、実際に約款が使用され、勧誘行為が行われた場合に行使されることになる。
そのような場合に、現に違法な勧誘行為が行われている地では差止め訴訟を提起できず、事業者の普通裁判籍でしか訴訟を起こせないとすることは、適格消費者団体に過重な負担をかけるものであり、少額多数被害救済の実効化のための制度とは言えない。
不当な勧誘が行われている地の消費者が、さらに被害に遭おうとしているときに、その地で、どのような勧誘が行われたのかを明らかにし、今後、同様の勧誘が行われないようにするためには、行為地に裁判管轄を認めるのが合理的であり、必要性が高い。
他方、事業者は、差止めの対象となる行為を行った地で営業をしているのであるから、その地で裁判が行われることについて、特別な負担を強いることにはならない。
事業者の普通裁判籍に限定する場合の不都合は、極端な例を挙げれば、事業者が普 通裁判籍のある地では、不当な勧誘行為を行わず、他の地域で不当な勧誘行為を行う場合を想定すれば、容易に理解できる。
したがって、裁判管轄については、事業者の普通裁判籍のほか、差止め対象となる行為が行われている地などにも認めるべきである。
(2) 適格消費者団体相互の関係について
(1)蒸し返しの懸念について
「報告書」は、紛争の蒸し返しの懸念を理由として、一定の不適切な訴えの提起を認めない仕組みを導入すべきであると述べている。
制度の具体的な内容は明らかにされていないが、いずれにしても、このような制度は民事訴訟法上前例のないものであり、また、以下に指摘するような問題点もあるので、安易に導入すべきではなく、導入の可否を判断するに当たっては、これらの点を慎重に検討・考慮する必要がある。
まず、本制度においては、消費者団体訴訟を提起できる適格団体について、活動目的や活動実績、さらに事業者からの独立性、反社会的団体でないことの調査を含めて適格要件を定め、それを行政による事前審査、事後的担保措置などによって担保することになっているので、「不適切な訴え」が提起されるおそれが大きいとは考えにくい。また、通常の手続においても、仮に訴えが不適切であれば、請求は速やかに棄却されるところ、このような制度を導入した場合、「不適切な訴えかであるか否か」という新たな争点を生み出すことになり、却って紛争をいたずらに複雑化しかねない危険性がある。
(2)同時複数提訴について
同時複数提訴についても、「報告書」は、他の適格消費者団体による訴え提起によって、事業者に過重な負担が生じるのでないかとの懸念から、所用の措置について検討する必要があるとする。
特に、裁判管轄について、上記のとおり、事業者の普通裁判籍の他に、差止め対象となる行為が行われている地などにも認めると、事業者の負担が大きいと主張されることになろう。
しかし、以下に述べるように、事業者に生じる負担は、事業者において甘受すべき負担であって、同時複数提訴について、特別な措置を設ける必要はない。
ア 事業者が差止め対象となる約款の使用や勧誘行為を行う地で裁判が行われるのであれば、そこは、事業者が事業を展開している場所であるから、事業者に特に重い負担となるわけではない。
反対に、同時複数提訴を制限することは、現実に違法勧誘行為が行われている地の適格消費者団体に対し、理由もなく、過重な負担を強いることになる。
イ 現状でも、同一の事業者が全国に多数の被害者を出す事件では、各地の裁判所に訴訟が提起され、審理され、各地で判決が出されている。それらの裁判が、必ずしも、同一の判断をしているわけではないが、このことについて、特に問題とされていない。各地の裁判所の判断は、いずれ、最高裁判所で収斂することになる。
ウ 裁判実務では、双方当事者及び裁判所は、他の裁判所の進行状況などを把握しながら進行を協議するし、移送の申立制度などを使い、裁判所の適切な処理も可能である。
(3) 事業者との事前交渉
通知することを明文をもって義務化することには、反対である。
不必要な規制である。
(4) 不適切な訴えの提起に対する措置
「報告書」は、「制度の濫用防止に万全を期す観点から、不当な目的でなされる訴えについては、その提起自体を認めない仕組みにする必要がある」としているが、本制度固有の問題ではなく、訴訟一般について随伴する問題であり、ことさら、本制度に導入すべき理由は見出しがたい。
そもそも、不当な目的でなされる訴えについて提訴自体を認めないという仕組みは、 不当な目的かどうかについて争点となり、いたずらに紛争を複雑化するだけである。
また、不当な目的が、何を指すのかも不明であることから、慎重に検討すべきであり安易な導入には反対である。

5 制度の実効性を高めるための方策について
(1) 総論
「報告書」は、制度の実効性を高めるための方策として、情報収集力、人材、財政基盤等を備えるため、まずは適格消費者団体が自主的な取り組みを行う必要があるとした上で、差止請求権をより行使しやすくするための環境整備を図ることが求められるとしている。
しかし、自主的な取り組みをことさらに強調しすぎると、いきおい行政による取り組みがおろそかになる恐れがある。
行政もまた、積極的に環境整備に努めていくことが必要である。
(2) 情報面における環境整備
(1) 相談情報等の情報提供
適格消費者団体が制度の目的にそって訴訟を提起するためには、消費生活センターや国民生活センター(以下、「センター」という。)の保有する消費生活相談情報等(以下、「相談情報等」という。)が迅速に適格消費者団体に提供されることが必要である。
しかしながら、現行の情報公開制度では、到底、不十分であり、適格消費者団体がセンターから相談情報等の提供を受けやすくするために、適格消費者団体からの照会にセンターが回答するシステムを法令で明確に定めることが必要である。
そのシステムにおいては、現状の情報公開制度に基づくセンターによる情報開示の場合よりも、開示条件を緩和し、開示情報を広くすべきである。適格消費者団体は、先述した一定の適格要件を満たしたものとして認められた団体であり、個人に対する情報開示の場合よりも情報が濫用されるおそれは少なく、その場合と全く同様に処理するべきではないからである。
(2) 判決等の情報提供
適格消費者団体の活動を消費者被害の発生・拡大防止につなげるためには、差止め判決の内容等をできる限り多くの消費者に周知させることが必要である。
そこで、裁判所が、まずは国民生活センターに差止判決、訴えの提起、和解等の情報を提供し、そこに情報を集める仕組みを創設すべきである。その上で、差止判決等についても、適格消費者団体からの照会に国民生活センターが迅速に回答するシステムを定めることが必要である。
(3) 人材面における環境整備
「報告書」では、国民生活センターが実施する研修を活用することを提言しているが、人材確保のためには、研修だけでは不十分である。
適格消費者団体が訴訟を提起するのに不可欠な、弁護士などの専門スタッフの紹介制度、外部の専門家の紹介制度を創設することなどをさらに検討されたい。
(4) 資金面における環境整備
(1)「報告書」は、適格消費者団体が十分な財政基盤を有していることが必要であると
しながらも、適格消費者団体自らが財政基盤を確保する方策を例示するだけで、行政による財政支援策については何も提示していない。行政としては、情報面、人材面における支援を行うとともに広報・啓発活動を行うとのみ述べている。
しかし、会費や寄付金だけでは、適格消費者団体が期待される活動を維持することは難しい。
したがって、行政が資金援助を行うべきである。
(2)資金援助の方法としては、一つには、行政が一定の要件を満たす適格消費者団体に補助金を支給することである。
但し、補助金の支給がなされたために適格消費者団体の自主性が損なわれないような配慮が必要である。
(3)もう一つは、適格消費者団体が消費者団体訴訟を提起する場合にも、民事法律扶助や消費者保護条例の訴訟援助の対象とすることである。

6 消費者団体訴訟による損害賠償請求等についても引き続いて緊急に検討し、早期実現を目指すこと
「報告書」は、損害賠償請求権について、「少額多数被害救済のための手法については、消費者団体が損害賠償等を請求する制度以外にも様々な手法が想定され」、「実際、こうした観点から、選定当事者制度の改善がなされ、司法アクセスの改善など、個人が訴えを提起することに伴う困難性そのものを改善しようとする具体的な施策が講じられつつある」から、「上記のような手法の展開を十分に注視し、その上で、同制度の必要性も含めて、慎重に検討されるべきである。」とするに止まっている。
しかしながら、「報告書」がいう差止め請求だけでは、被害の発生・拡大防止に資するにしても、違法な行為を行った事業者には何のペナルティもなく、差止め以前に獲得された不当な利益は保持されることとなり、団体訴権による違法行為の抑止の機能が十全とは言えないし、多数かつ少額の被害を受けた消費者の救済にも資するところがない。
したがって、消費者団体による消費者全体の被害に対する損害賠償制度や事業者の不当利益を剥奪する制度(ドイツ不正競争防止法は、消費者団体による事業者の不当な利益の剥奪請求権を認めている。)を検討すべきである。
この場合、事業者が支払う金員の支払先は、消費者団体以外の第三者機関等が想定される。
なお、「報告書」のいう民訴法の選定当事者制度の改正は、従来の適用範囲をわずかに広げたに過ぎず、実際改正法施行から7年以上が経過するが、同制度が消費者被害の救済に効果的に利用された事例は見当たらない。
また、その他の司法アクセスの改善とされる制度にしても、絶えず新しい問題を惹起し、専門化・高度化する消費者問題の分野に対して十分に対応できるものとは考えられない。
結局、消費者被害の特有の「広く浅い」被害が、これらの個別的救済制度によって十分に救済されることは到底期待できないのであり、消費者団体自体が主体となって前記のような損害賠償請求をなし得る制度づくりが是非とも必要であると考える。
昨今の消費者被害の激増傾向に鑑みれば、このような被害回復・抑止機能を持った制度の導入を、喫緊の課題として検討すべきであり、その旨、消費者契約法の附則に明記すべきである。

7 特商法・独禁法ならびに景表法についても、早急に、消費者団体訴訟制度の導入を検討すべきこと
「報告書」においては、消費者契約法を基本とするにとどまっている。
独禁法、景表法上の団体訴権については、今次の独禁法改正における附帯決議、平成17年消費者保護基本計画において、平成19年までに公正取引委員会において検討すべきこととされている。
特商法については、司法制度推進改革計画において、検討すべきこととされ、また、今日の消費者被害の大半を特商法関係が占めるものであることに鑑みれば、消費者被害の発生・拡大防止のためには、同法違反行為の差止め請求が不可欠であり、早期導入が望まれる。
特商法、独禁法ならびに景表法についても、早急に消費者団体訴訟制度を導入すべく、関係各省庁において、引き続き、検討を行うべきである。

以上
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